マイクロノベル集 091

726
この水をかけると熱は死ぬ。賢い男がブツブツつぶやきながら水をまいている。しかし、観察眼に優れていないので、バケツの水が熱によって侵略され、既に絶滅したことにはまだ気づいていない。

727
わたしはいま。一人の男性と食事をして。会話をして。とても楽しくて。ずっと考えている。わたしとあなたの関係はなんだっけ。「いやだな。ぼくはあなたの兄です」そうだったかな。「そうです。きのう決めたじゃないですか」うん。そうだったね、お兄ちゃん。

728
紹介しよう。彼女の名前はロンパー。きみの母親になる女性だ。よって現在まだ生まれていないきみの著作権は彼女のものだ。諦めろ。

729
まずは机に文章をセット。上に紙を重ねて、じっくりと文字をトレース。うまく透けないところは想像で書く。意味が通じないところも想像で補う。『美しき言葉はあなたの心が生み出し他者の理解を求めず』元々の文章がどんなものだったかは、ぼくだけの秘密。

730
いつのまにか羊がポケットに潜り込んでいる。飼っている人もいる。体に触れている部分からじんわりと羊が広がったら、一日の終わり。おやすみなさい。