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【マッチレビュー】2023 J3 第5節 AC長野パルセイロvsY.S.C.C.横浜

ホーム初勝利

 2023シーズンJ3第5節、AC長野パルセイロvs Y.S.C.C.横浜の一戦は1-0で長野が勝利した。パス成功数は、YS横浜が長野の3倍以上を記録し、支配率も34:66とYS横浜が大きく上回った。しかし、シュート数は長野が上回るなど、チームの狙いとして勝利までのプランが完遂できた印象を受けた試合。2試合連続3失点からのホーム2戦目で無失点勝利。立て直しという観点で言えば、素晴らしい形で勝利を収めることができた。
 ホーム2連戦で連勝を達成するためにも、試合の振り返りは重要。今一度、勝利の裏側を確認していく。

基本システム&スタメン

 ホーム長野の基本システムは3-5-2。GKは2試合連続先発の濵田。3バックは右から池ヶ谷・秋山・砂森。WBは右に船橋、左に杉井。アンカーに宮阪。IHに佐藤・三田。2トップは山本・進。前節からのスタメン変更は1名。西村に代わって池ヶ谷が3バックの右に入った。また、WBの左右の配置も聞き足と同サイドに戻してスタートした。
 アウェイYS横浜の基本システムは3-5-2。GKは児玉。3バックは右から花房・藤原・柳。WBは右に松村、左に大嶋。アンカーに中里。IHに菊谷・古賀。2トップは萱沼・福田。前節からのスタメン変更は1名。GKが田川から児玉に代わった。また、前節から3バックの左右を入れ替えてスタートした。

マッチレビュー

序盤の決定機

 序盤はお互いに、相手のプレッシングの様子を見ながら攻撃手段を伺う展開。お互いに低い位置から繋いでいくことに特徴があるとわかっているため、前線からプレッシングを掛け合う時間帯があった。ビルドアップを行う側とすれば、相手の守備を引き出しながら長いボールを交えて深い位置まで進入することを試みていた。深い位置まで進入することで、立ち上がりからお互いにCKのチャンスも生まれた。
 迎えた7分、長野が先に決定的な場面を創出する。GK濵田のキックを進が競ってDFラインの裏に落とす。このボールに山本が反応して抜け出すが、PA内でDFと交錯し、シュートまで持ち込むことができない。こぼれ球に杉井が詰めたが、シュートはブロックされ枠外へ。単純なロングボールからの決定機だったが、進・山本の2トップ体制だからこそ生まれたチャンスシーンだったのではないだろうか。

 直後にYS横浜が決定的な場面を迎える。3バックvs2トップという数的優位を活かして長野のプレッシングを掻い潜ると、花房が運ぶドリブルで前進。その持ち出しに対して、松村・萱沼がボールに寄ってサポートを作る。この2人をマークしている杉井と砂森も動きに釣り出される。そして、砂森-杉井の門がマークに引きつけられることで、ギャップが開く。このギャップで菊谷がDFの矢印の逆を取る抜け出す動きを行う。ボールホルダーの花房に十分な制限をかけられていないため、菊谷に楔のパスが入り、3人目の動きとして松村がサイドレーンから菊谷を追い越し、長野のDFラインの背後を突く。一連の流れで、DFラインの背後を突いてゴール前まで進み、シュートを放ったが、最終的にシュートを放った福田の位置がオフサイドとして得点は取り消された。YS横浜にとっては狙っていた形であり、長野にとってはやられた感触があった瞬間だったはずである。

4-3-4ビルドアップ

 試合は序盤からYS横浜がボールを握り、長野が守備ブロックを構える構図になった。長野としても、ボールを奪いにいく姿勢は見せたが、厄介だったのがYS横浜の4-3-4ビルドアップ

 GK児玉がRCB-CB間に参加し、擬似的な4バックを構築する。この可変によって、WBを高い位置に張らせたまま、後方に人数をかけて安定感のあるビルドアップを行うことができる。もちろん、奪われてしまうと即失点につながるピンチにつながりかねないが、長野の2トップに対して、4人で保持を行うことで圧倒的に数的優位な状態でビルドアップを行うことができる。長野が5-3-2で構えるブロックの外側で、ボールを保持しながら隙を突くことを狙いとしていただろう。

長野の"賢守"

