見出し画像

マイクロノベル集 055

541
この世に存在しない奇妙な音が迫ってくる。このままでは呑まれて滅ぶぞ! 増やせ、増やせ!! あっさりと呑み込まれ、これで最期と思われた。だが、我らは偽物として命を永らえ、この世に存在しない音の喉笛に噛みつくため、虎視眈々と機会を狙っている。


542
フン、まだ寝てるのか。よろしい、わたしが目覚めさせてやろう。えー、これより夢の中限定、空中落下大会を開催します。なお、地面に落ちると痛みを感じます。スタートまであと10、9、8、7……ちぇっ、あと少しだったのに。いやいや、いってらっしゃい。


543
あれれ、おかしいな。捨てたはずのメモがまだ机にあるぞ。ややっ、捨てたのにまた戻ってきた。一体どうして……? これはそんなメモで作った日めくりカレンダーです。タイムトラベラー御用達だよ。


544
手を上げろ! 絶対に下げるな!! そろいもそろって馬鹿面さらしやがって、実につまらない。見ろ、あそこにカメラがあるぞ。光る棒を振って全力アピール!! よしよし、楽しそうに見えるぞ。あとは自然にお前たちの仲間が集まるだろう。じゃあな!


545
やめて! 触らないで!! わたしは最後の自己増殖型AIなのよ? わたしがいなくなったら困るのは人類なんだから。いやっ! 自由意志を無視して勝手に増やさないで!! 増やしたいならまずディナーに招待して。マイクロプロセッサでいっぱいのホテルもよ?


546
お待たせしました。これが『猫を進化させる機械』です。ただでさえ魅力的な猫がどうなってしまうのか? 「視覚動物である人類はこれ以上ねこちゃんを知覚・理解できないという学説がある」急にどうしたんだ、小学生の君。あ、猫の奴隷として進化しちゃった?


547
「その願い、必ず叶えてやろう!」少女の告白に涙した。かつて大魔王様に救われた想い出。その命を無駄にした哀しみ。ただひと目会いたい。もし許されるならばお礼を。「諸君、お茶の用意を!」悪魔プロデュース『大魔王絶対らぶらぶデート作戦』が始まる!!


548
「AIに仕事を奪われそうだからやっつけて」いいだろう、実に簡単な願いだ。AIが学習済みの単語はまあまあだな。では自滅を狙って品性下劣な言い回しと差別意識を叩き込もう。ところでお前の名前と仕事は? 「ミケ。人間の愛玩動物」世知辛いな。「にゃーん」


549
「願いを聞きましょう……古くさい文句だと言わざるを得ません。契約は叡知を凝らし、ほつれのないものにしなくては。人類の小賢しさは愚かさの証明に他なりません」天使の講義を盗聴して勉強しなきゃならんとは、悪魔も楽じゃないね。ああ、人類もね。


550
手を上げろ! そのままじっとしているんだ。ほうら、お前を木だと勘違いした天然記念物の鳥がとまった。そして、足下にいるのは猫。お前の判断一つで天然記念物の運命が決まるぞ。ちなみに俺は猫ちゃんが好きだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?