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コンクリート エッグの中では何が起きているのか

ここ数年、コンクリートタンクが再注目されています。実際に導入されている事例を見ると大型の四角形のものが主流のようにも感じますが、話題になりやすいのは卵型をしたコンクリート エッグと呼ばれるタイプのものです。

コンクリートタンク自体は新しいものではなく、以前から使用されていました。ただその際には内壁をエポキシ樹脂などでコーティングしたものが主流だったのに対し、最近はこうしたコーティングを施さない仕様のものも増えてきています。

コーティングがほぼ必須だった旧タイプのものはそうしたコーティングが剥げてワインに混入するリスクに加えて、コーティングが剥げた部分でワインとコンクリートが直接接触することにより重金属の溶出などが生じるとして、導入はされたもののその後に順次ステンレスタンクに置き換えが進められていました。それが最近になり、今度はステンレスタンクからの置き換えとしてコンクリートタンクが検討されるようになったのは興味深い流れです。

ステンレスタンクをコンクリートタンクに置き換えようとする動機の1つは、コンクリートタンクが特性的には木樽に似ている点が挙げられます。近代ワイン醸造は還元的醸造に大きく寄っていますが、最近はここに酸化的醸造への揺り戻しが生じつつあります。一方でその酸化的な状態は以前のような重い樽香を伴うものではなく、軽やかでエレガントなスタイルが希望される傾向にあります。そうした需要には香りを付加することなく酸素だけを供給できるコンクリートタンクが適していたのです。

そうした実利的な動機に加えて、コンクリートタンクの導入には思想的な動機が関わることも多く見受けられます。卵の形に生命の誕生を見出し、そこにワインの生まれる姿を重ねる例などはその典型例の1つといえます。

上記の記事ではコンクリートタンクの持つ特徴を概要的にまとめています。そこでこの記事ではより具体的に、コンクリートタンクが持つとされている対流性、熱特性、そしてワインへの官能的な影響についてみていきます。

この記事はNagiと一緒に学ぶオンラインコミュニティ「醸造家の視ているワインの世界を覗く部」に投稿された記事の一部を再編集したものとなります。
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