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「ゲームをする暇があるなら映画を観なさい」と言ってくれた父との思い出


「ゲームをする暇があるなら映画を観なさい」

私の家は”ゲーム禁止”だった。
小学生になり、周りの友達がたまごっちやポケモンの話で盛り上がる中、ゲームを持ったことがない、プレイしたことがない私は空を見上げて
大好きな映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のタイムパラドックスについて考えていたものだ。
6歳上の姉がいた私は、同級生より一足先にライトノベルの存在を知り、名作『涼宮ハルヒの憂鬱』の影響で「この世界は本当はついさっき出来たのかもしれない」「もしかすると自分は今昏睡状態で、脳が作り上げた映像をあたかも記憶のように見ているだけかもしれない」と想像するのが非常に楽しかった。
だからゲームが禁止されていることに大きな怒りはなかったが、
仲のいい友達がこぞって「すれちがい通信」や「アイテム交換」のために休日遊びに行く予定を立てているときには、「ゲーム禁止なせいで私だけのけ者にされた!」とひとり家で嘆いていた。
そんな時父は言った。
「ゲームをする暇があるなら映画を観なさい」と。

父と語った映画の魅力

父は休日に家で映画を観ることが多かった。
金曜日の夜には、私たち娘をつれてレンタルビデオ屋に行き、好きなDVDを一緒に選んでレンタルした。
『STAR WARS』や『インディ・ジョーンズ』『ロード・オブ・ザ・リング』は限定版のDVDボックスをテレビの横にディズプレイしていたほど、ハリウッド大作が好きな人で、「映画館で観るならハリウッドのアクション映画だ!日本映画は声も小さいし、家で良い。」とよく言っていた(笑)
(その思想が刷り込まれ、私は大人になるまで日本映画を映画館で観たことはほとんどなかった)
ぼんやりとした思い出だが、父は一緒に映画を観ているとよく、私に魅力を語ってくれた。
『STAR WARS』では「このシーンはミニチュアで撮影しているらしい!天才じゃないか?!」、『タイタニック』では「ほら、ローズの女優さんの唇が青いだろ?海の水が冷たくてこうなるのを、メイクで再現しているんだよ。そのために、メイクをする人がいるんだよ」と、幼い私に映画の世界を少しずつ教えてくれた。『ジュラシック・パーク』を観た時は、「蚊から血を採るなんて、アイデアがすごすぎる!」「本当に恐竜がいるようにしか見えない!!!」と家族みんなで(主に父と姉が)絶賛していたのを覚えている。

初めて見た父の涙

父はいわゆる「強いお父さん」で、家庭に仕事は持ち込まず、弱い姿を家族に見せない人だった。
そんな父が泣いているのを(覚えている限り)はじめて見たのは、映画『シュガー・ラッシュ』を二人で観に行った時のこと。

『シュガー・ラッシュ』あらすじ
ゲームの世界の“裏側”で繰り広げられる大冒険!閉店後のゲームセンターで動き出す、人間が知らない<ゲームの裏側>の世界。そこでは、様々なゲームキャラたちが、笑ったり、怒ったり、人生に悩んでたりしていた!?長年演じてきた悪役に嫌気がさし、自分のゲームを飛び出したラルフは、お菓子の国のレース・ゲーム“シュガー・ラッシュ”で仲間はずれの少女ヴァネロペと出会い、友情を深めていく。しかし、ラルフの脱走はゲームの世界にパニックを引き起こし…。ヒーローに憧れるラルフは、ヴァネロペと彼らの世界を救えるのか?ワクワクドキドキ、そして思わずグッとくる、感動のファンタジー・アドベンチャー!

https://www.disney.co.jp/studio/animation/1183

劇場を出て「おもしろかったね!」と言う私に、父は「最後の山ちゃん(ラルフの吹き替え・山寺宏一さん)がズルいわ…」と瞳を涙でいっぱいにしていた。
当時17歳の私は「え?!あんなハッピーな映画であのお父さんが泣いた?!」と思ったが、大人になってから見てみると、父はヴァネロペに私たち娘を重ねていたのかなと思う。

時を経て24歳で映画の吹き替え制作の仕事に就いた私は、この時の父の横顔を思い出して「吹き替えでこそ感じてもらえる感動がある、私たちが伝えるんだ」と思うことで辛いことを何度も乗り越えた。
人間関係がうまくいかず結局3年で辞めてしまったけど、一時は天職だと思えた仕事でした。本当にありがとう。

映画を通して出会えた人

そんな父の影響で、すっかり映画好きに成長した私は、
25歳の時に「映画館のあるシェアハウス」として(一部界隈では)有名だったFILMS和光に入居した。
123世帯の大規模なソーシャルアパートメントで、入居して数カ月は毎日、その日会った人に自己紹介をする日々(笑)
初対面で「Filmarksやってる?」と聞かれ、フォローすると1,000本以上マークしている…という状況に、映画好きとしてはたまらない環境だった。

特に、MCU好きが回りに父しかいなかった私にとって、この場所でMCU仲間ができたことは人生の財産である!
みんなで映画を観て感想を語り、毎週更新されるドラマシリーズに熱狂し、最速上映のあと一緒の家に帰る…。退去した今でも、MCU作品公開後はFILMS仲間とのグループチャットが盛り上がり、10年経っても同じメンバーで感想を語り合うような気がする。
…そして何より、私はこの場所で、生涯大切にしたいと思えるパートナーにも出会えたのだ。

「映画のある人生」

私の人生は、趣味も仕事も映画。
もし、父が映画好きじゃなかったら…?なんて考えても、まったく想像がつかないくらい、映画のある人生を歩んできた。
今でも、友達が「あのポケモン懐かしい!」「ゲームボーイアドバンスの頃はこうでさぁ~」という思い出話にはついていけないけれど、
長年追ってきたからこそ味わえる『アベンジャーズ』や『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の熱狂と感動、『バビロン』で蘇る名作と思い出の数々、ふと見上げた空に重ねる大好きな映画たちの情景が、
私の人生を豊かにしてくれる。
だからパパ、私に映画を見せてくれてありがとう。
また一緒に映画を観ましょう。

#映画にまつわる思い出

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