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プロポーズなんか待てない。

今年、結婚した。
コロナが騒がれるほんの直前、8年付き合ったツレピの姓を名乗ることにした。

ツレピはやることを先送りしがちの男なわけだが、私はというと待つことができない女だった。

付き合って7年目。冬。確か11月くらいだったか。
その日は大学院の同期たちとご飯を食べに行った。
同期の1人が、嬉しそうに頬を赤らめて、言った。
「あのね、プロポーズされたの!」
聞けば付き合って1年ほど。お互いに結婚を意識して付き合っていたという。帝国ホテルでフルコースを食べた後、パカっと銀のあの、アレなんていうの?お皿被せるやつ。あれをパカっとあけたら、なんとそこに指輪があったというのだ。
それを聞いた女子たちが黙っていられるわけもなく、「えー!やばー!」だの「すてきー!」だの、わいきゃい大騒ぎだった。


黙っているのは私ともう1人。


彼女も付き合って7年とか8年とか経つ彼がいた。


「やばい」



女子たちとは違う温度感の「やばい」だった。あいつ、どう思ってやがんだろうという焦燥感からの「やばい」。それは、私も同じく思っていたことだったから、その「やばい」に「やばい」を上乗せした。
「結婚とかを考えたら、今が潮時なんじゃない?」
彼女は真剣な顔をして言う。
7年と言う年月が、急に実感を伴って私の肩にのしかかったような気がした。
彼女はおもむろに口を開いた。


「わたしたち、このまま漫然と付き合っていくのかな」


それだ〜〜〜〜〜〜〜。そういう不安だ〜〜〜〜〜〜〜。


「漫然」という言葉が一番正確だ。
その「漫然」の先にあるものが、なんなのか分からないことが怖かった。何よりも怖かったのは、彼が私との関係をどう考えているのか知らないことだった。


家に帰ったら、彼がいた。私が、そこはかとなく暗い顔をしていたのだろう。タイミング悪く勘が聡い彼は、私に問う。
「なんかあった?」
私は言うか言うまいか迷った。
このタイミングかなぁ。どうかなぁ。
でもこの「漫然」を共有するべきなのは彼以外の誰でもなかった。


「あの」
「うん」
「あなたは、私との関係をどのようにお考えか」


今思えばとんだ果たし状だ。
ひでぇ言い方をしたものだ。
思いがけない果たし状に、彼は明らかに呆けた顔をしていた。
私はことと次第を説明した。
今日、プロポーズの話を聞いてきた。
付き合って1年ほどだったらしい。
最初から結婚を意識してたらしい。
私たちは7年とか付き合ってるけど、結婚とかの話は出てない。
このままだと、ただダラダラと付き合うことになってしまうんじゃないかと心配になってる。

「あなたは、私との関係をどのようにお考えか」

彼は呆けた顔を下に向けた。
何かを逡巡していた。
暫く沈黙が流れたような気がする。
意を決したように、彼が私を見た。

「ボーナスが出たら指輪を買おうと思っていました」

えっ

あっ

あ〜〜〜〜〜〜〜、
ご、ごめ〜〜〜〜〜〜〜ん


「宿題やろうとしてたのに、お母さんから『宿題やったの?!』って聞かれた気分だったよ〜〜〜〜〜〜〜」

クリスマスに銀座のティファニーへ行った。
シンプルなものにしてもらった。

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ツレピに、あの日のことを聞いた。
「あんな風に聞かれてどう思った?」
ツレピはベッドでゴロゴロしながら、笑って言った。
「あれはプロポーズだよね」


たしかに。
ひでぇプロポーズ。

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