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【マッチレビュー】2023 J3 第11節 アスルクラロ沼津vsAC長野パルセイロ

首位未勝利の呪いを破れず

 2023 J3 第11節 アスルクラロ沼津vsAC長野パルセイロの一戦は、1-0でホームの沼津が勝利した。
 沼津は5月緒戦の愛媛戦を1-2で落とし、前節の鳥取戦は90分に逆転弾を決めたものの、アディショナルタイムで同点とされる痛恨のドロー。5月に入ってリーグ戦未勝利という難しい状況だったが、首位長野相手に1-0の完封勝利。スコア以上に自分たちのスタイルに自信を持てる戦いぶりになったのではないだろうか。
 長野は、第8節以来の首位で迎えるリーグ戦。第8節は下位の福島相手に2-3で痛恨の逆転負け。自力での首位キープのために勝点3が欲しい一戦で、再び敗れてしまった。前日土曜開催の各試合で、奈良と愛媛が勝利を逃し、勝てば2位集団に差をつけられるチャンスでもあった。スコア以上に沼津との差を感じる内容とも捉えられる試合となった。
 今節も首位が勝利を逃し、上位陣は揃って足踏み。結果的に上位層がさらに厚くなった。スコアだけでは感じられない両チームの狙いと試合展開を振り返る。

基本システム&スタメン

 ホーム沼津の基本システムは4-1-2-3。GKは武者。4バックは右から安在・藤嵜・附木・濱。アンカーは菅井。IHは持井・徳永。3トップは右から森・ブラウンノア・和田。第10節と全く同じスタメンを送り出した中山監督。持ち味であるポジショナルプレーで主導権を握る狙いが推測できる。
 アウェイ長野の基本システムは3-5-1-1。GKはキム。3バックは右から池ヶ谷・秋山・佐古。WBは右に船橋、左に杉井。アンカーは宮阪。IHは西村・三田。トップ下は近藤。1トップは山本。長野は前節からスタメンを2名変更。松本戦で負傷した進と佐藤がメンバーから外れ、同ポジションを主戦場とする山本と西村が先発起用された。
 お互いに今季のスタイルが確立されてきた印象のある両チーム。それぞれの監督の色も良く出たスタイルであり、どのように噛み合わせを設定していたかにも注目していきたい。

マッチレビュー

 試合前に予想された通り、沼津がボールを握り、長野がブロックを構えてカウンターの機会を伺う。そんな前半の様相になった。

 長野は今季これまで軸としていた5-1-3-1ブロックで沼津のビルドアップを迎え撃つ。沼津の4-1-2-3ビルドアップでは、WGやSBがサイドレーンの高い位置をとるため、長野のWBもピン留めされる形で5バックで構える時間帯が長くなった。

 沼津は、プレッシングをかける長野の前線4枚に対して、最終ラインと中盤が連動しながら数的優位でボール保持を図る。この時、左サイドはLSB濱が、右サイドはRWG森が高い位置をとって長野WBを最終ラインにピン留めする。アンカー菅井がCB間に降りて長野の2トップを相手に数的優位を創出。また、IH徳永とRSB安在のポジショニングも長野のプレッシングを緩和する効果があった。

 ボールサイドから人数を合わせて、沼津のボール保持に対して圧力をかける長野。しかし、徳永と安在が各サイドで場合に応じて、長野IHのプレスに迷いを生むポジショニングをとる。長野はWBが最終ラインにピン留めされており、IHの縦ずれに合わせて前に出ていくことができない。人数を合わせるためには、最終ラインからCBが飛び出していくことも考えられるが、徳永や安在までの距離は遠く、プレスをかけるには現実的ではない。沼津のビルドアップに対して、有効なプレッシングをかけられないまま時間が進んでいく。

 一方で沼津としても、ボール保持はできているものの、長野の5バックを崩して決定的な得点機会を創るまでには至っていなかった。主に左サイドの濱-徳永-和田のユニットで長野の守備ブロックに亀裂を生み出すことを試みた。徳永→和田のパスで池ヶ谷を釣り出し、ロビングパスで濱vs船橋をDFライン背後で創るという形は何度か良い攻撃として成立していた。ただ、スピード感を持ってサイドを破る攻撃はできず、5バック+3センターが帰陣した状態でクロスを上げるにとどまった。中央の枚数では長野に分があり、良い形でシュートを放つことはできなかった。

