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戦争映画メモリアル:『銃殺!ナチスの長い5日間』(1969年・イタリア)

 1969年のイタリア=ユーゴスラビア合作映画"GOTT MIT UNS"(邦題:『銃殺!ナチスの長い5日間』アンドレア・バルバート監督)は誤解されがちな作品。当時、イタリアではイタリア製西部劇マカロニウエスタンとイタリア製戦争アクション映画マカロニコンバットが乱作されていたので、この作品もそれらのB旧作品と混同されがちだった。

 主演がフランコ・ネロとバッド・スペンサーというマカロニウェスタンの常連ということもあってB級戦争映画と勘違いされがちなのが残念だが今観てもかなり重厚な見ごたえのある戦争映画だ。

 この映画のストーリーはオランダにあったカナダ軍管轄のドイツ軍将兵の捕虜収容所でドイツの脱走兵が軍法会議にかけられ処刑されたという実話に基づいている。

 処刑されたのはドイツ海軍の兵士2名で、処刑実行日がドイツが連合軍に降伏した5日後の1945年5月13日だった。
 しかも、その処刑のためにドイツ軍捕虜たちにカナダ軍が小銃とトラックを提供したということで今もなおカナダ軍の対応が問題視されている事件なのだ。

 映画ではカナダ軍の捕虜収容所所長がドイツ軍捕虜を統率できず、捕虜内で行われる軍法会議を容認し、しかも手を貸してしまうという内容だったが事実も凡そそういうことだったらしい。

 映画"GOTT MIT UNS"はそれをイタリアで制作して告発したものだったが世界的に注目されるまでには至らなかった。
 日本ではテレビで放送されるに留まり、その後ソフト化もされていない。

 この”13 May 1945 German deserter execution”(1945年5月13日のドイツ軍脱走兵処刑事件)はオランダ映画『ブラックブック』でも描かれたが、事件そのものを取り上げたのはこの"GOTT MIT UNS"だけだった。

 カナダ軍の所長役にイギリスの俳優、リチャード・ジョンソンとやはりイタリアB旧作品によく出演していた人なので、フランコ・ネロ、バッド・スペンサーと横並びになると、ついついマカロニコンバットと勘違いされてしまう。

 音楽はエンリオ・モリコーネで音楽は重苦しいもの。モリコーネの他のホロコースト関連の映画作品『裂けた鉤十字』や『赤と黒の十字架』の劇伴音楽と曲想がよく似ている。

 この辺りからも"GOTT MIT UNS"が大真面目な作品だと分かるのだが残念ながら戦争映画史の中に埋没してしまっている。

 原題の"GOTT MIT UNS"はドイツ語で「我ら神と共に」の意味。プロシアの軍隊の伝統で、ドイツ軍兵士のバックルにはこの言葉が刻まれていた。
 ともすれば、ナチスの戦争加害と残虐行為が描かれがちな戦争映画ではあるが、これは連合国側の関与も描いているのだ。
 そして、そこに介在するのは戦争が終わっても、捕虜収容所で生き残っているファシズムの姿である。
 自らの立場や権威、上からの命令や評価を意識するがゆえに、そのファシズムに手を貸してしまうカナダ軍の収容所長。
 生き残ったファシズムというものが、実は民族も国籍も関係がないという絶望的なメッセージが伝わってくる。

 画像はドイツで発売されたDVDのジャケットだが現在は廃盤になっている。
 アメリカでも”The Fifth Day of Peace”のタイトルで公開されDVD化もされていたが現在では廃盤。

 埋没を許すには惜しい佳作である。

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