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クラシック音楽の歴史 #003「グレゴリオ聖歌だけが中世西洋音楽じゃない!吟遊詩人という系譜」

こんばんわ。名古屋クラシック音楽堂(@nagoyaclassicca)です。先日から始まったクラシック音楽の歴史シリーズ。本日は第3回です。

中世西洋音楽と言えば、グレゴリオ聖歌を代表とする宗教音楽ということで、2回にわたってグレゴリオ聖歌関連でお届けしました。

第1回:信仰統一のためのグレゴリオ聖歌
第2回:バチカンの枢機卿もその存在に驚いた長崎のオラショとグレゴリオ聖歌の関係

今回は単旋律の音楽であるグレゴリオ聖歌がオルガヌムの登場で進化をたどるキリスト教の聖歌と並んで中世西洋音楽の別の系譜、吟遊詩人のトルバドゥールやトルヴェールを代表とする世俗音楽をご紹介します。

トルバドゥールとは?

11世紀後半から13世紀にかけて,現在の南フランス全域で隆盛を極めた抒情詩の詩人兼音楽家のことを指します。

上のプレイリストは、中世のトルバドゥールの代表曲を集めたプレイリストです。

日本人がイメージする吟遊詩人は、街を渡り歩く旅芸人のような人々を思い浮かべますが、彼らは詩を書かない演奏専門のジョングルールという別の業種です。

一方、トルバドゥールは宮廷歌人とも呼ばれ、その多くは騎士階級や貴族階級でした。そして彼らが扱うテーマは宮廷風恋愛や騎士道的愛の歌が多くみられました。

宮廷風恋愛や騎士道的愛とは、騎士が仕える王侯貴族の高貴な既婚女性に対するに報われぬ愛がテーマ。

それまでのヨーロッパでは、キリスト教の旧約聖書でイブが蛇にそそのかされて禁断の実を食べエデンの楽園を追い出される「人間の原罪」について書かれた通り、キリスト教では女性が生まれながらに罪を持ち、男性に比べて相対的な地位が低いという封建的な男尊女卑が認められていました。

しかし、トルバドゥールが歌うのは女性を敬う姿勢を描いたものでした。「高貴な既婚女性に対するに報われぬ愛がテーマ」なのに騎士道精神って…ちょっと日本人には理解しずらいかもしれません。

時代背景として覚えておきたいのは、この頃、度重なる十字軍遠征による王侯貴族の不在と、カトリック教会=ローマ教皇の権威の失墜が関連しています。

高貴な既婚女性を敬うことが不貞行為ではなく、むしろ報われぬ愛だと理解して自身を自制する道徳心の向上を旨とするという逆説的な恋愛観?だとも言えます。女性側は、そんな愛に対して宝石などをお返しにプレゼントすることで応えるというのが宮廷風恋愛の形でした。

この宮廷風恋愛や騎士道が現在欧米では一般的とされる「レディーファースト」の原型だともいわれます。

トルバドゥールから派生したトルヴェールとミンネゼンガー

12世紀後半になると北フランスのトルヴェールと、ドイツ方面ではミンネザングを歌うミンネゼンガーとして拡がっていきました。

アーサー王物語など騎士道物語を広めたフランスの詩人クレティアン・ド・トロワは、代表的なトルヴェール(=吟遊詩人)である。

クレティアンのアーサー王をうたった物語詩は、中世ヨーロッパ文学の最良の成果といえ、アーサー王物語や聖杯伝説の変容と普及に果たした役割は非常に大きいと言われます。

Spotifyから中世の吟遊詩人トルヴェールの代表曲を集めたプレイリストをご紹介します。

一方、12世紀から14世紀にかけてドイツ語圏において隆盛を極めた抒情詩ミンネザング(愛の歌)の作り手、歌い手のことをミンネゼンガーと言います。

こちらもフランスのトルバドゥールの影響を受け、中世の貴族社会で伝統的な騎士道精神や「宮廷の愛」について歌った。

13世紀前半の中世ドイツのきわめて重要な叙情詩人であるナイトハルト・フォン・ロイエンタール周辺の楽曲を集めたSpotifyプレイリストをご紹介します。

十字軍遠征の失敗による騎士階級が没落すると、市民階級の出身者がミンネザングの担い手や宮廷楽師として活躍するようになります。

そして、15世紀になるとミンネザングの伝統は、マイスターゲザングとしてマイスタージンガーに引き継がれることになります。これは、ミンネザングが主に貴族のものだったのに対して、マイスターゲザングは都市の職匠・工匠によって担われたという社会構造の変化とも言えます。

ミンネゼンガーやマイスタージンガーはオペラの題材にもなっており、19世紀ドイツの作曲家リヒャルト・ワーグナー『タンホイザー』『ニュルンベルクのマイスタージンガー』はとくに有名です。

この後、西洋音楽の歴史は中世を終え、15世紀から16世紀のルネサンス音楽へと移っていきます。

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