 沼津が決定機を迎えた場面としては、長野のビルドアップでのミスが起点になった。決定機の数としては2回程度だったと思うが、ボール保持の形で広がった状態で長野がボールを失い、沼津がシュートまで完結させるという攻撃だった。

 最初の変化としては、59分の長野の交代策で生まれた。船橋・近藤に代えて森川・音泉を投入した。この交代に伴って、長野は配置も若干変更があった。RWBに西村が入り、トップ下に三田が入った。そして、交代で入った森川・音泉がIHを務めることになった。

前半は自分達の時間があまりにも少なかったので、自分たちの時間を少し伸ばしたかった

シュタルフ監督 試合後インタビューより

 シュタルフ監督がそう振り返った交代策だった。

 前半から沼津は守備時に3トップが右肩上がりになるような形で4-4-2でプレッシングを行っていた。沼津IHと長野IHがマッチアップする形であり、長野としてはズレを生み出したいIHが捕まってしまっていた。その影響もあり、西村や三田がボールを受ける回数は増えず、攻撃の起点を生み出すことができていなかった。

 西村をRWBとして起用し、攻撃時に宮阪の横に配置する可変システムをとることで、中盤の噛み合わせを改善。ピッチ中央で4vs3を作り出して数的優位を生み出すことが狙いだったはずである。
 GK+3バックで3トップに対して数的優位を生み出し、ピックアップする中盤も4vs3で数的優位を生み出した。前半からロングボールの収まりどころができず、カウンターに移行する回数自体が減少していた長野。WBがサイドレーンで受けた次のアクションとして、中央への逃げ道が増加したことも交代策の効果として挙げられるだろう。
 長野は、後半立ち上がりからプレッシングによるボール奪取が前半よりも改善しており、交代によって自分たちのボール保持も徐々に伸ばしていった。

 しかし、守備面で露呈していた不安要素から失点を喫することになる。

 後半の立ち上がりから長野はプレッシングに勢いがつき、徐々に沼津陣内でのプレーを増やしていった。一方で、自陣の撤退守備時に脆さが出るようにもなった。プレッシングに自信がついたことで、積極的に目の前の相手に対して圧力をかけるIH&WBだったが、沼津SBが中央の高い位置をとることで、WB-CB間のポケットに進入を許した。杉井や森川がサイドで奪いきれなくても、佐古は意図的に中央に残っているもあり、守備組織の欠陥とは言い切れないが、失点前からIHやWBの背後で組み立てられる場面が目立っていた。
 失点場面のフィニッシュワークに関しては、素直に安在のシュートクオリティが高く、ファインセーブを続けていたキムにとってもノーチャンスだった。直前に徳永のミドルシュートをストップしており、弾く距離&方向も十分だっただけに直後の失点はキムとしては悔しい結果になっただろう。

 沼津陣内のビルドアップに対しては、IH&WBの縦スライドにサイドCBが対応する形でスライドする。このスライドによって、IHの背後に生まれるスペースを消すことを狙いとしている。池ヶ谷・佐古ともにポストプレーヤーに対する前向きの競り合いは非常に強い。そのため、IH&WBも躊躇することなくプレッシングに出ることができていた。

 長野陣内で守備ブロックを固める際に、いかにIHの背後を守るか。この問題は今季解消していく必要があると考える。後半の中盤にさしかかると、交代で入ってきた攻撃的ポジションの選手は得点を奪いに前に出たくなり、セーフティーにクリーンシートを目指したい守備的ポジションの選手は自分のスペースを守りたくなる。無意識のうちに志向が乖離することは、どのチームでも起こり得ることで、どちらにどのように揃えていくかは考えていかなくてはならないだろう。

