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僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー

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2020年7月の記事一覧

僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #5

僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #5

第5話 【6月5日】「あ、千家(せんげ)くんだ」
「?」

 ガチャン、と停めておいた自転車を動かしていると、背後から名前を呼ばれた気がして振り向く。

「……?」

 そこに居たのは、少し驚いた顔をしている俺の隣の席の羽白(はじろ)さんで、「呼んだ?」と首を傾げながら声をかける。

「あ、ううん。あの……」
「?」

 首をふるふると軽く横に振りながら答える羽白さんが少しだけ困ったような表情を浮

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僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #閑話 6月4日夜 照屋視点

閑話 6月4日夜 照屋視点「あ、もしもし?なる?」
『……なに』
「うっわ、テンションひっく!」
『…そりゃあ…お前…』

 ーとりあえず宿題をすませ、本を読もう、とした瞬間にかかってきた電話、となれば、それはそれはテンションも低くなるであろう。
 電話越しに、テンションの低い声で、本日やっと番号を交換したクラスメイトにそう伝えられるものの、そうは言っても、電話にちゃんと出てくれるんだ、と彼の優し

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僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #4

僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #4

第4話 6月4日「そういえば、千家(せんげ)くん、今日は最初のほう、怜那(れいな)ちゃんとお店番するんでしょう?」
「…へ?」
「あ、千家に言うの忘れてた!」
「てーるーやー?」
「てへっ」
「おいコラ!」

 羽白さんの純粋すぎる質問により、俺は、朝から今日の放課後の心配をすることとなった。

「そうだったんだ。ごめんね、千家くん。私、てっきり千家くんも了承済みなのかと思って……」
「いや…羽白

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僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #3

僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #3

第3話 6月3日

「なぁ、千家(せんげ)!電話番号教えて!」
「……?」

 たいして関わりを持たない頃からも、明るい奴だな、という印象を持っていたが、この二日間だけでも、照屋(てるや)は随分とコロコロと表情が変わる奴、という情報に、思った以上に本が好きな奴、というものが追加された。

 自らボランティアを引き受けるあたり、根は悪い奴では無いのだろう、とは思うが、小中学校と、特に固定の誰かとつる

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僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #2

僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #2

第2話 6月2日

「おはよ」
「……おはよう」

 にこにこ。そう言う表現がピッタリな表情で、随分と早くに登校してきた俺の後ろの席の照屋善人(てるやよしと)が俺を見ている。
 いや、正確に言うと、俺は日直の仕事の一つ、黒板掃除をしているので、照屋の顔は見えていないのだが、楽しい、嬉しい、という照屋の雰囲気が後ろからだだ漏れなのである。

「……一応、聞くが」
「何でも聞いて!」

 くる、と後ろ

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僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #1

僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #1

第1話 6月1日

「なあ、千家(せんげ)。一ヶ月だけ、アルバイト、しない?」

 放課後の教室で、特にすることもなくボンヤリと外を眺めていた俺に後ろの席のソイツはそう言って、笑った。

【6月1日】

 暇だ。

 毎朝、決まった時間に目覚ましに起こされ、学校までの道のりを自転車で通い、ぼんやりと授業を受けて、昼飯を食べ、また授業を受ける。そうしていつの間にか、また代わり映え無く一日が終わり、ま

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