外銀の投資銀行部門の方々と働いてみた感想(顧客の立場から見た風景)
前職で新規事業開発部門に所属していた時代、戦略コンサルや外銀の投資銀行部門(IBD)と一緒に仕事をしたことがある。
どちらの仕事も高給でやり甲斐もあり、社会的な地位も高いためか、ここ20年間で常に最難関の就職先として君臨し続けている。
戦略コンサルタントと言えば大企業の経営者の参謀としてロジックとファクトをもとに戦略を提言する職業であり、また投資銀行IBDといえばこちらも連日の深夜2、3時までの激務をこなしながら複数のM&Aを同時並行でまとめ上げ、多額の助言報酬を少人数のチームで分かち合う、超高給取りの職業だ。
前職時代、縁あって私はクライアントの立場として両方の職種の方々と仕事をご一緒することができた。
その時の経験をもとに、果たして本当に戦略コンサルや投資銀行の人々はどんな人がいるのか、について少しばかり綴ってみたいと思う。
前回戦略コンサルの方々と働いた感想を書いたので、今回は外銀IBDの方々と働いた感想を述べてみたいと思う。
1.どんな方々だったか
外銀IBDといえば超高給取りなので、日系証券会社のIBDと比較してさぞ優秀なのではないかというイメージが先行しがちだが、おそらく人材の優秀さ度合いについて日系証券会社と大差は無い。強いていえば、語学力という点では外銀IBDの方が高い、という差はあると思われるが、それ以外の部分ではは大差は感じられない。
外銀が高給取りなのは、日系証券会社が15人投下する案件を3〜4人の少人数で回していること、取り扱うディールは巨額案件を優先していること(数百億円の案件も1兆円の案件も、ディールプロセスはだいたい同じだから、後者を扱った方がより効率的にフィーが稼げる)から、社員一人当たりの取り分が自ずと大きくなるためである。
取り扱う案件については、日本国外のネットワークを活用できるようなクロスボーダーM&A案件については外銀が基本的に強く、逆に日本国内M&A案件であれば日系証券会社の方が強い。なお、ここでいう「強い」とは良い売り案件・買い案件を発掘してきてくれたり、良い買収スキームを考案してくれるということである。
IBDの方々は昼夜問わず働くと言われるがそれは噂に違わず事実であり、私が夜20時に依頼した事項を、翌朝私が出社する朝8時に回答してくれていた。
私はよく金曜夜にIBDの方に連絡をとり、「翌週月曜日朝までにこの仕事を対応しておいてください」(=週末も働いてください)という非情な依頼をしたが、大抵の場合は「わかりました」と一言返事で対応をしていただいた。
翌週月曜日に届いた回答メールに添付された、企業価値評価額の算定根拠が記載されているスプレッドシートはまさに芸術品で、広大なスプレッドシートの海の中で一つの数字も違わず、エラーも派生させずに数式を組む技術はまさに職人芸だと思わされたことを今でも覚えている。
2.どんなディールで関わったのか
私が外銀IBDの方と関わったのは以下以下①〜③であり、いずれも海外の同業他社の買収案件だった。
①外銀(商業銀行)の海外拠点の買収案件
②海外のノンバンクの買収案件
③海外スタートアップの買収案件
①の案件はビッド案件だったのだが、我々の会社が買収するシナジーが見出せず及び腰となってしまい、その姿勢がビッドの提示価格にも見事に反映され、一次ビッドで落選となってしまった。
②については、規模は少額であったが我々の会社にとってはこれから海外進出を拡大するにあたり重要な初号案件との位置付けであり、また買収先の旧経営陣も信頼が置けること、今回身売りに出た背景もきちんと納得のできるものであること、から無事買収まで漕ぎ着けることができた。
③については、正直言って当時はスタートアップバブルの最中でありバリュエーションが異様に高かったこと(売上高マルチプルは30倍を大きく超えていた。ちなみにEBITDAマルチプルではなく、売上高マルチプルでその水準である)、なぜ、このタイミングで売りに出たのか最後まで疑問を払拭できない案件であったため、見送りとした。
3.印象に残ったエピソード
このエピソードだけで全ての外銀のカルチャーを語れるわけではないが、今でも忘れられないエピソードを記載しておきたい。
上記の案件以外にも、M&Aディールを複数紹介いただいたことがあったが、初回面談の際には100ページくらいに及ぶマーケット動向資料を受領し説明を受けた。
ただし、説明と言ってもその面談で使うページは2、3ページほどであり、その他のページは大抵面談後に読まれずに放置されるか、シュレッダーされる。
資料を徹夜で作ったであろう方々の苦労を思うといたたまれない気持ちになる。
ある日、毎回大量のプレゼン資料を作ってくる外銀のMD(マネージングディレクター)に対し、見兼ねた私の上司がこんなことを進言した。
「いつもこんなに大量の資料をご準備いただきありがとうございます。お手間だと思うので、今度からは2, 3枚の簡単な資料でディスカッションさせていただく形でどうでしょうか」
すると先方のMDは、「わかりました」と言った直後、彼の隣に座っていたアソシエイトの部下に対し
「お前、聞いたか?これはの何倍も資料を作ってきて働け、っていう意味だからな」
と、なんとも想定外のリアクションを示したのだ。これには私の上司も少しうろたえていた。
おそらくこれは外銀の中でもかなり特殊な事例だったと思うが、このやりとりを始め、垣間見える印象から推察するに、MD・VP(ヴァイス・プレジデント)・アソシエイト・アナリストのヒエラルキーを重んじる軍隊、または体育会系のカルチャーが基本なのではないかと思われる。
以上が外銀関連の思い出である。超高給でハイスペックな方々と少しばかりでも仕事をご一緒できたことは自分の仕事人生にとっても貴重な経験であったことは間違いない。
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