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【毎年8月10日~12日】野生のヤギを「王」に? アイルランド最古級の奇祭

ヤギの三日天下

 アイルランド南西部ケリー州にある田舎町キログリン(Killorglin)では、毎年8月10日から12日にかけて「パック・フェア(Puck Fair)」というお祭りが催される。アイルランドでは天下の奇祭として有名らしい。

 どんな祭りかというと、近くの山から野生の雄ヤギを捕まえてきて、三日間だけ王位に即けるというものである。王として戴冠したヤギは、櫓の上部にある「玉座」から町を統治し、お祭りの終了後に山に帰される。

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「玉座」と称するケージに監禁されるヤギ。
この状態が三日間続く。(1939年に撮影?)

2013年の記事。「王」にふさわしいヤギを見つけて、
三年間かけてなだめていた男性を特集している。

 むろん、お祭りはヤギを「王」に仕立ててそれでおしまいというものではない。初日には伝統的な馬の見本市、二日目には動物や宝石などの見本市が開かれる。その他にもコンサートや花火大会などの各種の催しが繰り広げられるのである。

 毎年10万人以上の観光客が見込まれ、その経済効果は推定700万ユーロ(約8億5000万円)と、地域経済への貢献は絶大なものがあるようだ。

祭りの起源は?

 パック・フェアは、少なくとも400年以上の歴史を有する、アイルランドで最も古いお祭りの一つである。あまりにも古すぎて、その由緒は明確ではないのだとか。

 一説によると、昔のケルトの収穫祭「ルーナサ(Lughnasadh)」の名残だという。キリスト教伝播前の「異教」に由来するもので、ヤギは実り豊かな収穫の象徴として祝われているという見解だ。

 その一方で、このような物語も伝えられている。

 時は17世紀。オリバー・クロムウェル率いるイングランド軍が、キログリンを目指して進軍していた。これに遭遇した野生のヤギの群れのうちの一頭がキログリン付近に逃げた。ひどく怯えている、疲れ果てたヤギを見て、地元の人々は敵襲を悟り、防衛態勢に入った。そしてキログリンの人々は、危機を知らせてくれたヤギに感謝するためのお祭りを生み出した。

 おそらく、アイルランドの長きにわたるイングランド(=イギリス)への反抗を背景に生まれた伝説であろう。アイルランド人の愛国心をくすぐるためか、最も人気がある説になっているようだが、史実としてはありえないともいわれる。

 パック・フェアは、すでにイングランド王ジェームズ1世による1613年の憲章の中で言及されている。よって、遅くともクロムウェルのアイルランド侵略(1649年~1653年)の前にはすでに開催されていたと考えられるのだ。

少女が「王妃」に

 このお祭りでは、伝統的に地元小学校の最高学年の女の子が「王妃」を務める。「王妃」には、ヤギに戴冠するという重大な役目が課せられている。報じられるところによると、選ばれることを夢見て地元の少女のほとんどが王妃コンクールに応募するのだとか。

 お祭りの内容は数百年間ほとんど変わっていないと考えられているが、この「王妃」に関しては、1948年に創られた比較的新しい伝統であるようだ。

動物愛護家からの批判

先述のように、ヤギの王はケージに入れられた状態で三日間を過ごす。これについては、動物虐待だという動物愛護家からの非難もある。

 狭いケージの中に閉じ込められることも、お祭りの喧騒の中に置かれることも、人工の光に照らされることも、野生動物にはストレスが大きいからやめるべきだという批判だ。

 なお、主催者側はこのような批判に対して、ヤギの安全と幸福のためにあらゆる注意を払っていると反論している。

 もし今後アイルランドを8月に訪れる予定がおありの方は、ぜひキログリンの町まで足を運んでみてはいかがだろうか。この記事を読んで「ひどい動物虐待だ。許せぬ」と感じた方には全くオススメできないが。

 上記は、パック・フェアの公式ウェブサイト
なんと、次回の開催日まで、秒単位でカウントダウン中
FacebookInstagramTwitterYouTubeもやっているようだ。

 2019年、運営委員会はお祭りを続けていくために資金援助を呼び掛けた。

第一次世界大戦時のアメリカのポスターで募金を呼び掛ける
パック・フェア公式Instagramアカウント。

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