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親の介護が始まった日・第四話「リハビリと今後…」

父の転倒した時の傷が癒えるのもそこそこに、リハビリがすぐに始まった。
いきなり立ったり歩いたりではなく、マッサージや軽いストレッチと軽い負荷運動からのスタート。
高齢になると筋力の衰えが早いので、1日も早くリハビリを始める必要があると、担当になった医師と理学療法士さんから聞いた。

私はというと、上司や職場に事情を説明し、急に休んだお礼をして、職場に復帰した。
母は病院から、入院時に用意して欲しい物を買い揃え、心配なのかタクシーで病院に毎日通った。

母の気持ちが通じてか、父もやる気を出し、日に日に出来ることが少しずつではあるが多くなり、かなりゆっくり、本当になんとか自力で立ち上がったり、足はしっかり上がらずともゆっくり歩けるようになってきた。
"頑張ったじゃん、よかったね"っと、やっとの思いで言える様になった、入院から2ヶ月後くらいの頃だった。

医師から、"そろそろ退院を"と告げられた。

母や私からすると、まだ少し早い気がしたが、医師は、病院はあくまで治療をする場であって、リハビリをする宿泊施設ではない旨を伝えられた。
他にも患者さんは大勢居るし、ベットの床数も限りがある。
あとは介護のデイサービスなどを活用し、リハビリを続行したり、筋力を付ける為に日常でも運動・散歩を取り入れて欲しいと言われた。
それと、介護サービスを利用する場合は、まず、介護・介助認定が必要なので、市に相談するといいと伝えられた。

"なんとか立ち上がれる、少し歩けるといった状態で在宅となる"という事がどういう事なのか。
今思えば、この時点ではしっかり理解出来ていなかったと思います。
これでまたそれぞれが普段通り、普通に生活できると思っていました。


…父の退院の日、私も会社を休み、お世話になった病棟の看護師さん達にお礼をして、病院の支払いを済ませ、父を車椅子で自分の車まで運び、病院のものである車椅子は返して、家に帰りました。

車で家に着くと、普段通り、母と私は車を降りましたが、父にとっては車と地面との間に段差がある為、自力では降車は困難。身体を支える必要がありました。
力のある私が父を支えて、ゆっくりではありますが降車し、玄関へ。
しかし、車から玄関までの僅かな距離なのですが、車椅子が家にはありません。
地面のほんの少しの凹凸、玄関のほんの少しのレールの高さに気を配る必要があります。
転倒しないように、一緒に歩を進め、足を止めて、慎重にゆっくり進まなくてはなりません。


健常者であれば、難なく歩き、靴を脱ぎ、段差を上がる事は容易い事ですが、今の父には介助なしには出来ないのです。
簡単なひとつの行動に全て手助けが必要です。
この時初めて、介助の大変さを実感しました。
と同時に、これからは"今まで通りにはいかない"という現実を突き付けられた気持ちになりました。

…我が家は戸建てです。2階に両親の寝室があり、10数段の階段を上がらなくてはなりません。
更には、生活の移動。
2階のトイレ、食事をするには1階にある居間、1階のお風呂、その往復があります。
これからは、父の生活行動の全てに介助が必要になってくるのです。

そして、ここでやっと改めて気付いた事がありました。
病院では全てがバリアフリー、床面全てが平坦な作りの上、階を移動するにもエレベーター付き。
廊下や病室には手すりが至る所に張り巡らされ、車椅子もベット脇、トイレの中にまで入り込めるスペースが確保されている。
又、温調も全館設置されており、ヒートショックも起こりにくい。

だが、家は違う。
段差やエッジが多数あり、手すりが無い。
もちろん車椅子なんて無いし、車椅子を使える広いスペースなんてほとんど無い。
2階に上がるのも、1階に下りるのも階段。
又、エアコンは各部屋には設置してあるが、廊下やトイレ内にはエアコンは設置されてはいない…。
家に最低限の介護用の設備をこれから設置しなくてはならないのです。

休み休み進んで、やっとの思いで寝室に辿り着きました。
そして、父を横にさせて、「今日は疲れたでしょ。ゆっくり休んでね。」と伝え、寝室を出ました。
そして、母と私は一階の台所まで来て、父に声が届かない様に戸を閉めました。
…母がため息混じりに小さな声で「……こりゃ困ったぞ…」っと言いながら、下を向き、眉間にシワを寄せました。

……私は思いました。
老齢の母に、父の3度の食事と排泄とお風呂の介助。その上、適度な運動もさせなくてはならない。時には力も必要だ。
更には、平日、子供たちが学校や園から帰ってきてから私達夫婦のどちらかが帰ってくるまで、子供達の面倒も全て母に任す事になる。
私は心の中で、"これは、全部母に任すのは無理だな…"っと思いました。


経済的な面を考えると、現状では生活自体は余裕がある。現状、小学生と下の子は園に通っている段階でお金はさほどかからない。子供達の将来的な進学を考えると、今が稼ぎ時。
しかし、生活面で父の介助・介護が必要となった今。負担を全て老齢の母に任せるのは、あまりに厳し過ぎる。

……さぁ、どうするか…………

その時、現状を冷静に見つめ直しました。
家族と私の人生において、これから、私は何をすべきなのか、どうするべきなのかを……


……つづく


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