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僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー

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2020年9月の記事一覧

僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #12

僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #12

第12話 6月12日

「……くだらな」
「…仰るとおりで」
「あんたたち、高校生でしょうよ」
「……うっせ」

 久方ぶりに、正座、というものをさせられている。

 目の前には、腰に手をあて仁王立ちをしている寺岡さんと、「れ、怜那(れいな)ちゃん」と焦った表情をしている羽白(はじろ)さんの姿。

 そして、俺と同じように正座をさせられているのは、思い切り不貞腐れた表情をしている照屋善人(てるやよ

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僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #11

僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #11

第11話 6月11日

「あー、えっと、委員長。それ持とうか?」
「え、あ、ありがとう」
「どこまで?」
「教室、なんだけど」

 図書室に寄った帰り道、照屋(てるや)と羽白(はじろ)さんはまだ委員会があり、寺岡さんも、羽白さんと戻るとのことで、まだ図書室にいる。
 特に本を借りる以外にやることの無かった俺は、一人先に借りた本を片手に廊下を歩いていたのだが、前方から、結構な量のプリントとノートを抱

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僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #10

僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #10

【6月10日 】

 今日も、雨。

 昨日、帰宅して天気予報を見たら、どうやら先週末に梅雨入りをしていたらしい。
 特に気にしていなかった、とテレビを見ながら呟いたら、母さんに、「しばらくバス通学なんだから、少し早く起きなさい」と言われた。
 とはいえ、少し早く、といっても、1時間も30分も早く家を出るわけじゃないし。そう思い今朝も、いつもと変わらずにのんびりとしていたら、思いの外、バスまでの時

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僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #9

僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #9

第9話 6月9日

「おはよう」
「あ、おはよう。千家(せんげ)くん」

 カタン、と引き出し椅子の音が響く。腰を下ろし、カバンの中から朝飯のパンを取り出していれば、なんとなく、視線を感じた気がして顔をあげれば、こっちを見ていたらしい羽白(はじろ)さんと目が合った。

「どうかした?」
「千家くん、それ、朝ごはん?」
「ああ、うん。寝坊した」
「今日はバス?」
「そう。午後に雨降るって言ってたのす

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僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #8

僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #8

第8話 【6月8日】

「千家(せんげ)くん、今日も速いね」
「…普通じゃないか?」
「そうかなぁ。私は速い、って思ったよ?」
「…まあ…一回読んだことあるし」
「これも読んだことあるの?」
「え、うん」

 パタン、と読み終えた本を閉じながら答えれば、羽白(はじろ)さんが驚いた表情を浮かべる。

「小学校の時も、図書カードにいっつも千家くんの名前があるなぁって思ってたけど、本当に色んな本、たくさ

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