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旅の話.44 カイロ③

パピルス屋事件

次の目的地はギザ。
最も有名な、クフ王の大ピラミッドを含む、3つのピラミッドがある場所だ。しかし車は途中で、いかにもなパピルス屋の前で停まった。
は~、やっぱりな……とうんざりした。
ドライバーは勝手に降りて、僕の席のドアを開ける。僕は、
「パピルスは欲しくない、早くギザへ行ってくれ」と強く言ったが、
「見るだけだから」と言って、店内に引張り込まれた。

店内には6人の店員がいて、客は僕1人。
やたら陽気なマッチョの店員が僕に付いて、
「じゃあ、これからキミに、パピルスの作り方を説明するよ!!」
と、言った。一応知っているので、何とも思わなかった。
そして、
「スチューデントなら50%オフだよ!!キミはスチューデントかい?」
と、聞くので「違う」と答えた。
「そーか!でも特別にスチューデント割引にしてあげるよ!!」
と、言った。何その雑なシステム。

最初に、大きなパピルスを持ってきた。
「いらない」と言うと、次に少し小さなパピルスを持ってくる。
そんなやり取りを5回ほど繰り返し、最後は“しおり”になった。
「5こ買うと、2こおまけ!!」
なんて言うので、
「いいかげんにしてくれ、買う気はない」
と、言うと、ドライバーが「もう行こうか」と席を立った。
車に乗り込んだところで、僕は文句を言った。
「ただで涼めて、お茶も飲めただろ」
と言われ、ダメだこりゃと思った。

ギザ

ようやくギザに着いた。
ピラミッドと砂漠の見える風景の背後は、ホテルやレストラン、ファーストフード店がひしめく、いかにも観光地って感じの街だった。
そこを素通りして、少し離れたところにある馬小屋に車は停まった。
そして、ドライバーは勝手にどこかへ行ってしまった。
馬小屋のボスらしき、いかにも調子良さそうなオヤジが出てきた。
小屋の中に案内され、料金の説明が始まった。
うんざりして、疲れた。
しかし、ギザは広いし暑い、歩くと疲れるし時間がかかる、次々とバクシーシを要求されると言うのは、本当だと思った。諦めて仕方なく、一番安い100£Eのツアーを頼んだ。高いとラクダに乗れるが、馬でいいや。

馬と一緒に、痩せた小さいおっさんが登場した。
そのおっさんをガイドに、馬に乗ってピラミッドへ出発した。

高校生の頃、アメリカのオレゴン州で1日乗馬体験をした事がある。
一人で馬に乗り草原を走った経験が一応あるので、不安はない。
小さいおっさんは、なぜか正面方向へ行かず、横から共同墓地を抜け、横からスフィンクスを見せてくれた。
次の小ピラミッドでは、あまり近くへ行こうとせず、
「ここで待っているから、行って来い」と10£E渡された。
「なんで?もっと近くへ行ってよ」と僕が言うと、少しだけ近づいて、
「ここまでだ」と言う。
しかたなく諦めて、馬から降り、歩いた。
ピラミッド内部は、期待したレリーフどころかスプレーの落書き。

もう何から何までがっかり。期待を裏切られ過ぎた僕は、とうとうキレた。
アスワンもルクソールもアブシンベルも、行くのやめた。
早くイスラエルを目指そうと決心した。

約束の待ち合わせ場所に戻ると、やっぱりガイドの小さいおっさんは居なかった。ムカついた僕は、勝手に歩き出していた。残る2つのピラミッドを見て、地下鉄で帰ろう。ホテルに帰ったら文句を言ってやろうと思った。

しかし、ガイドの小さいおっさんは、馬で走り回り僕を見つけた。
よく見ると、肩と手に怪我をして、血が出ている。
僕は、ハッと何かが解った気がした。
なぜ、スフィンクスを正面から見られなかったのか、ピラミッドの近くまで行けなかったのか……
多分、これは正規のツアーではなく闇ツアーだったからだ。
多分、厳しいナワバリやルールがあって、もしかすると僕がピラミッドのもっと近くへ行ってくれと言ったことで、無理をして、ルールを破り、誰かに殴られていたのかも知れない。もし僕がこのまま勝手に帰っていたら、彼はもっとひどい目に遭わされていたかも知れない。
憶測だけど、何だか僕は自分勝手で、彼が気の毒に感じてしまった。

馬小屋に戻り、彼には5£Eのバクシーシをあげた。
めちゃめちゃ喜んでいた。
馬小屋のボスは、僕の曇った表情を見て、
「ガイドが悪かったか?」と、聞いた。僕は一応、
「彼は良かった」と、言っておいた。
「エジプトの挨拶を教えてやる」と、言って僕の背中に一度手を当て、バーン!と強く叩いた。何だかスッキリした。
「お前もやってみろ」と言うので、やり返したら、
「もっと強くだ!」と言うので、結構強く叩いた。
「そうだ!」と言って、髭でジョリジョリするほっぺを、僕のほっぺにこすり付けてきた。さらにふざけてチューしようとするので、逃げた。
ちょっと面白かった。

つづく

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