【マッチプレビュー】2023 J3 第5節 AC長野パルセイロvsY.S.C.C.横浜
2023 J3 第4節 振り返り
試合結果
3月25日、26日に行われた2023シーズン第4節、各会場の結果は上記の通り。ホームチーム勝利試合が3試合、アウェイチーム勝利試合が2試合、ドロー決着試合が5試合となった。ドロー決着が1試合もなかった前節と比較して、今節は総数の半分がドロー決着。ただ、どの試合もスコアレスドローではなく、お互いに得点を奪い合ってのドロー決着となっている。また、岩手と松本が今季初のホームゲームを戦った。いずれも開幕3戦の好調ぶり+ホームの追い風ということを考慮すると、快勝するかに思われたがJ3はそう甘くないらしい。
先週末は、各会場天候がすぐれなかったこともあり、入場者数は伸び悩んだ印象を受けた。それでも、ホーム開幕を迎えた松本の観客動員数は流石である。7,000人に迫るサポーターが声援を送る中、素晴らしい雰囲気でホーム開幕戦を戦えたのではないだろうか。
第4節で特筆したいのは、やはり"J3らしさ"。すなわち、各クラブの力関係が拮抗しているということである。特に、琉球vs福島で福島が今季初勝利を掴んだことは象徴的だろう。毎節どのクラブが勝利するかわからないハラハラ感が、J3の面白さであり、恐ろしさでもある。
順位表
第4節を終えて昇格圏内に位置しているのは、松本と今治。どちらのクラブも2勝2分で今季は未だに負けなし。昇格候補として数えられていたクラブが順当に上位2位を占める形になっている。しかし、先述したように各クラブの力関係が拮抗しているのがJ3リーグ。トップハーフの10クラブは勝点差1の中に収まっているなど、現状の順位はあってないような形骸的なものである。また、ボトムハーフも16位宮崎までは、トップハーフとの勝点差は3以内。1試合分の勝敗でいかようにも変わる段階である。
前節、福島が勝利したことにより、今季いまだに未勝利となっているのはYS横浜のみとなった。相模原・福島・FC大阪と比較して、これまでの対戦相手も昇格筆頭と言われるクラブは少ない。厳しい開幕スタートを迎えているが、昨季もシーズン途中からの巻き返しがあっただけに、まだまだ浮上の可能性は十分に残されている。
2023 J3 第5節
第4節のマッチプレビューにて、「4節の結果次第で今季のJ3の様相はだいたい把握できるはず」と記載した。結果的に、宮崎と福島が松本と琉球に待ったをかける形になり、今季のJ3の混戦模様がほぼほぼ確定する状況になった。第5節の注目試合は、松本vs鳥取だろう。4節終了時点でリーグ最小失点タイの松本の堅守が光るのか、リーグ最多得点タイかつ4試合連続複数得点の鳥取の攻撃力が爆発するか。現時点でJ3最強の矛盾対決になるだろう。また、松本にとっては、上位クラブと対戦するのは今季初。ここまで積み重ねた勝利が、昇格争いにおいて通用するのか重要な試金石の試合になるだろう。
今季ホーム初勝利へ
そして、我らがAC長野パルセイロ。前節は、アウェイ富山で3-3のドロー決着。一時は、2点差をつける躍動ぶりだったが、試合の締め方に不安の残るドロー決着となった。奈良戦から連続して3失点を喫している。3失点を喫するほどの守備組織の崩壊は見られていない。各失点が、個人のエラーやコミュニケーション不足によって発生している現状と言える。強いOne Teamを形成するためには、強い個の活躍も当然求められる。苦いホーム開幕戦の記憶を払拭し、YS横浜に勝利することでエンジンを点火し直す必要がある。
マッチプレビュー
通算対戦成績
長野はYS横浜に対して、J3通算14勝4分2敗を記録している。過去を振り返ると、長野にとってYS横浜は非常に相性の良い相手だと言えるだろう。過去の対戦成績は以下の通り。
同対戦カードを俯瞰してみた印象は得点が動きやすいということ。長野はYS横浜に対してシーズンダブルを5回経験している。9シーズン戦って5回のシーズンダブルということで半数以上は、完勝していることになるが、今シーズンも継続することができるだろうか。ただ、気になるのは直近2シーズンで点差が縮まってきているということ。過去シーズンほどのクラブ間の差がなくなってきている裏付けになっており、長野も勝利確実というわけではない。
長野のホームゲームに限定して対戦成績を数えると、通算8勝2分1敗。2014,2015シーズンのレギュレーションの影響で、長野のホームゲームが2試合多いこともあり単純な比較は難しい。勝率に換算すると約73%。長野にとって前向きになれるデータではあるが、安心できるデータではないのは、先述した通り。データで見れば長野が優勢に見えるが、データ通り長野が勝利を掴むことができるだろうか。YS横浜が今季初勝利を掴みエンジンの再点火を達成するか。お互いにとって転換点になる可能性のある一戦と言える。
