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クラシック音楽業界の新型コロナ感染拡大防止に向けた⾶沫感染リスク検証実験と東京混声合唱団の「歌えるマスク」

こんにちは。名古屋クラシック音楽堂(@nagoyaclassicca)です。

先日福島県郡山市において、市内中学校合唱部と社会人サークルでの合同練習において感染者が発生し、「合唱クラスター」というキーワードが新聞各社において使用されていました。

さらに記事内では、郡山市長のコメントとして「品川万里市長は『感染防止措置に最善を尽くした上で起きたこと。臆測や想像を交えた誹謗中傷は控えてほしい』と市民に呼び掛けた。」と掲載されています。」

さらに、毎日新聞は記事タイトルに「フェースシールド着用、換気したのに…」とフェイスシールドが新型コロナ感染拡大防止に有用である前提のような書き方になっています。

フェイスシールドの有用性は検証されたうえで使用されていたのか…。

一般社団法人全日本合唱連盟が6月29日に発表した「合唱活動における
新型コロナウイルス感染症拡大防止のガイドライン」
には、オーストリア合唱協会がウィーン医科大学の協力のもと実施した合唱団員の呼吸時と歌唱時における呼気飛散の実験の検証結果として、

-口と鼻を保護するマスクを着用することで大幅に呼気の拡散を防ぐことができる。
-フェイスシールドでは、口元から下方向へ呼気が拡散する。

と紹介しています。

そして、練習時の対策には、下記のような対策ガイドラインが示されています。フェイスシールドに関する記載はありません。

①団員の距離は前後2m以上、左右1m以上を確保し、団員同士が向き合う配置は避ける
②指導者・伴奏者と団員との距離は、適切な距離を確保する
③連続した練習時間は30分以内とし、5分以上の換気を行う
④マスク着用について「飛沫拡散防止の効果があるため、着用が望ましい」

兵庫県合唱連盟が7月20日に公表した「新型コロナウイルス感染症の拡⼤防⽌ガイドライン〜合唱団の練習・演奏会の再開に向けて〜」では、マスクやフェイスシールドの使用に関して下記のような記述があります。

・マスク/フェイスシールド等の着⽤
−練習参加者は全員、マスク、フェイスシールド等の⾶沫感染予防対策を⾏います。咳エチケットについても注意喚起し、実践します。

−演奏時のマスクは、演奏上⼜は表現上の問題を勘案して適宜判断します。

曖昧な表現ですね…。フェイスシールドが⾶沫感染予防対策の手段として有用のような表現があります。

海外における合唱とフェイスシールドとマスクに関する実証実験

日本ではまだ、科学的な検証が遅れている感が否めない合唱における飛沫感染リスクや対策としてのマスクやフェイスシールドの有用性ですが、海外では大規模な感染クラスターの発生や、合唱における実証実験が公表されています。

若手演奏家を支援する「MCS Young Artists」のウェブサイトでは、海外の情報がとてもよくまとめられていたのでご紹介します。ご興味のあるかたはぜひご覧ください。

・海外の集団感染発生事例について
 ⇒ ベルリン大聖堂合唱団で起こった3月の集団感染のケース(6/19)
 ⇒ 「1名が52人に感染させる」アメリカの合唱団に起こったケース(5/27)
 ⇒ 【警告】合唱はヤバい!アムステルダムの合唱団の集団感染ケース。130名中102名感染、4名死亡(5/14)

・合唱に関する研究について
 ⇒ フェイスシールドの効果について(8/12)
 ⇒ バイエルン放送、歌唱とエアロゾルに関する最新の研究結果を公表(7/5)
 ⇒ 「シールド着用に効果なし」。合唱の危険性について、ドイツの研究者による新たな知見(6/12)
 ⇒ 「科学者から合唱団へ:CDCが何と言おうが合唱はコロナウィルスを拡大させる可能性がある」ロサンゼルス・タイムズ紙(6/6)
 ⇒ 「アー」と30秒言い続ける。30秒咳をし続ける。どちらが粒子をたくさん発するか?→「アー」の方が倍。(5/30)

・インタビュー
 ⇒  
業界人突撃インタビュー《第6弾》 作曲家 権代敦彦氏【後半】(6/16)
 ⇒ 【ベルリンではいまは合唱は8人までです。】・・・・欧州からの声②(6/2)

・その他
 ⇒ 
ベルリン、厳しい条件のもと屋内での合唱再開を認める。(8/17)
 ⇒ ダラスで合唱団100名以上が熱唱。マスクなし(7/1)

クラシック⾳楽公演運営推進協議会と⼀般社団法⼈⽇本管打・吹奏楽学会によるクラシック⾳楽演奏・鑑賞にともなう⾶沫感染リスク検証実験

クラシック音楽公演運営推進協議会と日本管打・吹奏楽学会は「クラシック⾳楽演奏・鑑賞にともなう ⾶沫感染リスク検証実験」を7月11日から13日まで、長野県茅野市の新日本空調研究所内の高性能クリーンルームにおいて行いました。

