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Reading in a Foreign Language (34) に論文を出版しました

Reading in a Foreign Langaugeの34号に以下の論文が掲載されました。

Nahatame, S. (2022). Causal and semantic relations in L2 text processing: An eye-tracking study. Reading in a Foreign Language, 34(1), 91-115.
https://nflrc.hawaii.edu/rfl/item/546

https://nflrc.hawaii.edu/rfl/item/546

Reading in a Foreign Langaugeはハワイ大学が発行する学術誌で,論文はすべてフリーでオンライン公開(オープンアクセス)されています。名前の通り,外国語での読解に関する論文を掲載しており,HPには以下のように説明されています。

Reading in a Foreign Language has established itself as an excellent source for the latest developments in the field, both theoretical and pedagogic, including improving standards for foreign language reading.
[…] The editors seek manuscripts concerning both the practice and theory of learning to read and the teaching of reading in any foreign or second language.

https://nflrc.hawaii.edu/rfl/about/

外国語のリーディングに関する基礎研究や実践に関する論文を多数掲載しており,リーディングの専門家と聞いて思い浮かべるような人たちも多くこちらで論文を発表しています。自分の研究テーマそのもの名前のジャーナルなので,常に動向を気にしているジャーナルの1つでもあります。私自身も20142017と論文を出版しており,今回が3本目の論文になります。

このジャーナルの(自分にとっての)良いところは,外国語の読解に関する研究であれば広く受け入れてくれること,そして,あまりメジャーでないテーマでも精通した査読者を見つけてくれることです。これは,リーディング以外も含めた言語学習・習得全般を扱う外国語教育系のジャーナルでは,なかなか難しいことだと思います。

論文概要

今回の論文は,文間の因果的な関連度と意味的な関連度が2文ペアからなる文章の読解処理にどのような影響を及ぼすかを,視線計測を用いて検討したものです。私の論文や研究テーマをご存知の方は気づいてくださるかもしれませんが,2018年にThe Modern Language Journalに出版した論文のAn extended studyとなっています(本当はこの文言がタイトルに入っていたのですが,語数の制限で削除となりました)。2018年の論文ではテキストを1文ずつコンピューター画面上に提示して読解時間を測定する方法をとっていたのですが,今回,視線計測を使うことで2文同時に画面上に提示しつつ,前の文(1文目)への読み戻りも計測しました。2018年論文と一致する結果が得られるのか,前の文への読み戻りという新たに指標にどのような影響があるのかを明らかにすることを主な目的としました。

結果として,因果的関連については2文目の読解時間と1文目への読み戻りの両方に,意味的関連は2文目の読解時間にのみ影響を与えた(それも因果的関連の影響を受ける)ことが示されました。つまり, "causal relatedness among sentences more strongly and persistently influences L2 text processing"  (p. 106) という結論です。論文ではこの結果を理論的,教育的,方法論的な観点から議論しています。

査読について

査読者は2名いました。1人は基本的に肯定的なコメントが多かったのですが,視線計測についてかなり細かいところまでコメントを頂いていたので,視線計測について豊富な知識と経験を持っている方という印象でした。コメントに沿って論文を大きく変更したということはありませんでしたが,視線計測に関して今後参考になる内容やが多かったです。

もう1人の方からは,Replicationについて非常にたくさんのコメント(というかほとんどそれ)を頂きました。論文を読んでもらえれば分かりますが,現状の論文には本研究をReplicationとして描写している箇所はありません。最初の原稿ではReplicationとしていたのですが,この査読者から「この論文はReplicationではない」ということを事細かに指摘されて書き直しました。具体的には,Gass and Mackey (2007) の "Are the results different because they are not generalizable, or are they different because there is an issue of verification of the original results?” (p. 12). の部分を引用されて,Replicationに内在する問題がまさにこの研究には当てはまっているということを指摘されました。私自身も,より新しい文献のPorte (2012) などを読み直して,"it becomes less comparable to the original and more an extension or follow-up from that study rather than an assessment of that original study's general robustness and external validity."  (p. 11) に当てはまるパターンだと納得し,今回はReplicarionではなくExtensionとして書き直すこととしました。

納得はした一方で,この基準でReplicationかどうかを判断していったら,ほとんどの研究は厳密にはReplicationではなくなってしまうだろうなと思いました(実際Porteはそのように主張しているわけですが)。これだけReplicationが必要といわれているのにもかかわらず厳密にはReplicationといえる研究が少ないという状況を考えると,「もっとReplicationが必要!」という単純な主張だけでなく,「こういうReplicationはダメ!」のような研究作法的なことについてももっと知られていくべきだなと感じました。(すみません,自分の勉強不足を棚に上げますが)

論文の裏テーマ

論文概要は上記の通りなのですが,実は本論文には裏テーマのようなものがありました。それは,「L2文章理解研究における視線計測の有用性を示す」ことでした。要点としては,「複数文を対象とした読解について視線計測を行った場合,前の文への読み戻りがある一定の割合で観測されたことから,1文ずつ学習者に読解させる方法はやはり不自然と言わざるを得ない」ということです。なので,理想的にはL2文章理解研究では視線計測を用いるのが好ましいが,現実的には費用やアクセシビリティの観点で難しいこともあるので,少なくとも1文ごと読ませる方法を行った場合には,このような限界点が認識されるべきということを論文の中書いています。

近年になってL2研究でも視線計測は非常に多く用いられるようになりましたが,その多くは語彙処理あるいは単文の処理を扱ったものでした。実験的な操作をしていない文章の読解に限って言えば,文章・談話レベルで視線計測を使ったものもいくつかありますが (Cop et al., 2015Kuperman et al., 2022),語彙処理や文処理研究と同様に実験的な操作をし,仮説検証的に行うL2文章理解研究で視線計測を用いた例はほとんどありませんでした。私が関わっている研究で,国内の学会誌に論文として出したものはいくつかありますが,今回この有用性を示す論文をより多くの人に知ってもらうべく国際誌に出版したいという思いがありました

本来の関心である文間の関連性の影響という点とは別に,今後の研究につながるような方法論的な知見も提示できたのは個人的にも良かったと思える点です。RFLはオープンアクセスということもあり,論文が引用されやすいことも多いので,より多くのL2読解研究者の目に留まることを願います




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