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本屋さんを目指して. 4 「はじめの一歩」

本屋を目指す本屋のようなものをしています。

人生には何かを「はじめる」時が必ずあります。僕が今の店をはじめる当時住んでいた東京都豊島区で週末なんとなく国道沿いでおこなわれていた闇市のような蚤の市。僕はそこに通い、アンティーク価値には程遠い、レトロというには中途半端なものをたくさん買っていました。それは「将来は店をやりたい」という具体的な夢に向かっているわけではなく、なんだか無性に気になるもの。それを眺めていてはなんだか次に進めない。何が「次」なのかはわからない。けれど、なんだか無性に「自分のもの」にしたくなり、そして、その先に何かがあるような気がする。趣味なのかもしれないけれど、自分が気になったものをとにかく買って部屋に溜め込んでいきました。その4年後に僕は足の踏み場も無くなった自宅の様子をある日「これ、店にできるんじゃないか」と思い、D&DEPARTMENTを立ち上げました。33歳でした。

当時、仕事先の新聞社の担当の方とそんな話をしていた時「これ、読んだら今のあなたに響きそうだよ」と、プレゼントされたのが「人が見たら蛙に化れ(村田喜代子著  朝日新聞社)でした。

今の沖縄の自宅には、いろんな隙間に本のコーナーがあります。それは本屋ではなくて、何か本がそこにいてほしいくらいのこと。そんな隙間ブックスの中にその本はあります。(今は文庫になっています)

自分が何もかも不安定な時代。結婚したものの仕事と子育てと結婚そのもののバランスが取れず、別居していたころのこと。立ち上げたばかりの会社の仕事は面白く、ほぼ会社に泊まり込んでいました。そんなほろ苦い時代を振り返ると、その時、本当に自分に嘘をつかず、やりたいことをやっていて良かったと思い出す。本当に一人ぽっちで不安で不安でしょうがない日々の救いが、僕にとっての例の蚤の市でした。こんな話は大抵、人とは共有できませんし、「何してるの?いいね、気楽で」くらいに思われるでしょう。でも、僕はそこに熱中したし、できたし、その先のことは何も考えてはいませんでしたが、でも、空気を掘り進むようでも、何かを掘り進んでいる感触を感じたのでした。その感触。それが今、僕が感じていること。本屋になるのか、なれるのか、なりたいのか、どうなりたいのかわからないまま、本を買い、ここにいる。少しづつ、本の友達が増えていく。少しづつ何かが変わっていく。自分がいて、誰かが誘ってくれて、何かをすることになって、何かを成し遂げて、前に進もうと思っているわけでもなく、でも、前に進んでいる感じを。この感触を大切にしたい。そして何年か経ったある日、この感触を大切に疑わずに良かったと思う、と、思う。

本当に足の踏み場がなくなり、夜中にトイレに行くことも大変になっていきました。しかし、僕は心の中でニヤニヤしていたのでした。


さて、続きはまた次回。

本屋を目指す本屋のようなものをしています。

次は何を書こうかな。

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