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犬と共に歩けば
「兄弟のわんちゃん? よく似ているわね」
犬を二匹連れて散歩をしていると、老若男女問わずとにかく声をよくかけられる。
引きずられながら散歩している私を見て「二匹の散歩は大変だ」と、心配してくれるのはウオーキング中の年配の方が多い。
「そりで引っ張らせればいいねっか」
「アハハ~、犬ぞり楽しそうですね~」
グイグイ引っ張られ、会話もままならない。
振り返り振り返り、返事をする私。
犬ぞりとはまた「南極物語」みたいだな。
まだ雪は降ってないけどね。
「俺は声かけられる事ないなあ」と、夫が首をひねる。
だってさ、夫はさ、ちょっと近寄りたくないくらい強面だもんね(小声)。
「ママは声をかけやすい雰囲気なんじゃない?」
まあ、常にヘラヘラ顔してますからね。
そりゃあ、声をかけられたら笑顔で二言三言交わします。
でもね「今日はちょっと静かに散歩したいなあ」という日もあります。
向かいから人が来るのが見えると、目を伏せて「声をかけないでね」オーラ全開にします。
「あら、兄弟? それとも親子かしら」
がっくし。
たやすくオーラは破られる。
「誕生日は同じなんですけど、兄弟ではないんですよ~」と、結局立ち話になってしまう。
たまたま同じ誕生日の柴犬のペアが、ペットショップの同じブースに入れられていたのを見つけたんです。
私たちも最初は兄弟かなと思ったのですが、鹿児島生まれ(メス)と埼玉生まれ(オス)の全くの他人(他犬?)だったのです。
同じ誕生日の奇跡で、こうして今家族になりました。
……という説明を、長々立ち話していたのですが、通りすがりの人はここまでの内輪話を求めているわけではありませんので、微妙な反応で立ち話を終えて別れるのです。
「面倒だから適当に『そう、兄弟なんです!』って返事してるよ」と夫は言う。
馬鹿正直とは私のことでしょうか。
片側一車線道路の反対車線に、シルバーの軽バンが急停車した。
ちょっと何事かと振り返る勢いです。
60代くらいのチンピラ風の角刈り男性が車から降りてきた。
まさかとは思ったけど、道路を横切ってまっすぐこちらに向かって来る。
辺りに歩行者は私しかいない。
とっさに身の危険を感じ、私は体を固くした。
案の定、私の目前にズカズカ近付いてきた。
「私、なにかイケナイコトしましたか~~~!」と腰を抜かしそうになっていたら、そのチンピラ風は私が連れていた犬二匹をもみくちゃに撫で回し始めた。
こむぎちゃん(メス)は外面が良いので、男性の膝元に飛び付いて全力でしっぽを振っている。
なぎくん(オス)は臆病なので、なんか変な唸り声を上げて怒っている。
そんな様子はお構いなしだ。
男性は「いい巻きしてるなあ!」と目じりを下げ、しっぽをつかんで(注:イヤがるから、よその犬のしっぽはつかんじゃダメよ)ほめてくれる。
「なんだ、私じゃなくて犬に用事があったのね」と、私は顔を引きつらせて笑った。
ん? この人、地元では有名な居酒屋Sの名物マスターだ。
昔から独特のテンション高めの人だけど、それだけではない。
なんかお酒くさい。
「飲んだら乗るな。飲むなら乗るな」ですよ、マスター!
その後も、マスターとは散歩中によく出くわす。
「おうおう、散歩中だか。よしよし」と車の窓を開けて、こむぎちゃんとなぎくんに声を掛けてくれる。
これも何かの縁と、居酒屋Sの弁当をテイクアウトしに行ったけど、うちら人間のことは覚えていない様子です。
「あ、わんちゃん二匹で散歩してる。かわいい!」
夫と二人で犬の散歩をしていたら、高校生のカップルに声をかけられた。
まだ幼さが残っている二人は、セイタカタウコギ(ひっつき虫。新潟では‘バカ’とよばれている)を道々摘みながら歩いている。
彼氏の制服を的にして‘バカ’を投げ付け、女の子は楽しそうにケタケタ笑っていた。
仲良さげな高校生カップル。
昔々高校生カップルだった、中年夫婦の私たち。
それが連れた、柴犬カップル。
今日はカップルがいっぱいだなあ。
中年夫婦のうちらから見たら、君たちのほうがキラキラ輝いてかわいいよ。
高校生カップルは顔を見合わせクスクス笑って、空を仰ぎながら手を繋いでのどかな線路沿いの帰り道を歩く。
君たちの将来の幸せを願うよ。
若い二人のまぶしさに、私は目を細めた。
犬と共に歩けば、しみじみと幸せだなあ。
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