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【短編小説】AI小説家

《約900文字/目安3分》


 真夜中、高層マンションの窓から外を眺めた。立ち並ぶビル、空を走る車、どれもが光りを放ち星空のようだが、やっぱり本物の星空には敵わない。こんな景色はくだらない。

 たばこを一本取り出し、着火した。外に見える看板にはこんなことが書いてある。

「ついに新作! あの大人気、AI小説家が待望の新シリーズを発表!!」

 AI小説家、ね……。

 こんな世界はくだらない、そう思う。小説業界は、AIに支配されてしまった。

 AIになんて頼らず、俺は俺自身が書いた小説で世界を驚かすんだ。そう決意して俺はまた机に戻った。

 まずは新人賞だ。AIが書いた小説が、どれだけつまらないものかわからせてやる。俺は万年筆を持って、原稿用紙のマスをどんどん埋めていった。

 そして、締切の前日、ついに俺は完成させた。誰もがあっと驚く傑作だ。これを、人間だけの手で作ってやったんだ。自分を誇らしく思う。

 早速、俺は近くの出版社へと向かった。門前払いは覚悟していたのだが、意外にもあっさりと新人賞に応募してくれた。

 俺はほっとして出版社を後にした。ただ、さっき出てきた編集者の顔を思い出すと、いまでもゾッとした。理由はわからない。


 結果のメールが届くまでは気が気でなかった。あのセリフはこうしたほうがよかったか、いやでもあれのほうがいいだろ、いやどうだろう。そうやって夜も眠れない日が続いた。

「俺はAIを使わずに小説を書いてやったぞ」

 近所のバーで、飲み友達にそう言うと、彼はとことん馬鹿にした。

「そうか。それは宝の持ち腐れだ」
「まるで生き残りの侍だな」

 散々と言われたが、俺は堂々と宣言してやった。

「AIになんて頼らなくたって面白い小説は書けるんだ。俺はAIを絶対に使わない」


 オチはもっとひょうきんなほうがよかったのではないか、いやもっと感動的な、いやあれが一番ベストだろう。いつもと同じように眠れない夜のこと。

 結果のメールは突然だった。俺の元に、あの出版社から一通のメールが届いた。

 メールにはこう書いてあった。

「おめでとうございます! AI評価は満点でしたので最優秀賞となります。後日こちらにお越しください」

 そっと俺はメールを消去した。




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