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心が挫けそうになった日に

 箪笥の角に小指をぶつけたら縦に半分爪がなくなり、心が挫け気味だったので直感で買ってしまいました。どうやら一昨日文庫になったばかりのようです。

 作者の五木寛之さんが行った講演録をまとめたもので、全部で3つの講演が収録されています。五木寛之の本は翻訳なさった『かもめのジョナサン』しか読んだことがなく、昔の作家さんというのがイメージでしたが、わかりやすく、雑多なようで整理されていて、これが講演だということに驚きました。

 構成としては最初に五木さんのいわゆる講義があり、それに対するQ&Aにより話が展開していきます。

1.視線を低くして生きる

 1.の講義部分では表現者としての姿勢と五木さんの背景である「デラシネ」についての体験をお話ししていました。「デラシネ」とは辞書的には根無し草、故郷を持たない人、五木さん的には難民と解釈していました。質問では、国というものをバックボーンとしたときどんなものを背負うのか、小説という表現についてなどなどありました。

2.それでも人間を信頼する

 2.では歴史的事実とご自身の体験から人間のどす黒い面、愛すべき面を示していきます。まず露悪的な人間観から見た歴史体験について語ります。人間のどす黒い力が何を引き起こすのか満州での実体験や世界での戦争を通じて語っていきます。

 一方で、より小さな人と人との触れ合いを通じた人間への希望も同時に語ります。自分の体験であったり、命をかけて信仰を守った隠し念仏であったり、アウシュビッツの話も出てきます。導入からして非常に深刻な話なので質問パートも価値観の話が多かったです。

3.「転がる石」として生きる

 3.では表現面について大きく取り上げています。1・2では対象が灘校生といわゆるエリート学生だったのに対し、3では早稲田大学の文学部の学生に対する講演になっています。対象が異なるので印象が違うものとなっていました。講演ということで詩や詞という表現に多く触れられていました。日本では「識字率」は高いが「識詩率」は低いということを述べられていました。

感想

 この本を読んだからといって当然爪の痛みは無くならないが読んでる間はその痛みを忘れられる。何かを忘れられるほど集中できることがなによりも読書の価値だと思う。

 何気なく救われたことはなんだったっけ?
財布を落として拾ってもらったこと。酔っ払ってカバンを忘れそうになったら隣のテーブルの人が追いかけてくれたこと。自転車で転んだとき通りすがりの人が助けてくれたこと。知らない人にも手を差し伸べられるくらいの余裕を持ちたい。

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