子どもから大人に移り変わる少年少女の淡い恋心……樋口一葉の『たけくらべ』①
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9月第1作目には、樋口一葉の長編小説、『たけくらべ』を取り上げます。
樋口一葉といえば、五千円札になった女性として、国民全体にその存在が知られているはずの方です。
一方で、お札で顔は知っているけど、実は彼女の作品を読んだことがない、という方も多いのではないでしょうか。
近代日本でも数少ない女性職業作家となった樋口一葉の代表作。
この機会にぜひご紹介していきたいです。
『たけくらべ』――子どもから大人に移り変わる少年少女の淡い恋心……
樋口一葉【1872~1896】
【書き出し】
廻れば大門の見返り柳いと長けれど、
お歯ぐろ溝に燈火うつる三階の騒ぎも手に取る如く、
明けくれなしの車の行来にはかり知られぬ全盛をうらなひて、
大音寺前と名は仏くさけれど、
さりとは陽気の町と住みたる人の申(もうし)き……
【名言】
【あらすじ】(前編)
吉原界隈の住人の多くは遊郭に関係する職に就き、その子供たちも、幼いころから、「花街」という独特の世界の影響を受けていた。
子供たちは、鳶の頭の息子で十六歳の長吉を中心とする「横丁組」と、長吉より三歳年下で、金貸しの田中屋の息子、正太郎(正太)を中心とする「表町組」の二つの組に分かれて対立していた。
優位に立ちたい長吉は、龍華時の和尚の息子、信如を味方につけようとする。
秀才の信如が加われば、横町組に人気が集まると考えたのだ。
信如は、「だって僕は弱いもの」と言うが、長吉が「弱くてもいい。名だけ横町組としてくれれば、何もしなくて良い」と頼み込むので、信如は、しかたなく横町組に加わることになった。
妓楼の大黒屋の寮に住んでいる美登利(みどり)は、十四歳の勝気な美少女だ。
姉の身売りをきっかけに、家族そろって故郷の紀州から吉原に移住してきた。
両親は遊郭で仕立や会計の仕事をしており、姉の大巻(おおまき)は、今では人気の花魁(遊女)となっている。
姉の人気のおかげで、美登利はお小遣いをたくさんもらっており、友達全員にゴム毬を買ってあげたり、店のおもちゃを買い占めたりするなど、豪快な振る舞いをしていた。
次の夏祭りには、雑貨屋の筆屋を貸し切って、みんなで遊ぶことになっている。
いずれは姉と同じ遊女になる運命の美登利だったが、今はまだその辛さ、苦しさは理解しておらず、華やかさだけが目に留まっていた。
八月二十日の祭りの日、筆屋で正太ら十二人の子供たちが集まったが、美登利は化粧に時間がかかって、なかなかやって来ない。
正太が夕食のために一度、家に帰っているとき、入れ違いに美登利が筆屋に現れた。
そうして、みんなで遊んでいたところ、長吉率いる横町組の連中が現れ、横町組から表町組に寝返ったとして、三五郎を打ちのめし始める。
美登利が「三ちゃんに何の罪がある。正太さんと喧嘩がしたければ、正太さんとしたらよい、憎らしい長吉、恨みがあるなら私が相手になる」と罵ると、長吉は「女郎め、姉の跡つぎの乞食め」と泥草履を美登利の額に投げつけた。
そして、「こちらには、龍華寺の信如がついているぞ」と言い捨てて、横町組の連中は走り去っていった。
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