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親の介護が始まった日・第七話「デイケア施設の意外な格差」

色々な契約や手続きから始まり、認定されるまで時間がかかりましたが、なんとか父の介護認定がもらえて、生活の方向性がかたまってきました。

月に一度の病院への通院は、私が車を運転して父を運び、短い距離の移動はレンタルした車椅子を使いました。
又、平日の火曜日と金曜日に日帰りのデイサービスを利用して、朝の8時40分頃に施設の方が専用の送迎車で迎えに来てくれる事になりました。

施設の運転手さんは女性の気さくな方で、明るい挨拶と、ゆっくりとしか移動出来ない父に「大丈夫ですよ〜」っと言いながら、腰のベルト辺りを持って支えてくれて、父のペースに合わせて、ゆっくり歩き、しっかりサポートをしてくれました。
それを見て、流石だね、介護のプロに任せられるから安心だねっと、母と私は胸を撫でおろしました。

施設では、クイズ大会をしたり、絵を描いたりと、色々な楽しい企画を毎回用意して頂いたり、施設内でウォーキングしたり、大浴場のお風呂に浸かったりと良い思いをさせて頂けている様で、帰宅した父は、今日はこんな事をしたよっと、笑顔を見せながら明るく話す様になって、一気に明るい介護が進んでいきました。
なんとかなりそうだな…と、この時はそう思っていました。

……施設に通い出してから3ヶ月目くらいした頃、送迎の運転手さんが若い男性に代わりました。
挨拶をした時には物腰のやわらかい物言いだったのですが、父の腰のベルト付近を持って歩くサポートしてくれている際に、力技というか、腰をグイグイ前に押す出す様な移動をさせていたので、歩行が困難な父は軽くバランスを崩しました。
危ない!と思った私は、すぐに横に行き、父の支えに入りました。
その時に私が、父は脳梗塞とパーキンソン病を患っているので、ゆっくりとしか歩けないんですと伝えましたが、その男性は「分かりました、気を付けますね〜」っとさらっと言って、サッサと父を車に乗せて行ってしまいました。
次の施設利用者の待ち合わせ時間もあるかも知れないけど、あれはないよね…。
見送る母と私……
…なんか、前に来てくれてた運転手さんと違うね……
私達は心配でした。

……私は父を見送ってから遅れて出社し、少し残業してから仕事から帰ると……

母が疲れきった顔をして居間で座っていました。

どうしたの?と聞くと、父が今にも倒れそうな白い顔をして帰って来たので、玄関までなんとか運んで、そこに布団を敷いてしばらく寝かせていたそうです。
「ええっ⁉︎……」
どうしてそうなったのか話を聞くと、運転手さんが例の如く急がせていたそうで、父をグイグイ引っ張って降車させるものだから、父が疲れてしまったそうです。
更に、母は力が無いのでサポートも難しいのに、上手く歩けない父をすぐに母に託して「じゃ、失礼しま〜す」っと運転手さんは帰っちゃったみたいでした。
前の運転手さんは玄関先まで来てくれたのに…。
人によって微妙にサポートのやり方が違うのは仕方ないとしても、前の運転手さんから比較すると、扱い方が雑で、あまりにも酷いと母が言いました。

そこで後日、ケアマネージャーにその旨を伝えたところ、その翌日に施設に電話で掛け合ってくれて、施設から「すみません、指導しておきます」と回答を得たと伝えられました。

これでなんとかなるかなっと思っていたのですが、今度は父が施設に行きたがらなくなりました。
先日の運転手さんの事がショックだったのかと聞くと、その他にも色々あってな…っと少しずつ話始めました。

ひとつは運転手さんで、他の人も同じ車に同乗する為、パーキンソンと脳梗塞で左半身麻痺の父は動きが遅く、何するにしても常に急かされ、父自身が不甲斐なく申し訳ない気持ちと、邪魔扱いをされている事に疎外感というか、引け目を感じると。

もうひとつは施設内で、健康格差が大きい事だそうです。
父が行っていた施設はとても大きい施設で、要支援の方と要介護の方とが混在していました。
要支援の方々はほぼ健康体で、主に体力強化や運動機能向上の為に来所しています。
かたや要介護の方は、なにかしらの運動障害や、身体に疾患無いしは機能がかなり低下している方が多く、要支援の方々とは健康状態、動けるという事の格差があり、何をやるにせよ、要支援者の足手まといになってしまうそうです。

例えば、チーム戦で軽い運動をする企画(輪投げやボールリレー)や、入浴の時に、要支援の方々は健康体で動けるのが当たり前。
もう一方は動きが鈍い要介護の人達となり、健康体の方からは、"なんでこんな簡単な事が出来んのだ!"っとため息混じりに周りから言われるのが、蔑み、バカにされる様に聞こえて、父にはかなりのストレスだった様です。

施設の職員さん達も父だけをずっと見てるわけではないと思うので、それは仕方ない事でしょ…とか、そんな事で…っと思うかも知れませんが、ついこの間まで父も健康体の立場で、当たり前の様に大抵の事は出来ていたのに、いきなり脳梗塞で半身麻痺。運動障害が出しまい、色々な事が難しくなったり出来なくなった事で、それを他人から指摘され、それが蔑み、バカにされる様に聞こえ、外面が良い、プライドが高く、他人からの認証欲求が高い父にとっては、悔しくてたまらない気持ちになる様でした。

「最初は初めての新しい事で、みんなと楽しい時間を過ごせていても、何回か通うと顔見知りが出来て、その中で人間関係が構築され、出来る出来ないの事で格差が表面化し、弱い立場の側になると、事あるごとに文句を言われ、だんだんと施設に行くのが嫌になったという訳です。」

更に帰りにダメ押しというか、例の男性の運転手さんに急かされてまくって帰り支度や行動を促され、もう疲れ切ってしまったとの事……

…今の父にはそれが全て。

ただ、本人がデイケアに行きたくないとなると、ずっと在宅となります。

……しばらくしても、施設行かない父……

……毎日の介護の負担が母に重くのしかかり、母は体調を崩してしまいました……

……こうなると、私と嫁さんが帰ってきてから、父の介護と母の看病と子供の世話……

……仕事があると、全然看てあげれてない……

……嫁さんと相談して、職場にも事情を話し、実の親を看る為、私が家に入る事になりました……

……つづく

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