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お掃除のおばちゃん

ウチの職場で一番すごいのは、実はお掃除のおばちゃんだと思っている。

名前を知らないおばちゃん。元々が笑った顔なんじゃないかというくらいにいつもニコニコしていて、おっとりと静かに仕事をしている。

彼女は朝、他の職員よりも30分早く仕事を始める。
朝のうちにトイレをピカピカにして、ごみを集めて、事務所の外を掃く。それから事務所のなかを順番にモップ掛けする。お昼過ぎまで仕事をして、他の職員よりも早めに帰っていく。

あるときには換気扇の前に立ってじーっと上を眺めていた。背が低いから何かが取れないんだろうか。「大丈夫ですか?」。声をかけるとニコッと笑う。「汚れがないか見てたのよ」。くるくると回る換気扇は確かに少し黒ずんでいた。

トイレットペーパーが切れているところをみたことがないし、床や階段はいつもきれいだ。洗面台が汚かったり、水道の周りに水垢が溜まっていたりということもまずない。彼女の仕事には隙がない。

かと思えば廊下でベテランの職員や、係長とか課長と話し込んでいたりする。他愛のない世間話ばかりかと思いきや、真剣な表情で何かを話しているときもある。実は事務所内の全職員、何ならお客さんの情報も把握しているんじゃないだろうか、なんて思わせる立ち姿。静かに掃除をしているように見えて、その情報量と人脈の広さは、実は職場で一番なんじゃないかと妄想している。


「お疲れ様です」。声をかけると顔を上げてあいさつを返す。手元を見ながらということは絶対になく、必ず相手の顔を確認してあいさつをする。

そして最近気づいたのだけれど、彼女は全然休まない。職員よりも勤務時間は短いにせよ、月曜から金曜まで毎日働く。覚えている限りでこの1年以上、事務所に彼女がいなかった日はない。有給休暇はちゃんと取れているのだろうか、と心配になる。


私の仕事では、就労支援が一つの中心メニューだ。
高齢だったり資格がなかったりという人には、警備や清掃を進める場合が多い。とくに女性は清掃を選ぶ場合が多い。

だけど誰にでもできる仕事じゃないよなあとつくづく思う。
仕事内容そのものもさることながら、周りへの気の回し方や立ち居振る舞いは、きっと思っているよりもずっと難しい。

ウチの職場のお掃除のおばちゃんはすごい。
何より、「すごさ」を感じさせないのに抜かりないところがすごい。

尊敬と感謝の意をこめて。

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