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外資系翻訳あるある・言語が違うと語順が違う(ことがままある)

前回のつづきです。

日本でオンラインの Apple Store が開設されたのは 1999 年の 2 月。自分はこの立ち上げに深く関わっていました。(この話はまたいつか別の機会に触れてみたいと思います…。)アップルで Apple Store のフロントエンドシステムとして使っていたのは、WebObjects という自社製品で構築されたシステムでした。日本語へのローカライズでは、アップルでは"IS&T"と言われるIT部門とがっつり組んで仕事し、ストアのUI、コンテンツ翻訳、製品仕様などのカタログ情報翻訳、そして画像のローカリもすべて私が一人でやったのでなかなか頑張ったんじゃないかと思います…。

製品仕様については英語版の元データがあるので基本それを訳していけばいいのですが、WebObjects ってダイナミックにウェブページを生成するので、ウェブサイトコンテンツの訳の大部分は細切れの言葉だったのです。例えば、

Your Order Number is W1234.

という文言があったとします。これを日本語に訳して、と言われたら

あなたのオーダー番号は W1234 です。

と簡単に訳せます。しかし、実際に訳して、と頼まれるのは以下のような内容なのでした。

Your 

Order Number 

is

.

上記の並びで見れば、ああ、これが文章になってるのね、とわかりますが、実際にはこれがバラバラに並んでいたりするのです…。文全体ではなく、単語であったり、いくつかの言葉のまとまりであったりするものを訳すのです。

えーと、"Your"は、あなたの、かな。"Order Number"はオーダー番号だろう。まあ、それはいい。

"is" は、ん〜、「です」かな。". " は「。」

で、上記の回答をして、「日本語版のページできたので、チェックしてみて」と言われて確認すると、日本語の表記はこうなってしまっています。

あなたのオーダー番号 です W1234。

!!!

まさか、ですが、元の文章を分解して、その構成要素をそれぞれ直訳して、そのまま組み合わせたもの。

これがまさに私が最初に経験した衝撃。

もちろん、これは初めの一歩であって、そこから変更を加えていかなくてはいけないことは US の IT チームの人たちも理解していたわけですが、いやー、これは気の遠くなるような作業になるなと思いましたよ、さすがに…。

上に書いた例は、当然ながら膨大な量の翻訳のほんの一部。実際にどこに表示されているのかもわからない文言を訳す作業なわけです。(これ、製品 UI のローカリでもよく起こること。製品のどこに表示されるのかがわからない状態で訳すのは適切な訳かもわからないし、本当に苦痛です。)

そこで自分は翻訳の中に数字を入れる、という技を編み出しました(というほどのことでもないですが(笑))。そして、自分が訳した言葉がどこに表示されるかを確認できるようにしたのです…。

上の例で行けば、

Your = あなたの1

Order Number = オーダー番号2

is = です3

. = 。4

などと訳しておくと、実際のページには

あなたの1 オーダー番号2 です3 W1234 。4

と表示させることになり「ああ、ここに表示されてるのね」というのがわかるようになるわけです。その上で、

「is を、オーダー番号の変数と . の間に移動させてくれ」などと依頼するわけです。そうすると、

あなたの1 オーダー番号2 W1234 です3。4

となり、Order Number の訳を「オーダー番号」ではなく「オーダー番号は」にして、数字をとれば

あなたのオーダー番号は W1234 です。

と無事完成するわけです。この繰り返しで、表示したい文章がだんだんできてきます。

しかし別の障壁がありました。WebObjects はとっても賢いため、同じ言葉を別の場所で使ってくれたりするのです。例えば、先ほどの Order Number。別のところでは

Order Number:W1234

などと表記されます。先ほどの文章で Order Number を「オーダー番号は」と訳してしまったため、

オーダー番号は:W1234

と表示されてしまったりするわけです…。今となっては、先ほどの例で出てきたほうの Order Number のあとに日本版では「は」を追加してもらったのか、あるいは、Order Number: W1234 と表示されるほうでは別の言葉として登録してもらったのか、どう解決したのかは忘れてしまいましたが、こんな地道な方法で日本語版へのローカリを進めていきました。

文全体が見えない、どこに表示されるのかわからない…、こうした状況で訳を行っていくのは、至難の技です。そして、ソフトウェア製品 UI のローカリ、ウェブサイトのローカリでは多くの場合日々起こっている問題です。



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