昨季対戦の振り返り
前半戦は、YS横浜のホームに乗り込んでの一戦。ホームでいわきに0-4の大敗を喫した直後の対戦だった。長野としては、船橋が負傷離脱しRSBの本職選手がスカッドに不足していた時期。RSBには池ヶ谷が起用され、4-1-2-3のシステムで臨んだ。
前半は、長野のボール保持がほとんどで、YS横浜はカウンターを狙う構図。長野としては、カウンタープレスも積極的に行い、常にボールを握りながら主導権を掴む戦い方だった。しかし、5-4-1のブロックを崩しきれず、セットプレーや自陣でのミスで決定機を献上する場面が散見された。
後半は、宮阪に代えて杉井を投入し、地上戦でのファイトスタイルを強める布陣に。前線5枚の膠着状態が緩和され、攻撃に流動性が生まれた。杉井とデュークの左サイドにおける前進を活かしながら、YS横浜守備に亀裂を生んでいく。完璧に崩せた場面は少なかったが、チャンスを活かしきって1-0で長野が勝利した。終盤の試合の締め方も4-1-2-3から5-3-2への転換など、ベンチからの意図が読み取れる交代策だった。
後半戦は、長野のホームにYS横浜を迎えての一戦。昇格争いに残るためにも勝利は絶対条件。そして、他会場の結果を祈るといった状況での対戦だった。
当時の長野は既に、5-1-3-1→4-2-3-1の可変システムが定着していた。この試合でも得意の攻守の切り替えからの決定機創出を狙いとしていた。前半立ち上がりは、YS横浜のプレッシングもあり、思うように前進できない時間帯があった。しかし、長野も高い位置でYS横浜からボールを奪い、素早い攻撃を見せる。森川のクロスに反応した山中がPA内で倒されてPK獲得。落ち着いて山本が蹴り込んで先制に成功した。
後半に入っても主導権を握ったのは長野。しかし、前半から散見された自陣でのポジティブトランジションでのもたつきからボールロスト。河辺に中央突破を許し、そのままの勢いでゴールネットを揺らされてしまった。しかし、同点に追いつかれた長野は、すぐさま山中のゴールで突き放すことに成功する。試合の終盤は、長野のパスワークにも翳りが見え、YS横浜に攻め込まれる時間が増えたが、なんとか耐えきって勝点3を獲得した。
前節の振り返り
長野は前節、アウェイ富山に乗り込んでの一戦。雨が降る中での熱い戦いになった。池ヶ谷の退場処分による出場停止など、対応するべきアクシンデントはあったが、新たな配置で主導権を握る戦いぶりだった。
前半は、富山のビルドアップに対して、5-3-2の守備ブロックを固め、富山の前進を許さない。雨天という悪条件もあり、やや事故的なミスからピンチを招くことはあったが、基本的にはプラン通り試合を運べていたと思う。しかし、被カウンター処理局面でM.レイリアに入れ替わられかけ、杉井がファウルで止めることに。このFKを大畑が合わせて先制点を奪われる。戦い方として焦りはなかったが、2試合続けて先制点を献上してしまった。
後半に入ると、富山が前半で警告を受けていた安光に代えて今瀬を投入。このDFラインの変更で、富山守備陣が落ち着く前に長野が立て続けに得点を奪う。特に2得点目は今季の攻撃スタイルにおいて、象徴的なビューティフルゴールとなった。3得点目を奪うまでは、長野の勢いが富山を圧倒していたが、徐々に戦況が変化していく。長野としては、リードを守りながらローテンポで試合を進めたかったはずだが、なかなか試合を落ち着かせることができない。83分にボールロストからのショートカウンターで、A.シルバに追撃弾を許す。その後、チームとしての戦い方の統一が甘く、落ち着かない時間帯が続いた。結果として、高橋に恩返し弾を決められ3-3の同点決着。守備面かつ試合の運び方で課題の残る試合になった。
YS横浜は前節、アウェイ奈良に乗り込んでの一戦。今季初勝利を目指し、第3節でJ初勝利を掴み勢いに乗る奈良との戦いだった。前提として、この試合も雨が降っており、非常にピッチコンディションの悪い状態だった。
前半は、奈良の4-1-2-3ビルドアップに対して、YS横浜が5-1-3-1の布陣で前線から積極的にプレスを実行。ピッチコンディションが悪いこととYS横浜の前線の奮闘によって、奈良のビルドアップリズムを崩すことに成功していた。しかし、徐々に奈良もピッチコンディションに慣れ、ボールを握れるようになっていく。21分にYS横浜のチャンスシーンをGKアルナウがセーブ。奈良得意のアルナウからのロングボールを起点に酒井が抜け出し、サイドを個人技で突破しクロスを上げる。ファーサイドに詰めていた浅川が合わせて先制。素晴らしいロングカウンターからの得点だった。YS横浜も負けじとビルドアップとプレッシングからチャンスを作っていく。41分には、PA内での加藤のハンドを誘い、PKを獲得。萱沼が落ち着いて右隅に流し込んで同点に追いつく。わずか3分後、ビルドアップの流れからチャンスを作ると奈良のファウルでFK獲得。菊谷の鋭いキックがゴールを強襲するも、アルナウがスーパーセーブ。しかし、こぼれ球をYS横浜が回収し、萱沼が技ありのループシュートをゴール左隅に決める。前半のうちにYS横浜が逆転に成功した。
