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コシヒカリを超える食味で超多収!名大生まれのお米は、遺伝子で約束された優良品種だった!

晩秋のとある昼休み、東山キャンパス豊田講堂の屋外スペースに何やら行列が。本学の附属農場、東郷フィールドで生産されたお米の学内販売でした。毎年恒例、売り切れ必至!のため購入は1人1袋(3㎏)までとのこと。それは急がねば…と、行列に加わり購入しました。自宅で炊いて食べたところ、大粒でもちもち感たっぷり。このおいしさのワケを取材してきました!

「とうごう3号」の学内販売に集まるみなさん

ゲノム情報を駆使し名大の農場で開発された米「とうごう3号」。

名大が品種開発に関わったこのお米、品種名は「ハイブリッドとうごう3号(以下、とうごう3号)」。愛知県東郷町にある東郷フィールドで誕生したことから名付けられました。2000年から名大と民間企業による共同研究が始まり、同フィールドで交配と選抜、採種を重ねて2014年に品種登録された「名大生まれの」お米です。
「とうごう3号」が多くの一般品種と異なる点が、その育種方法。「DNAマーカー育種法」という技術です。簡単に言うと、イネのDNAにある目印(マーカー)をもとに遺伝子を調べ、「味が良い」「収量が多い」「病害を受けにくい」といった有利な特性を持った個体を選抜し、これらを交配して優良な品種を生み出す方法です。

DNAマーカーを活用した品種改良のイメージ

日本人の主食であるイネは他の作物に先行して遺伝子研究が進み、2004年までにDNAのすべての遺伝情報(ゲノム)が解読されました。このゲノム情報をもとに様々なDNAマーカーとその働きが明らかにされ、「とうごう3号」をはじめとする育種の現場で活用されるようになりました。

マーカー育種法で“いいトコ取り”の品種改良

従来の育種方法は、植物の形質(表現型)を見て優良な個体を選別していくやり方です。父親、母親となる植物同士を交配し、実際に栽培して生育状況を検証し、収穫量を計測し、試食して食味の良否を確認する――などと、選抜に時間と手間がかかる上、栽培過程で環境による影響を受けやすい課題がありました。
 一方、マーカー育種法は幼苗の段階で遺伝子を調べて選別できるため、選抜に要する時間と手間、栽培面積を減らすことができます。また、栽培時の環境の影響を受けにくく、品種改良の結果を正確に判断できるのが利点です。また、遺伝子情報に基づいた交配によって必要な特性だけを受け継がせられるため、たとえば「病気に強く、たくさん取れて、味も良い」といった“いいトコ取り”の品種改良が可能になります。

とうごう3号、4号とコシヒカリの食味と品質の評価

「とうごう3号」育種の現場を訪問!

取材訪問したのは、名大との共同研究を経て「とうごう3号」の育種を引き継いだベンチャー、株式会社水稲生産技術研究所(愛知県豊明市)。日夜、新たな品種の開発を進めながら種子の供給や生産者の栽培サポートなどに取り組んでいます。
研究所が立地するのは住宅地の一角。「あれ?田んぼはどこ!?」と思いつつ案内されたのは倉庫の一室。パイプで組んだ枠に透明なビニールを張った“温室”に、まだ名前のない育種中のイネが植わっています。同研究所の地主建志代表は「マーカー育種は、目指す形質に応じて少量のイネで足りるので広大な田んぼは必要ありません」と説明します。

交配作業を実演する地主建志代表(左上)と研究所内の風景

別室では研究員さんが、マーカーの解析に没頭中。米粒を液状にした検体を計測機器に注入してマーカーを可視化する作業で、「コロナウイルスの判定方法と同じ、PCR検査をやっています」と、手際よく作業を進めていました。

PCR検査によるDNAマーカーの判定作業

6つの優良形質を持たせた、消費者にも生産者にも喜ばれるイネ

「とうごう3号」は「コシヒカリ」をルーツに多収性(遺伝子:gn1a)耐倒伏性(sd1)、採種効率向上(CR1)、半糯(もち)性(Wx-mq)、耐病性(Pb1)の遺伝子を持つ品種。食味は「もちもち感があり、冷めてもおいしい」のが特長で、生産面では「たくさん取れて、倒れにくく、病気(いもち病)にも強い!」特性を持つ、まさに“選ばれし”お米です。
同研究所によると、収穫量は一般品種と比べて3、4割多く、食味では、米に含まれるでんぷん成分の1つ「アミロース値」が15~16%と、一般のうるち米(18%)と比べて低いため粘りが強くもちもちした食感が特長。名大との共同研究からさらに改良を重ね、「一つの品種に6つの形質を持たせたイネは、他にはないと思います」(地主代表)という銘品種が生まれました。

収穫時期や米の粘りの強さなど、ニーズに応じて種子を供給

そして、「とうごう3号」は、その名から想像できるように、1号、2号、4号と続く「とうごうシリーズ」の1つ。同研究所は、栽培地の気候や生産者のニーズに応じ、早い時期に実る遺伝子(hd1)を持たせた早生(わせ)、粘りを抑えた品種など、オーダーメイド形式で1~4号の4品種を生産者に供給しています。
「とうごうシリーズ」はブランド名「しきゆたか」として商標登録され、北海道を除く全国各地に栽培面積が広がりました。「冷めてもおいしい」特長から、弁当やおにぎりなどの業務用として引き合いが強く、“知る人ぞ知る”お米として流通しています。
「ゲノム解読という成果を生かした、進化し続ける品種です。生産者と消費者に喜ばれる品種を作り続けたい」と、新たな品種の育成に情熱を傾けます。

この“育種ハウス”から遺伝子レベルで選び抜かれた次世代の新品種が生まれます

【リンク】

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株式会社 水稲生産技術研究所

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