 長い間相手にボールを握られ、思った形でカウンターに出られなかったことを考えると、ストレスフリーにこの時間帯を過ごせていたわけではない。そういった焦りがカウンターの精度を更に落とし、満足に相手ゴール前に前進できないことにもつながっていっただろう。先行された時間帯や得点を奪えない時間帯のチームとしての捉え方は、これからさらに擦り合わせていかなければならない。

45分〜78分
78分〜90分

 長野の攻撃の狙いとして、後半の序盤〜中盤にかけては「WGの背後/SBの脇のスペース」、中盤〜終盤にかけては「ロングボールを用いた池ヶ谷ポスト」に見えた。
 どちらの攻撃も選手の特徴を活かした配置になっていた。中頃の時間帯までは、宮阪&西村からの配球と2列目の機動力で、沼津陣内に進入。終盤は池ヶ谷のポストプレーを利用して、リスクを背負いながら人数をかけて沼津陣内に押し込む狙い。
 結果として、得点という目的を達成することはできなかったが、個々の特徴を活かした攻撃オプションが複数あることは今後にとって前向きな材料と言える。

独断評価

個人評価

キムミノ:8
被枠内シュートを16本浴びながらも、最小失点で90分間を戦いきった。1失点で凌ぎきった背景に彼の活躍は欠かせなかった。前半にビルドアップ局面でのミスはあったが、補って余りある数のピンチを救った。
池ヶ谷颯斗:5
普段起用されているRCBに加えて、キャンプから取り組んでいたCF起用をリーグ戦でも見せた。沼津に持たせる時間が長く、ビルドアップでの長所は影を潜めたが、守備強度としては及第点だったように感じる。
秋山拓也:5
3バックと4バックのCBを担ったが、後方から安定感のある守備ブロックを構築した。沼津に持たせることでやや後ろ重心だったようにも感じるが、クロス対応に関して、安定した守備を見せた。
佐古真礼:5
唯一無二の高身長を武器に沼津のロングボールやクロスボールを跳ね返し続けた。最近見られていた逆サイドへの正確なサイドチェンジは試合展開の影響もあって鳴りを潜めた。攻撃的な貢献をもう少し見たかった。
船橋勇真:4
沼津の主攻が左サイドだったこともあり、なかなか得意のエリアでプレーできなかった印象。守備対応としても濱や和田に遅れをとることもあり、やや不安定さを露呈した。クロス精度は変わらず追求していきたい。
杉井颯:5
抜群の運動量で左サイドの攻守を支えたが、普段と比較するとやや疲労感が見られた。特長であるクロスを上げる局面までは創ることができず、守備に奔走する時間帯が長くなった。
宮阪政樹:5
守備に追われる時間が長かったが、クリアボールでも長短を使い分けて、チームの切り替えにリズムをもたらした。押し込んだ場面での不用意なロストもあり、杉井同様に疲労感が見られた。
西村恭史:5
難しい展開になったこの試合でもユーティリティ性を遺憾無く発揮。IHと可変型WB、RSBを務めた。可変型WBとして中央に入った際には、特長であるテクニックと推進力を活かしてチャンスクリエイトで貢献した。
三田尚希:6
守備に奔走する時間が長くなったが、運動量を落とすことなく攻守に貢献した。出場時間が長いメンバーの中では最も疲労感が見られなかったと思う。ファインセーブに阻まれたが、得点嗅覚も健在。
近藤貴司:7
彼の活躍がなかったら、前半からもっと一方的な展開になっていたのではないかと思わせる。カウンター局面ではズレが出てフィニッシュまで持ち込めなかったが、プレス回避では抜群の存在感を放った。
山本大貴:3
特長である裏抜けやポストプレーで起点になることがほとんどできなかった。彼だけの問題ではなく、チームとしていかに前線に起点を作っていくかという局面を今一度洗練しなくてはならない。
音泉翔眞:5
森川と同時に投入され、2列目の運動量を活性化。右サイドでの仕掛けで沼津守備陣を脅かす場面も何度か見られた。得点関与につながるプレーを今後は期待したい。
森川裕基:5
音泉とともに運動量を活性化し、攻撃のギアチェンジャーとしての活躍が期待された。守備に回る時間が長く、特長である仕掛けを見ることはほとんどできなかった。ただ、2列目に高さが加わる意味でも彼の起用はリズムが変わる。
山中麗央:4
偽9番的振る舞いでビルドアップ時に関われるCFとしての動きも垣間見せた。投入直後はショートパスの連続から攻撃の組み立てに関われたが、終盤にロングボールが増えて以降、効果的な攻撃参加が減少した印象。
大野佑哉:5
被カウンター時のスピードを担保し、リスクを管理しながら得点を狙うために欠かせない交代だった。個人スキルレベルのミスはあったが、沼津FWを封殺する圧倒的なスピードでのカバーエリアの広さを見せた。
安東輝:5
持ち味である落ち着きと技術の高さで2列目からの攻撃リズムの組み立てに貢献。ロングボールが多かったこともあり、完全に持ち味を活かせる状況ではなかったかもしれないが、攻撃のアクセントとして機能していた。