後半もピッチコンディションが悪い中、奈良が保持し、YS横浜が鋭いアプローチからショートカウンターを狙うという構図。ハーフタイムで攻撃方向が入れ替わり、水たまりの少ないバックスタンドサイドから、奈良がチャンスを作っていく。嫁阪に代わって入った西田が左サイドを突破し、中央にクロス。山本が狙い澄まして右足を振るも、GK佐川がナイスセーブ。このプレーで得たCKから山本が頭で合わせて同点に追いついた。スコアは2-2で決着となったが、お互いのGKによるスーパーセーブがなければ、もっと得点は動いていただろう。それだけアグレッシブで強度の高い試合だった。
予想スタメン
長野は前節同様に3-5-2のシステムを予想。GKに濵田。3バックは右から池ヶ谷・秋山・砂森。WBは右に杉井、左に船橋。アンカーに宮阪。IHは三田・佐藤。2トップに進・山本を予想した。YS横浜は、富山よりも積極的にプレッシングを実行してくる可能性が高い。利き足と同サイドにWBを配置して膠着するよりも、相手を引き出し、いなすようなビルドアップが期待される。前節より良いピッチコンディションで、濵田がどれだけビルドアップに貢献できるかも非常に重要になってくるだろう。
YS横浜は、前節同様3-5-2のシステムを予想。GKに佐川。3バックは右から柳・藤原・花房。WBは右に松村、左に大嶋。アンカーに中里。IHは菊谷・古賀。2トップに萱沼・福田を予想した。YS横浜としては、前節の奈良戦で前線からの鋭いプレッシングで、自分たちの時間帯を作っていった。長野のビルドアップの質を考慮すれば、奈良よりも"奪える"と判断するはず。鋭いボール奪取からのショートカウンターは、今節でも大きな武器になるはずだ。
注目ポイント
長野vsYS横浜の試合で注目したいポイントは以上2点。第一にファーストラインブレイク。お互いにボール奪取からのスピーディーな攻撃が武器であるため、攻撃側がプレッシングを外しきれなければ、ワンサイドゲームになる可能性もある。長野はある程度構える守備、YS横浜は奪いにいく守備になることが予想される。YS横浜としては、長野が奪いどころに設定している狭いスペースで、技術を発揮できるかが鍵になるだろう。長野としては、YS横浜の1トップと2列目のプレッシングを外せるかどうか。正直なところ、かなり分が悪い攻防になることが予想される。如何にプレスをいなせるかは、得点にも失点にも直結するだろう。
第二に、Aggressive Duels。「ORANGEの志」から引用したが、両チームにとって、勝敗を分ける大きなポイントになる。お互いに多少のズレやミスが発生してルーズボールになった時、ノーファウルでどれだけマイボールにできるか。相手ボールにさせないか。わずか数十cmの違いで、決定機につながる戦いになる可能性が高い。個人のエラーが多い長野としては、恐れず・熱くなりすぎず、強かに局面の勝負で勝利することが求められるだろう。
まとめ
長野は前節、3得点を奪い2点差をつけながら、試合の締め方に失敗し勝点を2つ失った。試合終盤での失点によるドロー決着は、4試合で早くも2つ目。リードをしていても、どのようにチームとして時計を進めていくかが大きな課題になるだろう。また、2試合続けて前半に先制点を奪われている。"賢守"を軸に、スコアレスの状態からいかに先手を取れるかは、今後のシーズンにも影響してくるポイントになる。
YS横浜は前節、今季初の複数得点と勝点を得た。勝利こそできなかったかもしれないが、チームの状態は上向きと言って良いだろう。かつてYS横浜を率いたシュタルフ監督のサッカーを上回ることができるかが鍵になってくる。勢いかつ技術という面では、長野にも勝るポテンシャルを兼ね備えている選手が多い。前節の悔しさを生かし、今季初の勝利をアウェイの地で掴みたいところだ。
さて、弱気になっているわけではないが、今季の長野のスタイルは、YS横浜に対して分が悪い印象がある。もちろん、目指しているスタイルからすれば、格好の餌食にできる相手なのだが…。この1週間でどれだけ完成度を上げられているかに期待したい。アウェイで失った勝点4つとホームで失った勝点3。ホーム連勝かつ4月全勝の勢いでなければ、取り返せない負債になってしまう。
「過去最強の長野を作る」
そのためには、過去最強のUスタの雰囲気を作る必要性もあるのではないだろうか。ピッチで試合を締めくくれなかったチームを責めているだけなら、サポーターでなくても誰でもできることだ。ピッチ外も一体となって難攻不落のUスタを取り戻そう。
獅子よ、千尋の谷を駆け上がれ。