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ASDの世界観を知り治療の構造化を行う

自閉症スペクトラム障害Autism Spectrum Disorderの方は、気づいていないだけで、知らず知らずのうちに目の前に登場しています。気づかないのは、その症状が極々軽度だったりするからです。ただ「変な人」と思うだけで終わってしまいます。医療者においてASDに気づくことは、治療関係を構築するためには必要です。それは、患者さんの協力がなければ治療が順調に進まないことが多いからです。

ASDの方の独特な『世界観』を知る

1.社会性の問題
ASDの方の人との付き合い方は独特です。入院環境は集団生活になります。集団生活では、どうしても「浮いてしまう」のが特徴です。(成人患者であれば、入院中に「浮く」様子が目立つことは少ないのですが、小児の場合は入院生活を注意深く見ると感じるでしょう。)

2.ド真面目・ド正直
ASDの方は、接し方のルールが分からないのです。例えば、「この言葉をいうと相手を傷つけてしまうだろうな」と誰もが想像できる言葉を、そのまま素直に言ってしまい、相手を傷つけてしまう。社会生活では暗黙のルールがあり、それを理解できないため周囲から孤立してしまう。

3.コミュニケーションの問題
①あいまいな内容が苦手、細かいことにこだわる
伝える内容のなかで、重要な情報とそうでない情報を取捨選択できないので、話がだら~っと長くなる。すべての情報を伝えようとしてしまうので、話がまとまらない。本人は一生懸命伝えようとしている様子が特徴的。

②あいまいな聞き方は困る
医療現場で行うopen questionはASDの方にはつらい質問になる。「体の調子はどうですか?」と言われても、「え?どうって言われても…。何を答えたらいいの?」という反応になる。その場で何が話題になっているのか、多くの人は読み取ることができる。くみ取ることができる。ASDの方は、それが苦手。ASDの方への問いかけは、できるだけ具体的にした方がよい理由はココにある。

③一方的に話す
ASDの方は、自分の関心があることを相手の興味の有無に関わらずno stopで話すことがある。その話の文脈も「飛ぶ」ことが特徴。話が下手、というわけではなく、本人の関心がある内容をそのまま話してしまうため、話が飛んだように聞こえてしまう。また、相手が理解しやすいように話す、ということが苦手なので、相手にとって「分からない話」になってしまう。

④言葉の裏を読み取ることが苦手
「正直である」という特徴に似ているが、言葉をそのまま受け止めてしまう。あいまいな言葉も文字通り受け止めてしまう。
例えば、「ちょっと待ってください」という言葉。多くの方は、相手が来るまで待つでしょう。ASDの方は、文字通り「ちょっと」待った後、先に行ってしまう。本人の中では、待ったつもり。でも一般的には、「待てない人」と映ってしまう。

3.パターン行動
決まった行動「パターン」がある。同じ時刻の同じバスの同じ座席に座る。この決まった行動ができなければ、本人には嫌なことになる。苦痛になる。ときには感情が荒ぶることになる。入院生活でも同じで、融通が利かない人、と映ってしまうことがある。

治療のポイントは『構造化』である

①基本姿勢
「患者は自立した個人である」という認識のもと中立性を保持した姿勢を心がける。

②治療目標を具体的に設定する
あいまいな言葉は理解できません。具体的な治療目標を言葉にして提示するとASDの患者にはうれしいのです。「白血球の数が〇〇まで改善すること、熱が〇〇となることが治療目標です」と明確化するようにしましょう。

③困ったことは正直に言う、治療者の限界を明示する
医療者側がどんなに頑張っても、コミュニケーションがうまくいかないことがあります。その場合は、「〇〇に困っています」、「一緒に〇〇について考えてほしい」と伝えることで、ASDの患者と一緒に治療の枠組みが形作られることになります。

その他にも、「なんででしょうね?」という問いかけで、患者が内側から感じていることを自ら考えるように促す内在化する方法があります。患者にとって、「〇〇するようになったのは、▲▲がきっかけかな?」と理解を促すことにもつながります。一緒に考えるようにも感じてもらえるようで、コミュニケーションの取りやすさにつながることがあります。

患者さんの対応に困ったとき、実はASDだったということも経験します。ASDの方と良好な治療関係を構築するためには、まずASDであることを認識すること、そして認識した後は、構造化した対応を行うことを心がけましょう。そうすることで、ASDの患者さんだけでなく医療者にとってもHappyな結果が生まれることでしょう。

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