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【マッチレビュー】2022 J3 第23節 いわきFCvsAC長野パルセイロ

首位の勝負強さに屈する

 9月3日、Jヴィレッジスタジアムで行われた2022 J3 第23節 いわきFCvsAC長野パルセイロの一戦は、1-0でホームチームの勝利となった。
 ホームチームのいわきとしては、今季初の4連勝を達成。4連勝のうち、1つはダービマッチ、2つは上位との直接対決と簡単な試合ではなかったはず。そのため、今節を合わせて勝点12を掴んだことは素晴らしい成果だったと言える。今節の勝利により、今季J3で勝点50に一番乗りとなった。2位との勝点差は既に"4"開いており、1試合の結果でひっくり返ることはない。また、上位との直接対決も残つは3試合のみ。鹿児島との直接対決は控えているものの、前半戦で敗れた今治に負けなければ、昇格圏内は安泰と言えるだろう。得失点差でも頭2つほど抜け出ており、よほどのスランプが起こり得ない限りはJ参入初年度ながら昇格圏内フィニッシュが妥当である。次節は前半戦で2-2と引き分けた北九州が相手だが、十分な勢いを持ってアウェイに乗り込むことができるはずだ。
 一方、アウェイチームの長野としては、後半戦2試合目の上位直接対決に敗れる結果となった。上位対決と言っても1位〜8位まであるわけだが、正直いわきはラスボスと言っても過言ではない。先述した通り、勝ち切る力と得点数を見ると、今季のJ3では群を抜いて優れている。そんなチームに対して、0-1の敗戦。もちろん、長野に関わる全員が悔しい思いをしていると思うが、個人的にはこの戦いぶりには賞賛を送りたい。私が甘い考えであると思う方もいるかもしれないが、シーズン前〜第22節までに積み上げたものを出し切った試合だったと思う。それでも、チャンスをものにしたのはいわきであり、長野ではなかった。これがサッカーの残酷な勝負の掟。可能性のある限り、優勝&昇格を目指し、残り11試合で勝ち試合を1つでも増やしてほしい。

スタメン&ベンチメンバー

 ホームのいわきは、3試合連続で同じスタメンで試合に入った。システムはベーシックな4-4-2。超J3級の両SBに加えて、得点力のある岩渕選手、有馬選手、有田選手が並び、中央への鋭い攻撃とSBが攻撃参加することによる厚い攻撃を徹底してくることが予想された。
 アウェイの長野は、スタメン変更は1名。前節スタメンだったデュークがベンチに入り、出場停止明けの森川がその代わりにスタメン入りとなった。藤森と佐藤の位置は前節と変わらずで、お互いの特徴が生かしやすい配置になっているように見えた。
 お互いにスタメンと配置から見てもやることは前節から変えず、明確な狙いがぶつかり合う好ゲームになると感じた。

ゴールを急襲する両軍

 前回対戦で0-4と大敗を喫した長野だったが、今節は試合の入りからいわきゴールに襲いかかった。前半開始からわずか2プレーで決定機を2つ作った長野。
 1つ目の森川の決定機はデザインされたものではなかったが、セカンドボールの反応や球際の戦いで優れるいわきに対しても、真っ向勝負で挑む気概が見られた場面であった。
 2つ目の森川→秋山の決定機は、おそらくデザインされたもの。完全にファーサイドで秋山がフリーになりヘディング。せめて枠内に飛ばせていたら…と後悔することになるのは、もう少し後の話。
 その直後のプレーでいわきも負けじと長野ゴールに迫る。空中戦の競り合いで秋山に勝利すると、流れのままシンプルに右サイドへ展開し、注目の嵯峨選手が華麗なキックフェイントから中央へクロスを送る。しかし、これはわずかに味方には合わずに流れてしまった。
 さらに直後のプレー。GKからのビルドアップでいわきの守備網を抜け、藤森がゴール前に迫る。ここで、疑惑の場面が生まれてしまうわけだが…。ファーストタッチで日高選手の逆をとってPA内へ進入。(この日高選手と藤森の接触も際どいところだが…)カットインで遠藤選手の逆をとったように見えたこの場面で、遠藤選手と藤森が交錯して倒れた。明らかなトリッピングor進路妨害であり、ボールにプレーできていないことからもPKをとって欲しかったが、笛は鳴らず。
 主審に最大限譲歩するなら、この事象が起きた時間帯が原因だと推測する。立ち上がりの流れを見ても得点の匂いが強く香るこのゲーム。わずか2分でPK判定を下すことが難しかったようにも思える。(ただ、これでノーファウルならば、ドリブルによる進入メリットが大きく欠けてしまうわけだが…)
 さらにさらに5:00頃には、ルーズボールを三田が拾い、DFラインの裏へ走る山本にダイアゴナルな正確なフィードを送る。これに抜け出した山本が左足を振り抜くも僅かにゴールの右へ。決定機の質と数から見ても首位いわきを上回るものがあった。これだけの決定機の質と数であれば、1点は取らないと難しくなるのも分かっていた。

