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黒歴史は塗り替える

思い出したくもない恥ずかしい黒歴史が不意に脳裏に浮かんで
「うわ~~!!」と叫びたくなったとき
私は決まって空に向かって「おとーさん!」と小さく叫ぶ。

天国のお父さんが何かしてくれる訳でもないのに
「おとーさん!」は心を落ち着かせる魔法。

叫ばなくても、太ももを手で軽く10回ほど叩くと
脳の記憶を思い出す力が弱まるので、黒歴史から逃れられるらしい。
今度試してみよう。

誰にだって、黒歴史のひとつやふたつあるよね?


一番の黒歴史は中学校の音楽の授業での出来事だ。

その日は打楽器の授業だった。
先生が黒板に書いた音符を手で叩いてください、というもの。
みんな一斉に手を叩く。

先生は「じゃあ、みんな並んで、今からひとりずつテストするね」と。
スティックを受け取って、ひとりずつみんなが見ている前でスネアを叩く。

・・・ヤダ、絶対に無理、見られたら絶対に出来ない・・・

私は人の目を気にし過ぎるらしい。
人前に出ると、自分が何をやっているのか分からなくなる。
まず、息を吸ったらいいのか、吐けばいいのか分からなくて過呼吸になる。
手足の動きがぎこちなくなり、どう動いて良いのか分からない。
まさに挙動不審とはこのこと。

それは、体育でバスケのドリブルとシュートのテストでも
国語の朗読や英語のスピーチでも同じだった。

動けなくなる、喋れなくなる。
兎に角、誰かの目が怖くて仕方ない。

じゃぁ、なぜ、オーディションを受けられたの?
たぶん、私を知っている人が誰もいなかったから。
この人と顔を合わせるのが、もしかしたらこれが最後と思えたからかな。
あとで、私の失敗や変だったことを指摘されないだろうし。。。
そんなことを考える私は、たぶん、人一倍プライドが高いのだろう。

私の順番が回って来た。
制服のスカートで手のひらの汗を拭い、前の人からスティックをもらう。
黒板の音符をもう一度見て、大丈夫、大丈夫、と言い聞かせる。
叩こうとした瞬間、右ってどっちだっけ?左右が分からなくなった。

そうなると、どうしよう、どうしよう、どうしたらいい?
発作を起こしたみたいに息が苦しくなって、吸うことしか出来ない。

体が固まって最初の一打が出て来ない。
私の様子をみんなが不思議そうに見ている。
変な汗が額に滲んだ。

先生は「じゃあ、またあとでね」と私を列の一番後ろに並ぶように言った。

そして、また私の順番だ・・・
大きく息を吸って、落ち着けと念じる。
でも、体が動かない、結局、何にも出来なかった。
そんなの私ひとりだけだった。

ドラムなんて、大っ嫌いだよ、もう、見たくない。
ドラムが悪いのではない、私が悪いのに大っ嫌いと言って
何も出来ない自分から目を逸らしただけ。
そして、ドラムやそれに関係する一連のものを避けるように生きて来た。

そんなことがあった。。。

なのに!私は今、ドラム教室に通っている。

(始めようとした理由は、そりゃ、不純だよ。
好きな人がドラマーで、その人にどうしても会いたくて
その人がやっているドラム教室に通えば会える!と考えたから)

レッスン中に、たまにあの出来事、黒歴史が脳裏に浮かんで
「うわ~~!!」と叫びたくなる。

でもね、これは黒歴史を塗り替えるチャンスだとも思っている。
何も出来ない私から、出来る私になれ!と言われているみたい。
だから、頑張ろう。
逃げるなよ、自分。と言い聞かせながら。

レッスン中に失敗したときに、空を(正確には部屋の天井だけど)見上げて
「おとーさん!」と小さく呟く。

「今、何か言った?」先生は不思議そうに私に尋ねる。

「ううん、何でもないです」

大丈夫、大丈夫、と心の中で呟いて黒歴史を塗り替えていくんだ。

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