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【書評】『東京バンドワゴン ハロー・グッドバイ』小路幸也(小説)

(作品の内容を含みますので、少しでもネタバレしたくない方は
 ぜひ作品を読んでからお越しください)

17作目である。
「東京バンドワゴンシリーズ」は、もう17作目なのである。
・・・彼らと共に、私は17歳、年を取ったということになる。
1年に新刊が1冊出て、登場人物も一つずつ年を重ねるという作品だからこそ生まれる味わいだ。
そして何より、継続して書かれているからこそ起こるミラクルである。

この物語は東京の下町にある「東京バンドワゴン」という一風変わった名前の古本屋(カフェも併設)を営む一家、
堀田家に巻き起こる騒動を中心として描かれている。
堀田家には現古本屋の店主である勘一、その息子でロックミュージシャンの我南人がなと、その3人の子供たち(藍子、紺、青)、またその子供たち、という主に4世代が暮らしているが
それ以外にも近隣の人から、学校の友達から、ひょんなことで知り合った人から、犬・猫まで、それはもう沢山の人(動物)が出てきて
せつない、辛いこともありつつ、まるで一つの家族のように助け合い、愉快に前を向いて進んでいく物語である。
そして、関わり合う人たちは今も増え続け、表紙裏の人物相関図はますます混迷を極めている。
ファンとしてはまずもってそれが楽しい。

語り部は、すでに亡くなったおばあちゃん(勘一の奥さん)。
毎回、おばあちゃんの一人語りで始まって、大家族の朝食風景と飛び交う会話があって、さて、事件が、という展開なのだが、
その度に「さてさて、また始まるぞ」とにやつきながら読んでしまう。
おばあちゃんが特定の人にだけ話せたり、見えたりするのもよい。

17年も経つと、登場人物もそれだけ年を取った。
(4年に一度、番外篇が挟まるので、ちょっとずつずれてはいく。
 この番外篇も、堀田家の過去を掘り下げてくれるので嬉しい)
家にじっとせずに走り回っていたミュージシャンの我南人は割と家にいるようになったし、
その息子の紺は作家に、更にその息子の研人はあれよあれよと言う間にじいちゃん譲りのミュージシャンになってしまった。
また、今作では勘一の妹同然のかずみちゃんの病が進んでしまい、大女優の池沢さんがかずみちゃんと一緒に住む決断をしたり
藍子の旦那さん、マードックさんのお父さんが亡くなったりということも起こる。
ずっと堀田家を見守ってきた読者としては、新しい輪が広がる楽しさも一緒に感じることができれば、
これまで親しくしてきた登場人物の老いや別れも、共に経験することになる。
それを彼らと共有できる感覚が、好きだ。

私は、物語世界をまるまる一つ作り上げるという力を、常々すごいことだ、と思っているのだけど
それはスターウォーズばりに生命体から度量衡まで考えてしまう規模でも
この堀田家の物語のように一家族のお話でも、同じだと思っている。
作者の小路さんは一昔前のテレビの「ホームドラマ」を目指されているようで、
昔そうした「ホームドラマ」を観ていた世代としては
ああ!確かにこんな「ドタバタ、ほろり。お節介!」な世界だったな、と懐かしくもなる。

長く続いている物語だが、1冊ごとに完結したお話としても読めるので
気になったタイトルから手に取って、堀田家の皆さんを知っていただけたら、とても嬉しい。
私もまた、次の1冊をわくわくと待ちたい。
                    (2022/4 集英社)

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