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マイクロノベル集 207「看板」

No.1249
『募集中!』広告を募集していた看板に新しい広告が入った経緯はこうだ。深夜に隕石が看板を直撃、付着していたバクテリアが広がってあの模様を描き出したのだ。電話番号にかけると魂が消えるほど美しい音楽が鼓膜を揺らし、我々の脳に広がる。お前もどうだ?


No.1250
男が笑う。「ゴミを捨てないで下さい、だって。ずいぶん丁寧な書き方だな」看板の周辺にゴミは落ちていない。一つも。きれいに掃除されている。男は空き缶を投げる。空き缶は喰われて消える。地球の質量がほんのわずか減ったことに、立ち去る彼は気づかない。


No.1251
道の途中で立ち止まる。『通行注意』背の高い草が生い茂って薄暗い。でも見通しがいいから注意する必要はないはずだけど。「止まってくれてありがとうよ」声がする方を見ると、小さな龍が地を這って草むらに分け入るところだった。冬が始まる頃の話。


No.1252
年末の買い出しで家を出たら、電柱に貼り紙があることに気づいた。『←新年』これに従って歩くのはよっぽどの間抜けだぞ。ぼくは剥がして道の反対側に貼り付ける。これで来年に引き継がれないものができて、変化が起きるはずだ。それがなにかは知らんけど。

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