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箸にも棒にも 【驚愕】

毎年、という取り決めはありませんが、定期的に仲の良い友人と会合を開きます。

2016年、盛夏。この年の参加メンバーは以下の通りです。

アズマ:強面、ついでに超好戦的
出来杉:秀才、とにかく出来る人
PSY:最年少、一人だけ歳が離れている
りょん:今回は紅一点、常識人


ちなみに、僕以外は関東圏在住。20年ほど前に、大阪開催があったのですが、後にも先にも1度だけ。後は僕が遠征しています。少数派は辛いです・・・。

全員が恐ろしく我侭、いやマイペースなので、全くまとまりがありません。

待ち合わせも適当で「暗くなる前に新宿で」毎回こんな感じです。

「暗くなる前ってアンタ・・・」「新宿のどこだよ?」と突っ込みどころ満載ですが、誰も指摘しません。

きっちり時間を決めても数名しか集まらず、戦犯探しが始まり険悪な雰囲気になるのです。

それなら「最初から決めなければ良いんじゃない?」という妥協案ですから、仕方ありません。


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一通り仕事を済ませた女将さんが退室すると、ようやく会話が始まります。

アズマ「では、東京へようこそ。歓迎するよ」

いわゆる乾杯です。お客さん扱いですから、東京遠征も悪くありませんね。

一同 「遠いところお疲れ様~!」

僕  「うむ、ご苦労」

出来杉「PSYは何年ぶり?今まで何してた?」

りょん「うんうん、引きこもってたの?」

PSYは一人だけ、ひと回りほど歳が離れているため、高確率でいじられ役になってしまいます。残念ですが仕方ありません。日本において年功序列は健在なのです。存分に場を盛り上げると良いですよ。

PSY「いや、真面目にやってますって、失礼な」

僕  「けど言うほど、久しぶりでもないやろ?」

りょん「あれ?二人は会ってたの?」

僕  「? いや、温泉行ったやん」

りょん「二人で?」

僕  「そんなわけあるか(笑)」

りょん「どういう事かな?」

僕  「皆で行ったやろ。出来杉君はいなかったけど」

出来杉「そうなのです?」

出来杉君が、『俺、誘われてませんけど?』と言わんばかりに、剣呑な目で参加メンバーを見回します。けど、誰も声を掛けなかったのは不自然です。何かおかしいな。

アズマ「いや、俺は知らん」

りょん「私も初耳かな」

僕  「何の冗談や(笑)なぁPSY?」

PSY「俺も知らないっス。ていうか行ってません」

僕  「PSYのくせに何裏切ってんねん・・・」

アズマ「それは、いつの話?」

僕  「いつって・・・今年?」

アズマ「何月だ?」

何月だっただろうか、急いで記憶を辿ります。温泉街が閑散としていて「暇そうですね」と空気を読まず口にしたPSYが旅館の仲居さんに嫌な顔をされたはずだ。

その際、『河津桜(早咲きの桜)が来週には咲き始めますから、ここも賑わいますよ』と窘められていました。という事は1月末くらいだな。

僕  「1月末か2月の初めくらいやろ?」

りょん「なぜ疑問形?」

僕  「いや、それは・・・」

アズマ「どこの温泉?」

僕  「君の地元やん、案内してくれたやろ?」

アズマ「知らん」

僕  「待て待て!そうや、PSYがやらかして仲居さんに怒られたやん?」

PSY「どういう扱いっすか。ていうか行ってませんから」

この辺りから雰囲気が一変し、皆が眉をひそめ始めました。後方待機しつつ状況把握を心情とする出来杉くんの目が怖い・・・。て言うかこっち見んな。

僕  「旅館の露天温泉巡りしたやろ?寒過ぎて皆ぼやいてたやん」

アズマ「だから知らん」

PSY「いや、行ってねーし、薬でも始めました?」

りょん「・・・・・・」

もはや完全に不審者です。哀れんだ目でみるのは止めたまえ。あからさまに、りょんが警戒し始めました・・・。

僕  「出来杉くん、何ですかその目は?」

出来杉「いや、矛盾があるなと思いまして」

僕  「矛盾?どこが?」

出来杉「今年の1月でしょ?なら、なぜ今日来たのです?」

僕  「どういう意味?」

出来杉「今まで1年に2度上京した事ありましたっけ?」

僕  「・・・・」

出来杉「いつもならメンドクサイからまた来年とか言いますよね?」

アズマ「あぁ、それは言えてるな」

僕  「・・・・」

そう言われてみると、確かにその通りです。この面子と東京で会うのは、1年に1度というマイルールを設定しています。

順番が逆、つまり、飲み会を開催した数ヶ月後に、旅行というパターンなら応じたかもしれません。

年初に温泉に行ってるなら、今日の誘いは断っているはず。何かが間違っているような気がしてきました。とりあえず話題を変えた方が良さそうです。

僕  「なんかすまん、勘違いやったかも」

一同 「・・・・・・」

なんだろうこの展開は。針のむしろ過ぎる。りょんに至っては、恐怖からか笑顔が引きつっているではないか。どうすんねん、これ。

その後、疑惑の目に晒されながらも、強引に話題を打ち切りました。とはいえ、微妙な空気が和む事はなく、終始湿っぽい会合になってしまいました。すまぬ・・・。



例年、日曜日から月曜日に掛けて、1泊2日で遠征します。

休み明けの朝、出勤前のサラリーマンを眺めつつ、「さぼうる」で優雅にコーヒーを飲むのが慣わしです。

ですが今回ばかりは、事情が違います。一刻も早く自宅に戻らなくてはなりません。というわけで、飛行機を最速の便に変更し、一路大阪へ。

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帰宅するや否やPCを立ち上げ、目的のファイルを探します。

フラッシュメモリーに保管してあるので、すぐに見つかりました。

このファイル、なかなかの長文なのです。試しにnoteの下書きに貼り付けてみたところ、文字数は9万弱・・・。

ついうっかり、投稿ボタンを押してしまっては大惨事ですから、すぐに削除しておきましたとも。

目当ての記述がないか、上から目を通していきます。程なくして、ファイルの下方に見つかりました。

そこには、友人どもと出かけた温泉旅行の記録が事細かに記されていたのです。

ファイル名は「夢日記」。


良くも悪くも記憶の通り、そう、記憶通りの内容が記載されていたのです。拙い文章ですから、なかなか伝わらないと思いますが、衝撃としか言い様がありません。

夢日記を書いている時は、当たり前ですが「夢だった」と認識しているのです。

日記を付けてから、東京で友人どもと飲み会をするまで、10日から2週間程度しかありません。

それにも関わらず、いつの間にか現実だと思い込んでいたのです。

例えば、会合が5年後、10年後だったらどうなっていたか考えると眩暈がします・・・。

一人だけ事実とは異なる記憶を持っているのですから、世間からどういう扱いを受けるかは推して知るべしでしょう。

というわけで、幽体離脱を果たせぬまま、夢日記の継続を一時断念する事に決めました。

ですが、メリットもあるのですよ?寝ながらにして、楽しい温泉旅行の記憶が増えるのですから、超お得ではありませんか。

何とか安心安全に夢の旅人になる方法はなかろうか、と未だに思案する今日この頃です。

余談になりますが、夢日記を削除せず、後生大切にしまっている理由についても触れておきますね。

今後、もし「一人だけ記憶が違うな」と感じる機会があれば、確認する術はあった方が良いと判断した次第です。

20年後、あるいは30年後になるかもしれません。その時、人里離れた地で「異世界から来たと嘯くポンコツジジイがいる」という噂が立てば、それはたぶん・・・。


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