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M&Aで良く使われるマーケットアプローチは、マーケットを参考にしていない?【M&A日記】

M&Aにおいて、EV/EBITDA(イーブイ、イービッター)マルチプルという評価方法がよく用いられる。

評価には3つの大枠がある。
コストアプローチという企業の純資産をベースにしたもの。
インカムアプローチという企業の収益をベースにしたもの。
そして、マーケットアプローチという類似企業を参考に評価するというもの。

大枠の中に具体的な評価方法がいくつかあり、EV/EBITDAマルチプルはマーケットアプローチの内の一つ。

EV/EBITDAマルチプルの計算方法はここでは省くが(計算方法が知りたい方は「評価によく使われるEV/EBITDAマルチプル、何故よく使われる?【M&A日記】」にて)、上場企業なら開示されている資料を基に計算することが可能だ。

例えば外食最大手のゼンショーのEV/EBITDAマルチプルは2024年3月15日時点で14.4倍。
日本マクドナルドは同日で13.6倍。
抽出できた外食企業93社の、同日付倍率の平均は18.6倍。

マーケットアプローチというのは、上場している類似業種の指標を参考値にしようということ。
なので、外食企業の譲渡なら業界平均は18.6倍なので、そのままいけば18.6倍を参考値に評価しようということになる。
あるいは、ハンバーガーチェーンなら、マクドナルドの13.6倍を参考にしよう、という感じだ。

では、実際に現場でこのような18.6倍とか13.6倍というような倍率で評価がなされるというと、なされない。
外食業なら多くの企業が3倍前後。
収益性が高かったり、チェーンとしてブランドが確立していたり、規模が大きかったりという特異な要素があるとこの倍率は上がるが、めったに見られないような、もの凄く良い条件だとしても10倍ぐらいが限界。

市場を参考にするという評価方法なのに、市場の倍率よりもだいぶ評価が小さくなるのは何故か。

合理的に説明するならこの3つ。
1.株式の非流動性
2.上場維持コスト
3.希少性・固有性

1.上場企業は株式に流動性がある、即ち売りやすい。
非上場株式はその逆で売りにくい、というよりほぼ売れない。
換金しやすいほうが良いので、そこには評価差が生じる。

2.上場企業には上場維持のためのコストがかかっている。
一般論として年間5千万円~1億円ぐらいのコストが発生すると言われる。
比較するなら同条件であるべきで、その分だけ倍率が下がる。

3.上場するのは簡単ではない。
そこに至っているということは、同業他社と比べて秀でたビジネスモデルがあったり、高い収益性があったりするからで、それを非上場企業と同列に比較することはできない。
なので、その分だけ評価差が生じる。

こんなイメージだ。
とはいえ、諸々を加味するとしても、なんで3倍前後なの?と具体的に3倍という数字に至る経緯を説明しろと言われると、できない。
答えるならば、それぐらいで買っている会社が多いから、というぐらい。

なので、実態としては上場企業の指標を参考にしているというよりは、M&A市場を参考にしているというほうが正しい。
それぐらいで買えれば、投資回収や失敗時のリスクなども考えて、投資目線に入ってくる、という具合。

そうすると、それって結局マーケットアプローチじゃなく、コストアプローチとかインカムアプローチじゃん、となるが、そういうことなのだと思う。

要するに、評価に絶対的なものはなく、いろいろな考えを踏まえながら、許容できる範囲でリスクをとっていくという決断をしてきた結果として、今の相場が出来上がったと理解している。

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