見出し画像

クラシック音楽の歴史 #004「グレゴリオ聖歌がオルガヌムの登場で進化し、より神の響きに近づく?オルガンも登場!」

こんばんわ。名古屋クラシック音楽堂(@nagoyaclassicca)です。先日から始まったクラシック音楽の歴史シリーズ。

中世西洋音楽と言えば、グレゴリオ聖歌を代表とする宗教音楽ということで、2回にわたってグレゴリオ聖歌関連でお届けしました。昨日は中世西洋音楽のもう一つの流れ世俗音楽のトルバドゥールやトルヴェール、ミンネゼンガーといった吟遊詩人を取り上げました。

第1回:信仰統一のためのグレゴリオ聖歌
第2回:バチカンの枢機卿もその存在に驚いた長崎のオラショとグレゴリオ聖歌の関係
第3回:グレゴリオ聖歌だけが中世西洋音楽じゃない!吟遊詩人という系譜

第4回は、グレゴリオ聖歌のその後の進化についてです。

前回までの復習「グレゴリオ聖歌とは」

前回までの記事に書いたようにグレゴリオ聖歌は750年頃、それまでのヨーロッパに点在していた聖歌を統一した単旋律・無伴奏が特徴の宗教音楽です。

各地の聖歌は1058年の教皇教令によって禁止され、12世紀、13世紀には、グレゴリオ聖歌は他の聖歌を完全に凌ぎ、駆逐しました。これには11世紀前半に開発された「マウネ譜」と呼ばれる現在の五線譜の原型となる楽譜の存在も大きく影響しました。

ヨーロッパ中に同じ聖歌を普及拡大させるためには、再現性を保証する楽譜の存在は大きかったことでしょう。そしてローマ教皇はグレゴリオ聖歌をカトリック教会公認の聖歌とすることで教会の権威をヨーロッパ中に知らしめたのです。

グレゴリオ聖歌を発展させたオルガヌムの登場

長らく単旋律・無伴奏で歌われてきたグレゴリオ聖歌は9世紀後半に進化を果たします。詠唱法の理論書「音楽提要」に登場した多声詠唱法「オルガヌム」です。

オルガヌムは、元の旋律の5度か4度の音程関係を保ったまま同じ旋律を並行して歌う「平行オルガヌム」と、同じ音程から始まり途中5度か4度の音程まで広げ、最後には同じ音程に戻る「斜行オルガヌム」があります。当初は即興で歌われていたと言われます。

「平行オルガヌム」

現代で言うところの「ハモる」の源流ともいえる初期のオルガヌムは西洋音楽におけるポリフォニー(多声音楽)の原点といえます。

サン・マルシャル楽派とノートルダム楽派

その後12世紀に初期オルガヌムを発展させる2つの楽派の台頭がみられます。

そのひとつが、豪華なオルガヌムで知られ、フランス南部、リモージュのサン・マルシャル寺院に拠点を置いたサン・マルシャル楽派です。

1100年頃と見られるトロープス集(フランス南部の中世アキテーヌ地方各地で作られた曲が収集したもの)の写本から、この修道院を中心に装飾の多いオルガヌムを作曲して初期の多声音楽を発展させたと推定されている人々を指します。

トロープスとは、聖歌に新たな旋律、歌詞を付け加える形でグレゴリオ聖歌を装飾するもので、元となる旋律が長く伸ばされて、付随する声部がいろいろな長さで装飾された形で歌われました。

もうひとつがパリのノートルダム楽派であり、1200年前後にパリのノートルダム大聖堂で活動した作曲家たちを指します。個人名が残されている作曲家はレオニヌス(レオナン:1150-1201)ペロティヌス(ペロタン:1160-1230)のみですが…。

↓ レオニヌス"Viderunt Omnes(地上のすべての国々は)"

レオニヌスは、1年間の主要な祝日で歌われる、ミサのグラドゥアーレ(昇階曲:カトリック教会のミサ曲の1つ。)とアレルヤ(聖福音の中に語られるイエス=キリストの教えをたたえる歌)および聖務日課のレスポンソリウム(独唱者と合唱の交互で歌う歌い方の聖歌)を定旋律とした二声オルガヌムからなる『オルガヌム大曲集』を作った巨匠。

彼のオルガヌムは、それまでのオルガヌムとは異なり、一定のリズム・パターンで動く傾向があり、後の厳格なモード・リズムの先駆的な性格をみせている。

↓ ペロティヌス"Sederunt Principes(かしらたちは集いて)"

レオニヌスの作品を大幅に改良して拡大させたのがペロティヌスで、作曲様式の特色としては、単純な、有名な旋律を取り出して音節ごとに音価を引き伸ばし、これをテノールの定旋律として利用して、リズム的により複雑で装飾的な上声部の基礎としたことにある。

ノートルダム楽派の活動は後にモテット(一般的に、中世末期からルネサンス音楽にかけて成立・発達した、ミサ曲以外のポリフォニーによる宗教曲)のような形式が生み出される原動力となりました。

記譜法においても、1250年頃ケルンのフランコによってその体系が確立され個々の音符の長短を厳格に規定した定量記譜法が登場します。

この時代の音楽のことを、後に14世紀フランス音楽を「アルス・ノヴァ(新芸術)」と言ったことに対比させて「アルス・アンティカ(古芸術)」と呼ばれるようになります。

オルガヌムとオルガンとカトリック教会の関係

宗教音楽と聞くと教会に響くパイプオルガンをイメージしませんか?

1963年に発布されたカトリック教会の公文書『典礼憲章』には、「パイプオルガンは、その音色が、教会の祭式にすばらしい輝きを添え、心を神と天上のものへ高く揚げる伝統的楽器として、ラテン教会において大いに尊重されなければならない。」と書かれるほど重要視されています。

実はオルガヌム(Organum)とオルガン(Organ)は、ギリシア語で道具や機関を意味するオルガノン’(Organon)を共通の語源としています。

オルガンの起源は、紀元前3世紀のアレキサンドリアで発明された水力によって空気を送り込む「水オルガン」だと言われています。

その後、紀元前1世紀には「ふいご」で空気を送り込むオルガンも発明され、主に円形競技場や祝宴会場で催しの開始の合図や、決闘を盛り上げる効果音として用いられました。

またキリスト教弾圧の時代には、殉教者を猛獣のいる檻に追い込む際にも使用され、長らくキリスト教では迫害の象徴として楽器の使用を禁じていました。

それが10~13世紀の間には各地の修道院に併設された音楽学校や聖歌隊の練習のために導入され、その後教会の典礼にも使用されるようになったと考えられています。

↓ 世界最古の鍵盤音楽:作者不詳《ロバーツブリッジ写本》より「エスタンピー・レトローヴェ」(1320年)

また13~14世紀には世俗音楽の舞曲(エスタンピー)で用いられた持ち運べる手動のふいご式オルガンも発明されます。

15世紀には現在のパイプオルガンとほぼ同じ形態に進化し、聖歌の伴奏や礼拝前の独奏曲を演奏されるようになり、18世紀のJ.S.バッハの時代には宗教音楽の代名詞と言えるほどの黄金期を迎えることになります。

さいごに

今回のテーマ「グレゴリオ聖歌がオルガヌムの登場で進化し、より神の響きに近づく?オルガンも登場!」はいかがでしたか?

名古屋クラシック音楽堂はTwitterもやっております。

名古屋クラシック音楽堂のTwitterでは、毎日クラシック音楽に関するニュースや、演奏会・ライブ配信などの情報をシェアしています。ぜひフォローお願いします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?