高木琢也が知りたくて…「監督の異常な愛情」

記事の初公開日:2018年 07月 25日

「監督の異常な愛情ーーまたは私は如何にして心配するのをやめてこの稼業を・愛する・ようになったか」
ひぐらしひなつ著(内外出版社)

正直、高木琢也監督の部分のみを読むために購入した。
60ページ弱の文章のためだが、どうしても手に入れたくなるのは高木琢也監督について、今まで書かれている文章、書籍などがあまりにも少ないからだ。
Vファーレン長崎をずっと取材し続け、ついこの前までクラブのオフシャルライターを務め、最近はWeb上で記事を配信しつづけている藤原裕久さんの記事がたよりというほど高木監督を取材したものがない。
J2に昇格してから5年の間に地方の小さなクラブチームを2回もプレーオフ圏内まで引き上げ、6年目でJ1自動昇格まで勝ち取った監督の手腕はもっとメディアが取りあげてもいいはずだ。湘南のチョウ監督、松本山雅の反町監督など好敵手の監督たちの数ページにわたるインタビューは何度もサッカー雑誌に取り上げられるのに、複数ページに渡る高木監督のインタビュー記事を見かけたことはほとんどない。
J2のそれも西の端のチームの監督を引き受けたばっかりに、高木琢也の監督としての仕事は目につきにくく評価されにくくなったんじゃないか。まだ本州のJクラブだったら、もっと早くにJ1クラブの監督を歴任していたんではないかと、ずっと心のどこかで高木監督に申し訳なく思う気持ちがあった。だからこそ自力昇格でJ1を掴んだ時はなににも増して嬉しかったし、その時の第一声「長崎の人々を代表して、選手のみなさん、ありがとう、おめでとう」という言葉を そのまま監督に向けての言葉として心に大切にしまっている。

高木監督の監督としての魅力を深く感じたのは2回目のプレーオフを勝ち取った年のアウエー最終戦だったと思う。
ツアーバスの中で「サポーターの皆さんも選手と同じ気持ちで挑んでいただきたいので、選手が今朝全員で見た映像を皆さんも見てくださいという監督からのメッセージがありました」と言ってトータル20分くらいの3本の映像が流れた。
初めの1本は2年前の初めてのプレーオフで善戦したが敗退したときの気持ちのこもった試合のダイジェスト。2つ目はACミランとリバプールが戦った2004-5UEFAチャンピオンズリーグ決勝の映像。あの「イスタンブールの奇跡」と言われた試合だ。そして、最後はリバプールサポが歌う[You'll never walk alone]。歌を歌う老弱男女のサポーターの顔がアップで切り替わっていく。
ものすごく感動的な映像集だった。選手たちの気持ちを作るモチベーションフィルムだったのだろう。見たサポーターの気持ちも高まった。

後日、練習場で監督にお会いした時、その映像のことを話したら、笑顔で対応してくれて、監督自身が編集制作したものだと話してくれた。そして「僕はリバプールファンではないんですけどね」というオチも。さらにファーガソンの「マンチェスターユナイテッド」ファンだといういうことも話していただいた。
「ああ、高木琢也って監督は顔に似合わずクールな戦術家と思っていたが、実は大きなロマンチストでもあったんだ。そのロマンチストの部分がとても純粋な人なんだ」と興味が強くなったのだ。

その頃から、高木監督の試合前後のコメントなど言葉の端から端までじっくりと拾ってなにを言いたいのか読み解こうとするようになった。するとまたとても興味深い言葉遣いがあったりして、「あ、それはどんな意味で使われたんですか」と聞きたくなることもよくあるのだ。
監督としての精神性や考え方などもっと聞きたいし、それがわかるとこのときなぜこういう戦術を選ばれたのかなどさらに深く試合が楽しめるような気もしていた。


この本を読んで、ひぐらしさんが書かれた高木監督は、私が感じている高木監督と大きなずれがない。そこはとても安心させてもらった。
さらに、ありがたいことに最近取材された部分が多くて読んでいて、そのエピソードはあの時のあのことだとわかりやすい。試合のシーンを思い出しながら監督の意図を追体験できた。
知らなかったエピソードもいろいろある。高木監督に影響を与えた監督のことなど初めて知った。そしてその名前に驚きつつも私的に大感激だった。

ファンサポーターとして高木監督の率いるVファーレン長崎を応援してきた歴史やエピソードを振り返ってみるのも楽しい。そんな内容だった。まだ読んでいないが取り上げられている他の監督さんもなかなか異色揃い。ついこの前までJ2を闘ってきたので親しみのある内容になっていると思う。

さあ、酷暑の中の後半戦。
高木監督の異常なまでのサッカー愛を楽しもう。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?