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マイクロノベル集/箱 008

066(646)
箱の中に水たまりがある。水を入れた覚えはないのにな。そういえば箱の隙間から煙が出ていたっけ。だとすると、自分たちで雨乞いして降らせたのか。なかなかやるじゃないか。おや……こちらに向かって煙を引きながら飛ぶ、あの鉛筆なんだろう?


067(665)
ドリルで小さな穴を開け、密封された箱の中を内視鏡カメラで覗いたところ、当時4歳だった娘にプレゼントしたぬいぐるみが16年前の新品同様の姿で発見された。「お父さん。これ以上の観測はぬいぐるみの劣化を招くわ」思い出はなんと儚いのだ。


068(675)
人間サイズの箱。表面には凹凸どころかつなぎ目も見当たらない。コンコン。ノックする。「入ってます」どうやって入ったんだ。「入ってから箱を作りました」ぼくは熱湯が入ったヤカンを用意する。箱が身震いして逃走する。ああ、生きているのか。


069(693)
箱の中に牛を百頭入れておいたら、牛の姫が現れて国家ができてしまった。牛同士で戦わせて、世界で一番おいしい乳を出す牛を作ろうと思ったのに。


070(697)
よーく見て。二本の棒の長さが違って見えるだろ? これは錯視というんだ。実は音バージョンもあってね。ほら、この箱から出てくる音はどこまでも高く上がっていくように聴こえる。あっ、ダメだよ箱を開けちゃ。初音ミクが逃げちゃうからね。

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