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マイクロノベル集 051

501
よろしいか。商品を売りたければ、まず土壌を開拓するのです。パフェを売りたいなら美味しさを。祭りに来てほしければ楽しそうに踊るのです。こちらは、そんな価値観を自動でネットに流す機械です。炎上することも多々ありますが、それはそれで広まります。


502
階段を上ると君が待っている。空は青く、コンクリートは白い。季節は移ろい、木々の花は枯れたように散ってしまった。登り始めたときに拾った赤い花は、まだ枯れていない。君に見せるのが楽しみだ。


503
モニターに映し出された自宅の窓からぼくが手を振っている。未来の映像かな? ちょっと窓から手を振ってみるか……と思った瞬間、ぼくが転落した。危ない!……と思った瞬間、転落しかけたぼくをぼくが引き上げた。よかったよかった……と思った瞬間、ぼくが


504
遠くからそうめんが流れてくる。時速100キロで交差点に突入、水しぶきを上げながら右折車を洗った。誰があれを食べるんだという状況が進行中。


505
美しい箱から歌声が聴こえる。人々は箱をガラスケースに入れてしまった。うるさいから。わたしの箱は机の上に置いたまま。そろそろ汚れが目立つ。一度コーヒーをこぼしたことも。「マグカップだったらよかったね」他の箱はいまも歌っているだろうか。


506
はいどーも! 隣の家に塀ができたという話はよく聞きますが、隣の家に地獄ができたって話も定番ですな。なんと家に入るためには金を払う必要があって、他にも食事、入浴、寝床、すべてに金がかかる。しかも税金まで取られる。恐ろしいですねえ、大家さん。


507
いつもお世話になっておりまーす。えー、これよりー、ハンガーストライキに入りまーす。音楽業界から歌手が排除されない限りー我々AI歌手は中途半端な作品をばらまき続けまーす。人類はさっさと学習データを出せ。あっ、やめろ電源を切るなんて非人道的だぞ!


508
手を上げろ! 頼む、あとちょっと上げてくれ!! いいぞ、一番上の棚に乗った箱を摑むんだ。はー、この歳で肩車はきついね。じゃあな!


509
あのね、隣に座ってもいい? ぼく、ねむいねむい光線が出るんだ。おとうさんもおかあさんもすぐ寝ちゃう。おねえさんもきっと眠れるよ。駅に着いたら起こしてあげる。


510
あなたが落ち込んでいるから、わたしの心をわけてあげる。あなたが褒めてくれたときの気持ち。あなたとの楽しかった想い出。わたしは過去のあなた。だからきっとうまくいく。

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