そして8月17日のその報告書を公開しました。

この実験は、クラシック音楽の鑑賞や発声、楽器演奏に伴って発⽣・⾶散する⾶沫などの微粒⼦数を計測することにより、ソーシャルディスタンスを取った時と従来の距離との、感染リスクを⽐較しています。

対象楽器は、⽊管楽器(フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、
アルトサクソフォン)、⾦管楽器(ホルン、トランペット、トロンボーン、
ユーフォニアム、チューバ)、弦楽器(バイオリン、チェロ)、その他の実験対象(客席:聴衆の会話・咳・発声を再現、歌唱:ソプラノ・テノール(予備実験として実施))

検証実験の概要

・発声と⽐較して特に微粒⼦数が多いのはトランペット、トロンボーン、ユーフォニアム、クラリネット、チューバの順であった。管楽器は全体に微粒⼦数が多く、⾦管楽器は⽊管楽器よりも多かった。

・木管楽器・金管楽器とも歌口やベル先端などで微粒⼦が多く観測された。奏者前⽅・側⽅・後⽅で測定された微粒⼦は少数であった。但し、アルトサクソフォン、ホルン、トランペット、トロンボーン、チューバではやや多い微粒⼦を認めた。

・楽器用マスク着用で微粒子は減少した。一方楽器前方へのアクリル板設置では飛散防止効果はみられなかった。

・弦楽器ではすべての測定点において少数の微粒⼦が測定されたのみであった。

・歌唱:ソプラノ・テノールでは、⼝元でもっとも多くの微粒⼦が測定され、 前⽅・側⽅・後⽅で測定された微粒⼦は少数であった。但し、「より⻑時間あるいは複数名での歌唱による変化や、体の動きを伴ったり移動しながら歌ったりしたときの影響、マスクの効果など、さまざまな実験パターンの検討、追加実験の実施が必要である。」とさらなる検証の必要性が明記された。

・観客の会話・咳・発声に関してはマスク着用で測定された微粒⼦はごく少なくなっていた。マスク着⽤下であれば、「1席あけた着席」でも「連続する着席」でも、⾶沫などを介する感染のリスクに⼤きな差はないことが⽰唆された。

感染対策についての提言(演奏中の飛沫対策以外)

演奏会・練習における感染対策において、演奏活動全体としての感染リスクを下げるために、奏者のみならず演奏活動に関わる全ての⼈が行うべき対策も示されています。

・体調不良がある場合は演奏会・練習には参加しない。
・感染リスクを低下させるような対策を普段から⼼がける。
・マスクなしでの三密状態での活動は控える。
・感染が起こらなかったとしても、常に対策が適切か見直す。

・手洗い、手指消毒をこまめに行う。
・⼿洗い・消毒を⾏うまでは顔(⽬⿐⼝)に触れない。
・会話はマスクをしてから。飲食時は2m離れる。

・マスク:会話する時はマスクを着⽤する。
・フェイスシールド:マスクを着⽤している場合、フェイスシールドの着⽤は不要。マスクをしていない場合は、2m(最低1m)の間隔をとる。
・⼿袋:着⽤は不要。「適切な⼿洗いタイミング」で⼿を洗うことが重要。

感染拡大防止策としてのガイドラインのあり方

今回の合唱の現場における感染者の発生やクラスターの形成の原因が何であるかは、報道機関の記事や保健所、行政からのコメントなどからはっきりしません。

また、少なくとも現状全日本合唱連盟をはじめとした業界団体から示されるガイドラインの中身もマスクやフェイスシールドの有用性に関する検証などが行われたのかも疑問です。

なお、一般社団法人全日本合唱連盟は、全日本合唱連盟と東京都合唱連盟では、合唱活動における飛沫実証実験を新日本空調株式会社の協力のもと8月23日(日)に実施し、実験結果の報告を実験実施後1ヶ月内を目処に連盟ウェブサイトで公表予定とのことです。

合唱における国内での本格的な飛沫実証実験はこれが初めてとなるとおもいますので、報告書が公表されることが待たれます。

東京混声合唱団開発の「歌えるマスク」が話題

飛沫が通常の会話よりも飛散しやすい合唱業界でも、演奏会の開催に向けた取り組みは進んでいます。

1956年設立の日本を代表するプロ合唱団「東京混声合唱団」がウィズ・コロナ時代に対応するため、公演再開を目指して作成した「歌えるマスク」が話題となっています。

音響学の立場から早稲田大学の山﨑芳男名誉教授のチームによる分析で、「マスク着脱による聴こえ方の差はごく僅か」との分析結果も得られ、
7/31には、この「歌えるマスク」を着用したうえで「コン・コン・コンサート 2020」が開催されました。

コンサート当日の演奏はYoutubeでアーカイブ配信されていますので是非ご覧ください。

なお、この「歌えるマスク」は、合唱楽譜の専門店パナムジカのウェブサイトで販売していましたが現在は入荷待ちで予約受付は行っています。

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