地中美術館の思い出
小代焼中平窯の西川です(^^)
今回は、私が大学生時代に友人たち数名と訪れた瀬戸内国際芸術祭について書いていきます。
…と、言いましても、もう10年ほど昔の事ですので、記憶もかなり危ういです 笑
まぁしかし、10年経っても記憶に残っている出来事ということは、私にとって本当に大切な出来事だったのだろうな~と、肯定的に捉えています。
瀬戸内国際芸術祭
瀬戸内国際芸術祭とは瀬戸内海の島々で開催される現代アートの国際芸術祭です。
展示の範囲は岡山・香川の両県に跨っている大規模な展示会です。
トリエンナーレ形式で、第1回の2010から3年ごとに開催されているそうで、私は大学2年生の第2回・2013年の芸術祭へ同級生達と泊まり込みで伺いました。
大学2年生で窯芸室(当時の佐賀大学の陶芸ゼミ)を専攻していた私ですが、現代アートを含む美術・芸術全般に興味がありましたので、とても楽しみにしていました。
実は陶芸の世界にもインスタレーションと呼ばれる現代美術寄りの表現方法がありまして、何かを制作する上でのヒントはないかと探していました。
ちなみにインスタレーションを簡単にご説明しますと、空間芸術という意味です。
普通、美術館でブロンズ像などを鑑賞する場合、そのブロンズ像のみを作品と認識しますよね?
インスタレーションでは、その像単体ではなく、像が置かれた空間そのものを作品として認識し、鑑賞者がその空間を体験します。
しかし、良い意味で、私は陶芸でのインスタレーションを諦めることになります。
瀬戸内国際芸術祭で出会ったいくつかの作品が、あまりに素晴らしかったのです。
個人的にはクリスチャン・ボルタンスキー氏の『心臓音のアーカイブ』という作品がお気に入りでした。
なかなか難しい注文ですが、可能ならあの空間を1人で貸し切ってみたいものです。
あの瞬間に、
「あ…、僕は…、陶芸ではこの土俵で勝てないな…。」
と、はっきりと自覚することになりました。
「粘土」「乾燥」「焼成」という制約のある陶芸では、素材や色彩やサイズを縦横無尽に駆使するインスタレーションの世界では勝負にならないと分かりました。
それは同時に、私が陶芸に専念する切っ掛けとなりましたので、今になって思うと非常に良い体験となりました。
地中美術館
地中美術館は2004年に建設された美術館です。
瀬戸内の景観に配慮して、建物の殆どが地下に埋設されたユニークな設計です。
美術館では、クロード・モネ、ジェームズ・タレル、ウォルター・デ・マリアの作品が安藤忠雄氏による設計の建物に恒久的に展示されています。
地中美術館では地上からの自然光を取り入れ、1年を通して作品や空間の表情が刻々と変わります。
陶芸関連の美術館では大阪の藤田美術館が心に残っていますが、現代アートの美術館ではこの地中美術館とリ・ウファン美術館が心に残っております。
美術館という箱の中に適当な作品を入れるのではなく、作品に合わせて美術館という箱が設計されていました。
ウォルター・デ・マリア
ウォルター・デ・マリア氏は1935年アメリカ・カリフォルニア州生まれの芸術家です。
彫刻家として出発されてようですが、様々な芸術分野で幅広く活動されました。
彼の作品は地中美術館にも収蔵されており、巨大な黒い球体を中心に、左右に金箔を施した木彫が設置されています。
まるで世界の真理を表しているかのような、とても荘厳な空間でした。
勿体ないことに、私は何気なくウォルター・デ・マリア氏の展示室へ入ってしまい、今でもそのことを悔やんでいます。
一呼吸整え、心を落ち着けた上で、あの空間と対峙するべきでした。
クリスチャン・ボルタンスキー氏の『心臓音のアーカイブ』部分でも書きましたが、可能であればこの空間を貸し切りにして、1人で存分に堪能したいものです。
ただ、個人的には左右の木彫は不要だったかな~とも感じました。
中央の黒い球体のみで、既にあの空間は完成していたようにも思います。
まぁ、これは私の個人的な好みですが…(^^;
ジェームズ・タレル
ジェームズ・タレル氏は私が大好きな現代アーティストのお一人です。
ジェームズ・タレル氏も幅広く作品を作っていらっしゃいますが、代表作と言えば光そのものをアートとして提示する作品群でしょう。
地中美術館では、ジェームズ・タレル氏の代表的シリーズの中から選ばれた3作品を鑑賞することができます。
地中美術館の作品も安定の素晴らしさでした。
ひょっとしたら、現時点で私が一番好きな現代美術家かもしれません。
ちなみに熊本市内にある現代美術館でもジェームズ・タレル氏の作品が設置してあります。
具体的に言いますと、本が沢山ある空間の天井が、ジェームズ・タレル氏の作品です。
熊本の現代美術館へは度々展示を見に伺っていますので、その度に天井を見上げています。
モネの部屋
いや~、クロード・モネの部屋は本当に素晴らしかったですね~!
展示室に入った瞬間にため息が出る程でした。
絵画の為に計算し尽くされた空間でした。
普通の美術館に絵画が展示してある様子とは、確実に一線を画します。
(※他の美術館を悪く言いたいわけじゃないですよ…!)
床に敷き詰められた小さな大理石も、他の美術館では見られないものでした。
クロード・モネ自身はあくまで画家として、平面作品を描かれたのでしょう。
しかし、この地中美術館内に展示される事によって平面作品は空間芸術となり、一つの世界感が完成されていました。
調べたところ、どうやら2025年も瀬戸内国際芸術祭が開催されるようです。
来年時間があれば、12年ぶりに瀬戸内へ再び訪れてみたいな~と考えています(^^)
2024年6月18日(火) 西川智成
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