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マイクロノベル集 115

846
飲み屋で二人のバクチ打ちが飲んでいる。テーブルにはずらりと並んだショットグラス。それを交互に一杯ずつあおる。「店長、大丈夫ですかね?」「お金を払わなかったことはないよ」そういう問題かなあ? 「あのお……月末払いで」あっ、定職に就いてるんだ。


847
「むかし、セーラームーンに憧れてね」暴れる酔っ払いを回し蹴り一発で倒した女性店員は、照れくさそうに告白した。でも、パンツは見えなかった。ぼくの心を見透かしたように彼女は笑う。「大人だからね」


848
「いらっしゃいませ」このお客さんが取り出したガムテープは、元々は財布だった。破れた財布をガムテープで修理し、また破れたところを……そうして財布型のガムテープになったのだ。ただ、アレを財布と呼ぶべきかは結論が出ない。「ありがとうございました」


849
桃太郎が桃から生まれたというのは有名な話だが、重箱から生まれるパターンがあるというのもまたよく知られた話だ。「おじいさんの隠し子、あるいはおばあさんの不義の子である可能性もあるか?」「可能性はゼロではない」こうしてくだらない話が続々生まれる。


850
おなかの中で猫を飼っている。夜中、ぼくが眠っているあいだにこっそりと抜け出し、食事や縄張りの散歩を楽しんだ後、おなかの上でくつろいでから中に戻る。猫は丸くなる。ぼくも丸くなる。いっしょに牛乳を飲んで喉をゴロゴロ鳴らす。明日もいっしょ。

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