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another story-ほんとのところ㉚

「5月26日。この日がターニングポイントだからね。
この日を過ぎたら気持ち的にもっと楽になるはずだから」

「ほんとに?あと2か月の辛抱?それまでこのしんどいのが続くの?」

「夏は運気が良くなるから。まあ、そのしんどいも楽しみなよ」

加藤くんは楽しんでと笑うけれど
あと2か月もこんな気分で過ごすことに涙が出そうになった。

シナモンやナツメグ、黒胡椒が入った本格的な味の
加藤くん自慢のお手製のジンジャーエールをゴクリと飲んだ。
炭酸の泡と一緒に爽やかな生姜の香りが鼻を抜けると
涙が引っ込んでいく気がした。

「あっ、そうそう。
気分の落ち込みが楽になるものあるんだけれど」

加藤くんはそう言ってポーチをゴソゴソしている。

「ちょっと待って!
楽になるって、それ怪しい葉っぱとか薬だったりしない?
いくらなんでも、そういうのはやらないよ!」

「違うって、そんなんじゃないから。人の話をちゃんと聞けよ。手出して」

茶色い小瓶の黒い蓋を開けて、私の手首に液体を2滴垂らした。
匂いを嗅いでみる。
まるで、海外のホテルリゾートに来たような異国情緒漂う甘く濃厚な香り。
とても官能的で思わず、ムフフとにやけてしまった。
香りってすごいな。

「どう?どう?エロい気分にならない?首筋に擦ってつけるといいよ。
これはイランイランていう香り。
インドネシアで新婚初夜にこの花びらをベッドにまいているらしいよ。
そのくらい相手をその気にさせる匂いなんだって」

加藤くんの真似をして手首同士を擦り首筋につけると
自分からふわぁっと漂う甘く優雅な香りに気分が高揚した。

「別にエロいことに使えっていってるわけじゃないからね。
ホルモンバランスを整える効果もあるらしいよ。
香りを嗅いだり飲んだりすると、女として整うって言っている人もいるから
なぎさんにぴったりな香りだと思うんだけどな」

「私、女性として整ってないってこと?整うってどういうことなんだろ」

「なぎさんのその不安定なメンタルが整うってことでしょ?
その歳になれば更年期だなんだって出て来るよ。
ホルモンバランスを整えるってことなんじゃないかな?」

私ってそんなに不安定?に加藤くんは大きく頷いた。
ストレスもそうだけど、更年期障害の走りなんだろうか・・・

数日後、近くのショッピングモールで購入したイランイランのオイルを
寝る前に枕に数滴しみ込ませてみた。
すぐに甘い官能的な香りに包まれる。
少しムラムラした気分になる。
さすがに振動音が聞こえてしまうからおもちゃは使えない。
下着の中に手を入れクリトリスを撫でる。
でも、指だけじゃイケなくてひとり悶々とした。
これじゃ、余計にストレスが溜まるだけだ・・・
イランイランは私に向いていないのかもしれない。

今度はイランイランと同時に購入したハーブティを試してみる。
「セントジョーンズワート」を飲んだら
あれ?何だか心が軽くなった気がしたの。

抗鬱剤を飲んでいると相乗効果で
効き過ぎてしまうから注意が必要です、と店員さんが言っていたから
絶対に効くという先入観があったのかもしれない。

ハーブティー、エステ、マッサージ、針灸、岩盤浴、サウナなどなど
体と心が楽になれるものをとことん取り入れた。

ようちゃんのLINEは相変わらず素っ気ない。
レッスンのときも、ほとんど話さないし態度は冷たいまま。
ようちゃんにキツく当たられても、動揺せずに平常心を心がけた。

5月26日を過ぎれば気持ちが楽になって何かが変わるはず。
それを信じて、ひたすら耐えた。

その日まで、あと一週間だ・・・






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