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オレンジカーディガンの後悔 : そういえば、私は乳がんだった②

検査結果を聞きに行く日、私は友達とランチの約束をしていました。長男の幼稚園の時からのママ友です。小学校が離れてしまったので、会う機会が減っていましたが、久しぶりに3人で集まる予定にしていました。

ランチの時間に間に合う様に、病院に向かいました。結果を聞くだけなので、そんなに時間はかからないと思うからと、事前に連絡をしていました。

前回の検査で、私の心はすっかり軽くなっていて、どこか悪いの?という質問にも、しこりがあるからマンモしたんだーと返信できる様になっていました。

もしかしたら、、という思いも多少はありましたが、良性でしたという結果を聞いて、ニコニコしながら約束のお店へ向かう自分を想像しながら、待合室で名前を呼ばれるのを待っていました。


でも、なかなか呼ばれません。そんなに待っている人はいないのに、私より後にきた人達が診察室へ入っていきます。

そっか、予約した方が良かったんだな。

前回が空いていたので、診察予約もせずにきてしまった事を後悔しつつ、少し遅れそうだからと連絡を入れました。


そして、ふと患者さんが途切れた時、私の名前が呼ばれました。

少しドキドキしながら椅子に座ると、先生は自分が悪い訳ではないのに申し訳なさそうな顔をして、

「残念ながら、悪性でした。」

そう、言いました。

それから検査結果について、乳がんについての説明があったと思います。でも、私の脳は最初の一言で完全に機能不全を起こしてしまって、その後の説明はあまり覚えていません。

ただ、その日、私は白いシャツの上にオレンジのカーディガンを羽織っていました。それがどうにも気になって、こんな派手なカーディガンを着てがんの告知を受けている私は変だよなと、どうでもいい事を考えながら聞いていました。

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どうにか診察が終わって退出すると、看護師さんが後をついてきて待合室の椅子に座るよう促してくれました。椅子に座ると、看護師さんも隣に座って私の腕をさすりながら「大丈夫?」と聞きました。

多分、私は診察中、ショックでひどい顔をしていたんだと思います。心配をかけちゃいけないなと思い、精いっぱい背筋を伸ばして、

「びっくりしましたけど、、大丈夫です。」

そう答えました。

すると、看護師さんは自分の名札を両手で持って私に見せながら、

「私、○○と言います。もし、不安な事や分からない事があったら、先生でも私でも良いので電話ください。」

まっすぐ私の目を見て、そう言いました。

「○○さん、、」

今まで外来の看護師さんから自己紹介をされた事はありませんでした。名札をちらりと見る事はあっても、名前を覚える事はそうありません。

あぁ、これから長い付き合いになるんだ。

今日で終わりと思っていたのに、今日から始まるんだ。

まだぼーとした頭でそのことを理解し、この人の名前だけは忘れるまいと、ぶつぶつと口の中で唱えて覚えました。

「よろしくお願いします。まだ、子供が小さいので、、頑張ります。」

そう答えた私は、ひどく不器用に笑いました。


会計を待つ間、少し落ち着きは戻ったものの、さすがにニコニコとランチに行ける状態ではないので、まさかの悪性だったから今日はごめんね、と連絡しました。友達からは心配するラインも電話もありましたが、どう説明すればいいのか分からなかったので、返事はせずに支払いを済ませてから車に乗りました。

クヨクヨしても仕方ない、ランチの予定がなくなったので、いっそ買い物にでも行こうかと思いながら走っている途中、唐突に涙が流れてきました。

あれ、何でだろう、、。

一度溢れ出した涙は、とどまる事を知らずに頬を濡らします。手の甲で涙を拭いながら、こんな顔じゃ恥ずかしくて買い物なんていけないと思い、自宅に向かって方向転換しました。

何で、何で、、

しばらく走るものの、視界は涙でぼんやりしてきます。乳がんより先に、事故で死んだら洒落になりません。私は路肩に車を止めて、ハンドルに顔を埋めました。


そして、わぁわぁと声を上げて泣きました。


つづく。

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