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母校の奈良先端大と文科省の職員経験を通じて、今だからこそ学生に伝えられること|文部科学省 草田善之さん

大学院を修了して、母校である、奈良先端科学技術大学院大学(以下、奈良先端大)に就職した草田さんは、その後、文部科学省に移られて仕事をされています。奈良先端大や文部科学省で働くことになった経緯、学生を支える側になって伝えられる、学生時代にやるべきことなど、なかなか聞けない学校に関わる仕事も併せて、詳しくお話を伺いました。

草田 善之  (バイオサイエンス研究科 博士前期課程2010.3修了)
奈良先端科学技術大学院大学では、大腸菌の挙動に関する研究に取り組む。博士前期課程修了後、奈良先端科学技術大学院大学に入職。入職後は科学技術研究費に関する業務を担当。その後、文部科学省での研修を経て転籍、現在は高等教育局で高専全般を担当している。

新卒で奈良先端大の職員として採用された経緯

最初は奈良先端大の職員として就職しましたが、実は、元々公務員志望ではありませんでした。本当は食品関係や製薬関係の研究系の民間企業を受けていて、なかなか就職活動がうまくいかない日が続いていた時に、たまたま知人から、国立大学の職員採用試験のことを知り、チャレンジしてみたところ、結果的に、母校に採用していただきました。時期としては、M2の夏頃に、公務員の筆記試験があり、当時は大学職員の試験が例年より少し遅れて、秋頃に合格の発表がありました。その時、他の企業からも内定をいただきましたが、人作りも面白いかもしれないと思い、教育分野を選択して今に至ります。本当にたまたまで、何かの導きだろうと思っていて、色々な人のご縁もあり、この進路も何か意味があると思いながら、日々暮らしています。

就職活動について今振り返れば、しっかりとキャリアシートを書いたつもりでも、やっぱり企業の方は見抜く、「この人は違うな」と分かると思います。仕事の経験を積んできて、当時の自分を採用しない理由は分かります。しっかりと自己分析、客観力、文章を書く力等を養わないといけなかったことは反省点ですね。

大学職員の仕事の面白みと、学んだ大事なこと

奈良先端大に就職して最初は、教員等のための科学技術研究費(科研費)の学内における申請書類の取りまとめや受け入れ、大学の共同研究や寄附金の受入業務をさせていただきました。バイオの研究であれば、⁠バイオの分野の知見はゼロではないので、どんな研究をしているのか、新しい取り組みなどをみるのが、面白かったですね。

大きく解釈すると、人作りだなと思っています。大学の教員等の研究支援を通じて、学生の研究の一環も手伝っているという実感がありました。バイオ、情報、物質の3つの領域がありましたので、様々な先生からお話を伺いながら、取りまとめていきました。

また、今の仕事に通じるかもしれませんが、まず会って話してみることはとても大事だったと思っています。ビジネスでも同じですが、メールだけのやり取りで、凄くぶっきらぼうな文面だったとしても、会ってみると、実はそうではなかったり。face to faceで、相手の顔を見て、「どう考えているのか」、「この人はこのラインで結論を求めているから、自分がどこまで行けるのか、落とし所はどこだろう」と。今の仕事も色々な利害関係の調整をしているので、大学の中でこのように考えながら仕事ができたことは、非常に勉強になりました。

文科省への転籍のきっかけとなった研修

文科省と国立大学の間で研修制度があり、国立大学に所属しながら文科省で1年間、研修生として勤務させていただきました。その後、国立大学の職員が文科省に転籍する制度(転任試験)を利用し、文科省の職員として奈良先端大から移りました。

研修生の時に、国の仕事をさせていただいて、凄く面白かった実感がありました。具体的に携わっていたことの一例ですが、日本では博士課程に進学する学生が少ないですが、どうすれば進学する学生を増やせられるか、理系の女子学生を増やすにはどうしたら良いのかに取り組ませていただきました。

もちろん一つの大学で、ずっと働くことも良いですが、国の場合、日本全体の大学を支える仕事ができます。研修生時代の配属先は理系の高等教育方針を検討する部署に所属させていただき、その仕事を通して、国の仕事が面白いと思ったことが転籍した理由です。

文科省における業務内容

現在は、高等教育局で大学等の高等教育行政の仕事をさせていただいています。部署の異動も多いのですが、これまでは、新しく大学や学部を新設する時の申請、審査に関連した業務をさせていただきました。具体的には、大学として学生を指導できる教員体制が整っているのか、教育カリキュラムは養成する人材像にふさわしく、体系的に構築されているのかなど、大学設置基準等の法令に抵触していないかなどを確認していました。その他にも、MBAや法科大学院等の専門職大学院の部署で仕事をして、今は高等専門学校(高専)を担当しています。

高専を良くするための仕事の楽しさ

これから新しく大学や高専が組織再編等を経て生まれかわろうとしている時に、書類を見ながら、「この学校はどういう風な将来を辿っていくのだろうか」、「今この計画は本当に計画通り、進むのだろうか」、構想に対して、より良い学校に繋がっていくように大学学校関係者と一緒に考えて、取り組んでいる時は楽しいですね。