2ndライン突破に苦戦

 例によって、最近の試合でよく見られるビルドアップを解説していく。守備時は5バックとなるが、ボール保持では水谷が一列上がり、4バック+ダブルボランチとなる。4バック+GKで横の揺さぶりをかけながら、相手のスライドが遅れた瞬間に、ギャップに刺したり、DFラインの裏を狙う攻撃だ。
 今節の相手のいわきはJ3の中でもトップクラスのプレス強度を持つチームであった。それでも、長野はスタイルを貫き果敢にプレス回避を試みる。プレス強度が高いとは言え、DFラインに対しての圧力は他のチームと大差がないように見えた。長野の熟練度が上がっていることもあるが、GK+4バック+ダブルボランチによる1stライン突破は何度も成功していた。

 しかし、2ndラインの突破には前半から苦戦していたように思う。相手を意図的にずらしながら、相手の背後や脇にスペースを作り出すビルドアップ方法であるため、精度依存であるところも大きい。いわきの表方向の出足の速さが素晴らしく、2ndライン突破に入った局面でミスパスが発生したり、インターセプトをされる場面が少なくなかった。おそらく、この出足は家泉選手と遠藤選手に対する周囲の圧倒的な信頼からくるものではないだろうか。「仮に裏を突かれてもCBの2人がカバーしてくれる」という安心感が、前方のボランチやSBの選手に対してプレッシングの自信を与えている。
 前節までであれば、先に触れていたパスやわずかなズレを見逃さないいわきの2層目のプレッシングにはかなり苦戦しているように見えた。また、藤森や森川に対するビルドアップからの繋ぎにおける意思のズレが関係しているようにも見えた。パスの出し手としては「1度表で受けて相手をより引き出してほしい」という意図があり、受け手としては「いわきの生命線であるSBを押し下げ、背後のスペースで勝負したい」という意図があったように感じた。そのため、動きは背後・パスは表という連携ミスが散見された。
 ただ、この段階のミスは致命傷にならないのが最近のシステムの良いところでもある。もちろん、攻撃の機会を逸しているようにも見えるが、ショートカウンターを受ける自陣ブロックが整備されているかも非常に重要なのである。

数cmに嫌われる

 長野としては今節1・2を争う決定機の場面。[25:50〜]
 水谷が自陣深くから体を倒しながら森川へ正確なロングフィードを送る。チームの狙い通り、厚みのある攻撃を作るいわきSBの不在スペースを狙ったアタックだった。1vs1の仕掛けが得意な森川がPA角まで運び、中央へグラウンダーのクロス。山本が右足で合わせるも坂田選手が右足1本でファインセーブ。ポストに当たり、跳ね返りが山本に当たってラインを割った。
 完全に狙い通りの攻撃の形から決定機を生み出しただけに、決め切りたい場面だった。前節のマッチレビューでも同じことを書いた覚えがあるが、こればかりは個人の質や少しの運に左右されてしまうものだ。一朝一夕に仕上がらない点ではあるが、ここを突き詰めていかないと昇格圏内のチームから得点を奪うことは難しいと突きつけられた気分だった。

