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コンフリクトと5つのスタイル

「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」

Alfred Adler

これは、心理学者 アルフレッド・アドラーの言葉です。
人は常に他者との関わりの中で生きており、対人関係から切り話して生きることが難しい。どんな場面でも対人関係がごちゃごちゃした状態が発生します。この’ごちゃごちゃした状態’コンフリクト conflict です。
今回、コンフリクト・マネジメントについてまとめます。

コンフリクトはいつでも起きる

コンフリクトとは、相反する意見、態度、要求などが存在し、互いに譲らないことで緊張状態が生じることです。あらゆる組織、人間関係においてコンフリクトは発生し、どんな人でも経験します。

人との関わりで「ちょっと心配」、「ちょっと困った」という潜在的なコンフリクトもあり、生きている限りコンフリクトと付き合っていく必要があります。

コンフリクトは、組織を破壊する困った問題という見方から、組織目標に貢献する有益な存在という認識に変わっています。コンフリクトは自然な現象であると捉え、上手く活用することで、組織内の推進力が高まり、より高い成果が得られると考えられています。(高橋正泰:組織コンフリクトの源泉と発言過程)

コンフリクトの種類:3つの対立

条件の対立

職場には様々な立場の人が互いに協力しながら働いています。医療現場もそうです。医師、看護師、ナースプラクティショナー、看護助手、事務職員、掃除の方、警備員など様々な人がいます。
条件の対立とは、互いがもつ条件の違いによって起こる対立です。もちろん上司・部下の上下関係も含みます。
例えば…こんな場面。病院側は経営の観点から「もっと救急患者を受け入れるべきだ」と主張している。しかし、実際に対応できる看護師が数名しかおらず、常にフル稼働中の現場は、「人がいないのにこれ以上は無理だ!」と主張する。よくあるシチュエーションですね。

感情の対立

互いが抱いている感情が原因となって起こる対立です。
満足感vs不満足感、優越感vs劣等感などがあります。「なんであの人だけ優遇されて、私たちはこんなに仕事を押し付けられるの!」という場面も感情の対立を生みます。

認知の対立

個人の価値観や思考の違いが原因で生じる対立です。「認知のズレ」と説明されていることもあります。
人はこれまでの日常、経験、知識の違いで「ものの見方」が異なります。見えている光景をどのように認識するかは違います。
医療現場でも生じます。医学的知識が豊富な医師は、「この手術は非常にリスクが高く、術後合併症が発生する可能性が高い」と説明しても、患者・家族にとって(どんなに説明を聞いていたとしても)「なんでそんなことが起きてしまったのか?」と対立することもしばしばあります。

コンフリクトへの対応

人は見えている景色が異なる

まず、「人は見えている景色が異なる」という前提があります。これは重要なことです。ある人にとって大きな問題でも、別の人にとっては小さな問題であることもあります。

コンフリクトを予測できるか否かも人それぞれです。小さな火種の段階で察知する人もいれば、大火になって察知する人もいます。小さな火種のうちに解決に働きかける人もいれば、見守る人もいます。「私は問題と思っているのに、〇〇さんたちはそれを理解してくれないんだ!(ぷんぷん!)」という場面が生じてしまいます。

5つのスタイル

さて、どうやってコンフリクトを対応するのでしょうか。

ピッツバーグ大学(米国ペンシルベニア州)のケン・トーマス教授とラルフ・キルマン教授が提唱した「トーマス・キルマン・モデル」が知られています。これは、主張性Assertiveness協調性Cooperativenessの2軸によって5つのスタイルを提示しています。

この5つのスタイルを駆使して、コンフリクトに対処することになります。自分が良くとるスタイルはどれか、実際にやってみて苦手と感じるスタイルはどれか、知ることも重要です。

競争…相手を犠牲に(説得)して、自己自分の意見を通すスタイル
協働…相手を尊重しながら、自己主張も行い、Win-winを目指すスタイル
妥協…互いに要求水準を下げ、部分的に解決する落としどころを探るスタイル
回避…その場で解決しようとせず、対立する状況そのものから回避するスタンス
適応…自分を犠牲にして、相手の要求を受け入れるスタイル

具体例を見てみましょう。

あなたは、外来医長です。救急外来の患者数が減っています。Walk-inの患者数も、救急搬送数も減っています。病院から外来患者数を増やすように指導が入りました。救急外来担当する医師(複数の科で順番に担当しているとします)、外来スタッフの意見を聞いてみると、
医師ら 「病棟や検査など忙しい」
    「自分の科でなければ見る気はない」
外来スタッフら 「人手が少ないので大変かも…」

さて、5つのスタイルを使って対処してみましょう。

競争 「とにかく救急患者を受け入れてください。
    これが病院の決定です。」(強気な姿勢で)
協働 「どうしたら救急患者を受け入れられるか、
    一緒に考えてくれませんか?」(フレンドリーに)
妥協 「じゃあ、1人でも多く受け入れてくれないかな?」
   (フレンドリーに)
回避 「どうかな~やってくれないかな~。
    あ、会議の時間だから、対応しててね。」
   (ささっと逃げるようにその場を立ち去る)
適応 「そうか・・・。無理かな。わかったよ。」

どのスタイルで対応することが望ましいのかは、相手との関係性、問題の重要度・緊急性、対応すべき期限などを考慮して決めることになります。

常にあるコンフリクトを組織の成長につなげていきましょう!

受講:2024年7月14日

参考書籍

コンフリクト・マネジメントの教科書―職場での対立を創造的に解決する

本書は、職場での対立を建設的に解決したいと考えるすべてのビジネスパーソンに向けた必読書です。著者は豊富な経験と具体的な事例をもとに、対立をチームの成長と創造性の源泉に変える方法を紹介しています。対立を恐れずに受け入れ、効果的なコミュニケーションと問題解決のスキルを身につけることができます。職場環境を改善し、チームのパフォーマンスを向上させたいと考える方にピッタリな1冊。

職場の紛争学 実践コンフリクトマネジメント

本書は、職場での対立や紛争を効果的に解決したいと考えるビジネスパーソンやリーダーに向けた実践的なガイドです。著者は豊富な経験と具体的な事例をもとに、対立を建設的に解決し、チームの成長と創造性を引き出す方法を紹介しています。

ナーシングビジネス 2022年10月号(第16巻10号)特集:「対立」にこそ「成長」へのヒントがある コンフリクトマネジメントのすすめ

看護師や医療従事者を対象とした本です。医療従事者にとって読みやすい1冊です。職場での対立や意見の衝突を避けられない医療現場において、対立を建設的に解決し、成長の機会に変えるための具体的な方法が紹介されています。医療従事者が経験する内容も踏まえて記載されています。医療チームのパフォーマンスを向上させ、より良い職場環境を築きたいと考える方にとって価値ある1冊。


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