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(寂しさと諦めの向こうに遠藤は)

寂しさと諦めの向こうに遠藤は、安寧の場所があったと思った。
下降していく慣れたタワーマンションのエレベーターに居心地のよさをみた。切り出された別れは辛かったけれど、時間が経てば思い出せぬほど消えてしまうことを知るくらいは生きていた。

              太陽の瞬きが月の嘘を暴く時
              晒された生身の心は開き直るしか
              時間と空間が自在だと証明されても
              胡散臭いメソッドを売るくらいしか

遠藤はB1まで降り、マンションから直結する地下のモールを駅へと歩く。
途中、ブックストアの店頭、積み上がった村上春樹の新刊をみた。彼の本を読んでも、幸福にはなれない、と彼女が言った夜があった。
やれやれ、と遠藤は呟こうとして止めた。

            雫が集う惑わせの夜明けの時分
            高く昇りきる頃干上がるものしか
            皺を刻んだ水墨画は古さをまとって
            知識を失った振りをと言うしか


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