立ちはだかる巨大な壁

 後半に入り、いわきは前線からのプレスのギアを1段階上げて臨んだ。

 前半よりプレッシングを早め、中央のボランチの警戒をさらに上げてサイドに執念で追いやる守備を見せた。長野も磨いてきたビルドアップで対応し、WGがSBをピン留めしたスペースにボランチが流れてくるなど、何度かプレス回避を見せた。しかし、いわきは剥がされても剥がされてもプレスの足を止めずに何度もボール奪取をチャレンジ。長野のミスや立ち位置に入れなくなることを誘い、前半に比べるといわきペースの時間帯が増えた。
 長野としては、SBの攻め上がり後のスペースを突く攻撃で何度かいわきゴールに迫った。しかし、そこで立ちはだかったのが家泉選手だった。前半〜後半中盤にかけては森川、後半途中からはデュークというように、長野の誇るドリブルタレントをほとんど1人で完封し切った。大卒1年目とは思えない程の対応力とフィジカルであった。
 背後も表も走って全て埋める。そんな覚悟を持っているように見えたいわきの守備は、徐々に長野自体のバランスを崩し、飲み込んでいった。完全に崩れたわけではなかったが、あそこまで走力でカバーできるいわきの守備にかなり苦戦した印象を受けた。また、デュークの仕掛けをみてCBもできる江川選手を早急にRSBに据え、嵯峨選手の攻撃力を落とさずに最後まで駆け抜けさせた村主監督の手腕も素晴らしかったと思う。

噛み合ってしまった一瞬の隙

 失点は、一瞬の隙を突かれた。(と思いたい側面も少し…。)
 三田が相手との交錯をきっかけに足を攣ってしまった。すぐさま続行不可能のサインが出され、ベンチから原田が投入された。途中から入った選手が集中を欠いていたとも思えないし、最後方の集中力が切れかけていたとも思わない。それでも、首位には首位たる所以がある。
 大きな契機は谷村選手のルーレットだろう。この局面で池ヶ谷が完全に振り切られたことで、意識はやや右側に集中する。そして、嵯峨選手に預けた後も動き直して準備を整えていた。この場面で長野としてはやれることはやっていたと思う。もちろん、池ヶ谷が振り切られなければ…という考えもあるが、あの時間帯・あの局面でルーレットを選択し、実行した谷村選手の創造性を褒めるべきだ。
 長野にとってスクランブルでの交代。谷村選手の一瞬の創造性とクオリティ。双方が長野にとって最悪な形で噛み合い失点という結果を生んでしまった。ただ、前述したが、無失点で耐えきれなかった守備陣を責めるべき内容ではなかった。どちらに転んでもおかしくない素晴らしい試合だった。

まとめ

 いわきはこれで今季初の4連勝。後半戦は未だに無敗。本当にJ参入初年度のチームだろうか。いや、これまでいくつも初年度で旋風を巻き起こすチームを見てきた。インパクトの大きさで言えば、1年でJ3を卒業して行った2015年の山口を見ているようだ。加えて、勝負への執念というところで見れば、かつての山口を上回っているようにも感じる。
 このまま独走し、シーズン最終節を待たずして昇格圏内確定を決めるのか。それとも、他J3クラブが意地を見せて、背後に迫る団子状態に参入することになるのか。いずれにしても、いわきFCは、今季のJ3の象徴と呼ばれるようなクラブになるに違いない。
 J2ライセンスが交付され、昇格圏内に最後まで残り、J2昇格ということになれば、主力の大量放出がない限りはJ2でも大暴れしそうな勢いである。長野としては、いわきの勢いに待ったをかけるのは他力本願となってしまった。
 長野は、前節のホーム北九州戦を今季最高の内容で勝ち切って、良い雰囲気で首位との対戦に迎えていたのだと思う。首位相手に臆することなく、自分達のスタイルを徹底し、質の高い決定機を多数作った。ただ、今季のチームは良くも悪くも積み上げのチーム。前節の出来から急激にジャンプアップを求めるのは酷である。
 北九州戦までに積み上げたもの、いわき戦までにプラスできたもの全てをぶつけてこの結果だった。プランの有効性、実行力からしても監督・選手共に最高の準備で惜しくも敗れた。北九州戦でも不穏だった決定力不足という要素から。前節は質より量でゴリ押せたが、今節はそこまでの数を作り出せなかった。ただ、戦いぶりを振り返ると、プランに対して十分な決定機数だった。一朝一夕にはクリアにできない"決定力"という要素を1段ずつ積み上げ、決定機数を増やし、次節の岐阜戦では勝利したいところである。
 そして、敗戦の後サポーターが拍手で迎えたのは、拍手に値する素晴らしい戦いぶりだと認め、"まだまだここから"という心からの叫びを投影したものだろう。今季これまで連敗はない。杉井・船橋という両翼を欠く中、どのような戦い方でJ3の銀河系軍団に挑むのか。何度でも言おう。敗戦の次の試合こそ真価が問われる。今こそ、パルセイロファミリー一丸となって、上へ引っ張り、下から押し上げ、戦い続けよう。

獅子よ、千尋の谷を駆け上がれ。

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