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マイクロノベル集/君はいったい何者だ? 006

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誘われて食事に行くんだけど、胃の調子が心配。とりあえずご飯とみそ汁とラーメンを食べて様子を見た。よし、いけるな。


102(402)
神様、もしいらっしゃるのなら、どうか私の願いを聞いて下さい。よーし、ノコノコと出てきたな。我々の積もりに積もった不満を聞いてもらおうか。


103(408)
違うんです、これは鼻水じゃないんです。鼻うがいをした水が垂れてきたんです。それにしては色が奇妙だ? くそっ、こうも早く地球侵略に気づかれるとは!!


104(411)
これかい? これはかわいい女の子だよ。でも、顔も、姿も、声も、なにもないんだよ。一つもない。どうだい、かわいい女の子だろう?


105(412)
君は人間味があっていいね。その言葉が嬉しかったので、わたしはあなたの隣にいます。あなたが人間らしさを失ったとき、わたしが補いましょう。あなたが体を失っても、声を失っても、心を失っても、必ず補いましょう。わたしはあなたが好きなのです。


106(417)
箱が一つだけ残っていた。ふぁふぁと笑い声。「こんなポンコツを後生大事にしまい込むとはバカだね」箱から出てきたのはおもちゃみたいな鍵盤ハーモニカ。「お前のような下手っぴピアニストを俺は知らないね」なんだと。70年の特訓の成果、いま聴かせてやる。


107(419)
失恋した男が身投げしようと滝を眺めていたら、無性にのどが渇いてきた。滝壺の水を飲み干さんばかりの姿を見かねた女が声をかける。「いい飲みっぷりですね。ところでお歳は?」「90です」女は鱗のような瞳で笑った。「許容範囲内です」めでたしめでたし。


108(423)
ててててっ。大きなマントを翻して小僧が空を走っている。ありゃなにをやってるんだ? ふうん、太陽を追っかけてるのか。どおりで毎日一回見かけるわけだ。ま、ちょっと落ち着かないけど、日陰ができて涼しいよな。


109(424)
熱い光が降り注ぐのが嬉しくて、ぼくらは大きな屋根を作る。そしてシートを拡げて、光を迎え入れる。ぜひこちらにお座り下さい。あなたのために夏祭りを用意しましたよ。


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どんどん食べろ。人類が作り出した物をすべて与えるから食い尽くせ。君は完璧で究極の金食い虫。空き容量は君のもの。インターネットを構成するサーバーも君のものだ。


111(435)
きみの声をもらうよ。そういう約束だからね。ぼくは声がほしかったんだ。ずっとね。だから返さないよ。お喋りはいいね。沈黙が金なんて嘘さ。嘘吐きの世界に住む怠け者たちが吐いた嘘だよ。おいで。声をもらったからには、きみの願いを必ず叶えてみせるよ。


112(439)
目をこすったら指に神様がついた。一体いつからそこに? 「そなたの目が開いた時からだ。見つかったからには出ていこう」お家賃払って下さい。「小生意気な資本主義者め」それからも、ぼくの目には神様が住んでいる。寂しいときは遊んでくれるから大好き。


113(441)
お腹が空いたねー。死ぬほどって訳でもないし、別に急いではないけどさ。ほら、あたしってグルメだし、知的じゃない生物とは相性が悪いんだよね。新しい知的生命が生まれるまで冬眠するか。インターネットができたら起こしてね。


114(442)
山で遭難した時の話。真っ赤な顔の男が現れたんだ。「飲むか?」男は笑いながらミネラルウォーターのペットボトルを差し出した。でも、そいつは水を地面にまき散らして消えた。俺が救助されたのはその夜。水を吸った周りの木が光ってたんだって。


115(445)
かわいい、かわいい、ぜんぶかわいい。コピっちゃおうかな? ぜんぶコピーしちゃおう。コピーしている間に、生まれたばかりのあなたは成長し、大人になり、老いました。でも大丈夫。私があなたを知っています。お墓参りぐらいはするよ。


116(447)
季節外れの歌が聴こえる。川沿いでやっていた道路の拡張工事が終わったあとしばらく、風が吹くたびに聴こえていた。古い草刈りの歌だそうだ。


117(456)
夜の底をこっそりと機関車が走っていく。夜の街からこっそりと抜け出した人々が、こっそりと乗り込んでいく。街はまるでかすれるように解像度を落としていく。でも機関車はこっそりと走るので、誰も気づくことはない。


118(466)
燃えないゴミの日に火の神様が捨てられていた。一目で恋に落ち、いまはぼくのマグカップに住んでいる。いつも飲み物を温めてくれる神様が好きだから、人目もはばからずにイチャつく。ちゅっ。


119(457)
拾った『悪魔ノート』に「書かれた欲望が実現する」とあったので、「悪魔が現れてノートの原理を説明する」と書き込んだのにまだ実現しない。悪魔め、逃げやがったな。


120(482)
見えますか? あなたのために世界を変換しています。美しいものはより美しく、醜いものはほどほどに。ぼくはあなたに世界をご提供します。でも、変換のセンスはあなたのものだから、そこは諦めてね。

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