担当として国立高専をよく見ているのですが、業務の一つとして、国立高専を運営するための1年間の予算を確保するために、財務省との予算折衝や、国立高専とこれから行う教育プログラム等を一緒に相談しながら決めています。他にも、学校運営での学生等のトラブル対応、高専に関する国会対応で答弁書類を作ったり、高専に関心を持ってもらった国会議員等に高専の説明をしたりなど…。文部科学省の中には、大学を担当する部署は色々とありますが、高専を専門的に担当する部署は私のところしかなく、高専に関係することは幅広く対応しています。

日々、忙しいですが、とりあえずやってみる。少しずつでも新しいことに取り組めば、できることはどんどん増えます。なるようになるし、何とかするという精神で毎日仕事に取り組んでいます。高専については、本当に何でも任されているので、そういう意味では、とても伸び伸びと仕事をさせていただいています。

高専は魅力ある特殊な場所

高専は日本独自の優れた高等教育機関です。15歳の中学校卒業直後から、5年間の専門的な技術者教育を施す教育機関は、海外を見渡してもあまり見当たりません。高専生は5年間で、大卒相当の技術を身に付けるため、ひたすら勉強に打ち込んでいます。高校生の3年間と異なる、じっくり5年間かけて勉強に取り組める環境を支援できることが面白いです。高専の現場を視察すると、高専生はちゃんと部外者にも挨拶を返してくれます。贔屓目かもしれませんが、本当に皆さん礼儀正しい学生が多いと思っています。こういう日本の将来を担う学生のために、仕事を頑張ることは、凄くやりがいがあると思っています。高専生は本当に技術を持った良い学生達がたくさんいるので、是非、社会や企業の皆さんに、もっと知ってもらいたいです。

働く上で大事にしていること

働く上で大切にしていることは、とりあえずやってみることです。様々な状況があって、できない時は残念ながら調整することはありますけれども、なるべく仕事は断らないようにしています。新しい仕事をすれば、どんどんできることが増えていくと思っているので、好き嫌いせずに何でもやってみようという気持ちで取り組んでいます。あとは、「なるようになる、何とかする」の精神ですね。また公の仕事なので、利害関係は気を付けるようにしています。

再び大学で働く目標に向かって

ずっと目標にしていることが一つあって、元々、奈良先端大に就職した経緯もあり、今は文科省に来ていますが、ここでの勤務経験を生かして、いずれはもう一度大学の現場で働きたいと思っています。大学が受け入れてくれるかどうかになりますが、可能であれば、いつかは奈良先端大をはじめとする大学の現場を引っ張っていきたいと思っています。

現役の奈良先端大生へのメッセージ

研究に悩むこともあるし、就職もうまくいかないこともあるかもしれませんが、必ず未来は開けます。良いことは必ずあるので、一生懸命大学院で勉強して、それを自分の糧にしていただきたいです。

私は、研究も就活もうまくいかない時期が長く続いてしまい、学校にもなかなか行きづらくなってしまった時期がありました。でも、大学院を修了できたことで、今があると思います。そういう意味で、後輩に伝えるとしたら、就職がうまくいかない時もあるし、研究がうまくいかない時もあるかもしれないですが、必ず何とかなる、ということは伝えたいです。研究する学生は目の前に集中しすぎて、視野が狭くなることがあるので、自分の人生にはたくさんの可能性があるし、もし研究が駄目でも、多様な道があると、強く言いたいです。

それから、研究だけでなく、人間関係をうまく構築することをとても大事にしてほしいです。自分1人で研究できる範囲は狭いですが、色々な人を巻き込むことで、様々な大きなプロジェクトが進められることになると思うので、大学院の生活の中で、人の巻き込み方を少し意識してもらえると嬉しいです。

学生の立場だからできる、横や縦、斜めの繋がりを本当に大事にしてほしいと思います。文科省に来て、様々な人と関わるようになって、世間は狭いと感じているので。

奈良先端大を目指す学生へのメッセージ

奈良先端大は学部がない大学院だけの大学のため、新しい人間関係を構築できることは、大きな強みで、そういった環境に飛び込むことは自分の人生のチャレンジにもなります。また、研究する環境が非常に充実しているので、自分がやりたいと思えば、何でもできる大学です。ぜひ一つ選択肢として、検討していただきたいですね。

奈良先端大の研究生活で印象に残っていること

研究室の雰囲気は、よく言えば、学生の自主性を伸ばす、悪く言えば、放任でしたが、それが良かったという気はします。何でも自分でとりあえずやってみて、その結果、駄目なら指導教官に相談して、ディスカッションしながら、研究を進めていました。

ラボの仲間と夜遅くまで実験したり、リフレッシュスペースでご飯を作ったり、うまくいかなかったら、お酒を飲みながら、ディスカッションしたり、そういうことが面白かったですね。あとは、様々な国から留学生が来ていたので、留学生とコミュニケーションを取ることも面白かったです。

奈良先端大で経験して、今も仕事で役に立っていること

奈良先端大で経験して、今も仕事で役に立っていることは、とりあえず手を付けてみるということ。何でもまずは手を付けてみて、駄目なら駄目で考えれば良いという、そういうマインドを研究を通して、身に付けました。

※この記事に記載した内容は取材当時の情報になり、会社名や役職名等は現在と異なる場合があります。