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自分の人生の中で、数学者ポール・エルデシュと出会う可能性があっただろうか

僕は、本は好きだけど、小説はほとんど読まない。

読むなら99%ノンフィクというのは、あながち適当な数字でもなくて、100冊中1冊くらいは、急に小説を読みたくなることもある。(ただし、数年前に、アガサ・クリスティーに妙にはまっていた時期をのぞく。)

だからこそ逆に、過去に読んだ小説のことは、1作品ずつ結構印象に残っている。

たとえば、村上春樹の長編『1Q84』を読んだ人なら、ヤナーチェクのシンフォニエッタといえばピンとくるだろう。

僕はクラシックは全然詳しくないとはいえ、音楽には興味がある方なのに、この曲のことなんか、まったく知らなかった。

今でこそネットで検索するとすぐに聞ける。なんともつかみ所の無い変な曲だ。そんな風にいうと、純粋なヤナーチェクファンに申し訳ないが、クラシック素人が聞くとそういう印象が正直なところだった。

とにかく、1Q84を読んだ後には、どんな曲か聞いてみたいと思ったし、そして、この不思議なメロディーがなんとなく耳に残った。

そしていつか、たまたま乗り合わせたタクシーのラジオから、この曲が流れるのを心待ちにしている。

小説が好きな人は、きっとこういう楽しみを日常生活の色々なところで感じているんだろうね。

小説の中で小道具的に使われる教養は、作家はもともとその道の専門家か、そうでない場合は相当綿密な取材をしている。
曖昧な知ったかで描写しない。だからこそ、読者は物語の世界にリアリティを感じるのだ。

疲れが溜まったのか、今日はあまり体調が優れなくて、仕事もはかどらない。諦めて、東野圭吾の『容疑者Xの献身』を読んでいる。2006年に直木賞をとった作品だ。

主要な登場人物に、数学者と物理学者が出てくる。
彼らの学生時代の出会いのシーンで、4色問題の話題になる。

ちなみにwikipediaではこう説明されている。

この定理は証明されたにもかかわらず、その証明は美しくないという会話とあわせて、数学者ポール・エルデシュの名前が登場する。

その奇妙なライフスタイルから、僕は一遍上人を連想した。
遊行を続けたのはよく似ているけど、大量の論文を残したエルデシュに対して、ほとんどの書物を焼いて死んで行った一遍上人の最期は正反対であるが・・。

コンピューターを使わず、紙と鉛筆で美しく証明しようする数学者志望の姿を見て、物理学者志望が「君もエルデシュ信者かい」と声を掛ける。

* * *

こうしてまた、僕の人生においてたぶん交差することがなかった、ポール・エルデシュという名前が頭に残った。

小説には、こういう出会いがある。

ちなみに物語の中で、その数学の先生はキーパーソンだが、ポール・エルデシュ自体はそれ以上言及されない。

4色問題だって、とても興味深い。
こういう、エレガントに証明できない力業で解いたものを、「エレファントな証明」という揶揄も面白い。

僕は今後の人生で、美しい証明にこだわろうとしている人を見かけたら、「君もエルデシュ信者かい」と声を掛けるかもしれない。

ヤナーチェクのシンフォニエッタがタクシーで流れるよりも、使う機会は少なそうだけど。笑

でも、そんな風に過ごせる毎日はとても豊かだ。
小説もいいな。しばらくハマりそう。

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