ORANGE評価

One Team:4
相手の強みを理解した上で自分たちのスタイルを出していくという指針が揃っていたことは感じた。また、敗れた後もゴール裏挨拶時にチームとサポーターが一体になる声がけが多く行われていた。
Run Fast:2
敢えて走らなかったという評価もできるゲームプランの概要だったが、カウンターに出ていく局面でのミスが目立ち攻撃でのRun Fastは見られず。守備時はRun Fastなしでもある程度守り切れる形であった。
Aggressive Duels:2
Run Fastは構造上活かせなかった要素かもしれないが、こちらの要素は疲労感が見られる結果に。沼津の各選手のクオリティも高く、デュエルまで持ち込んでも奪いきれない印象が強かった。
Never Give Up:5
今季の選手層の厚さを感じさせる交代策の数々で、なんとか沼津の守備網を破ろうと試みていた。結果には繋がらなかったが、最後まで諦める姿はまったく見られなかった。
Grow Everyday:4
良くも悪くも評価できる項目だと感じる。相手の戦い方に合わせた戦術の遂行に関しては、レベルが上がってきている。一方で、シュタルフ監督の想像を上回るような"何か"が選手から湧き上がってくることも期待していきたい。
Enjoy Football:2
勝利を逃したことで楽しめていなかったのは仕方がない。試合を通してミスや相手の強みが要因となり、自分たちのスタイルを出しきれていない姿はEnjoyできているようには見えなかった。

まとめ

 沼津にとっては、自分たちのスタイルが上位相手にも通じると自信を持てる勝利になっただろう。また、第8節以来の勝利であり、5月に入ってから目立っていた得点後の失点という課題も今節はクリア。シュート本数からすると得点数は物足りない気もするが、相手を上回るボール保持で相手よりも多くの決定機を創っていくスタイルは熟成させていると見える。
 次節はアウェイで琉球との対戦。早くも監督交代に踏み切りスタイルチェンジも考えられる相手であるが、スタイル確立という軸に沿って戦えば自ずと結果はついてくるはずだ。

 長野にとっては、今季2度目の3連勝をかけた試合だったが、自分たちの強みを出すことができずに敗れた。今季2度目の首位で迎えた試合でも敗戦を喫し、まだまだ力不足であることを実感する試合になったのではないだろうか。個人的に完敗の印象を受けた試合だったが、ポジティブな側面もあったと思う。その側面は、ゲームプランの遂行という軸で戦えたということ。攻撃では、当初のプランよりもクオリティが足りなかったが、守備では、求められていたものは表せたのではないだろうか。結果に繋がらなかった要因としては、攻撃に出られなかったことと、想定を上回る沼津のクオリティが挙げられる。継続してチーム力を高め、相手も味方も裏切るほどの活躍に期待したい。
 次節はアウェイ大阪戦。アウェイ連戦となり、台風の影響による悪天候も心配だが、この千尋の谷を駆け上がることでしか望んだものを手に入れることはできない。昇格組の奈良には今季既にホームで0-3の完敗を喫している。"昇格組だから"の枕詞はサポーターの頭からも消して、挑戦者として戦うことが求められる。

獅子よ、千尋の谷を駆け上がれ。

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