 長野は、YS横浜のビルドアップに対して、5-3-2ブロックで構えて迎え撃つことになるが、焦れることなく堅い組織守備を構築できていたのではないだろうか。YS横浜の擬似4-3-4ビルドアップに対して、5-3-2のブロックを構えるとどうしても前線からの制限がかけきれない。擬似4バックのSBに運ばれる場面はあったが、運ばれた後に攻撃の起点となるような仕事はほとんどさせていなかった。進・山本の2トップでアンカーポジションに入る選手を封鎖し、IHの運動量と微妙なポジション修正を活かして前進を阻み続けた。

 時に、中里がブロックの外に出てボールをピックアップする場面も見られた。長野の守備ブロックの外側で保持を継続する上では、重要なプレーだったが、攻撃の圧力という面ではプラスの効果を与えられていなかった。擬似SBをより高い位置でプレーさせる狙いもあったはずだが、1列押し上げることで、長野のWBに捕まりやすい位置に立ってしまう。YS横浜の前線4枚に対して、長野は5バック。必ず1枚余る配置になっており、5バックが前後に動かされて段差を生み出されない以上、大崩れすることはない。何度か長野DFラインの裏に配球し、深い位置まで進入するような場面も見られたが、5バックが先に対応できており、なかなか決定的な場面を創れない状況が続いていた。

長野の生命線

 長野の攻撃における生命線は、やはりポジティブトランジションで如何にスピーディーに相手ゴールに迫れるかという点。強固なブロックからスピーディーかつ厚い攻撃を展開できれば、決定的な場面を作ることができる。そして、厚い攻撃を展開することでカウンタープレスの強度も高くなり、相手陣内でプレーする時間が自然と増えていくのである。
 前半からYS横浜にボールを握られる時間が長く、YS横浜としても丁寧にボールを繋いでくるタイプのスタイルであるため、なかなか良い守備から厚い攻撃に繋げることは難しかった。しかし、前半から決定的な場面を多く創出したのは長野だった。昨季からの延長線で「ビルドアップに強みのある」チームだと紹介されることが多いが、今季の戦いを5試合観測して若干の違和感を覚えるフレーズになった。前半を通してビルドアップから決定的な得点機会を創出した場面は、それほど多くない。「ビルドアップ」をどう定義するかにもよってくるが、昨季ほど積極的に相手を動かすようなビルドアップはまだ見られていない。これを踏まえても、今季の長野の攻撃における生命線は、ポジティブトランジションだと思う。

5-1-3-1プレスへ

 中里が3バックに吸収されることで作り出すYS横浜の4バックに対して、長野は、前半の途中から2トップを縦関係に並べることで対応する。中里が抜けて古賀がアンカーポジションに立つ状態を山本の立ち位置で封鎖する。そして、進がワンサイドカットでCBからの配球をサイドに制限し、SBの位置でIHがボール奪取を試みる。2トップが横関係の時もほとんど変わらない追い込み方だが、縦関係にすることでYS横浜のビルドアップを外回りに迂回させることに成功した。ボールに近い方から人数を合わせていく守備で、ジリジリとYS横浜の時間と空間を奪っていった。

先制点 1-0

 池ヶ谷のロングフィードを進が競り、2列目に落とす。このこぼれ球に反応した山本を柳が倒してしまいFK獲得。そして、このタイミングで長野ベンチが動く。杉井に代えて音泉、三田に代えて西村を投入する。どちらも攻撃時の推進力に特長があり、先制点を狙っての交代策だったはずだ。
 この直後、宮阪のFKに交代で入った西村がニアで合わせて先制する。想定していたよりも早く、交代策が功を奏し先制に成功する。
 宮阪の高精度のFKと難しいバウンドを合わせて流し込んだ西村が素晴らしかったと話題になる。しかし、敢えて進と山本のポジショニングに注目したい。2人とも点取り屋であるため、本能のままに走り込んだと思うが、その動きが見事に西村へのマークをブロックする結果になった。
 YS横浜としては、前節セットプレーやクロスからの失点が嵩んでいた中で、同じような形で今節も先制点を与えることになってしまった。セットプレーからの失点が続いている中で、星川監督も交代をためらったと思うが、スイッチを入れる直前で先制を許す形になった。

長野の真骨頂

 74:22〜今季の長野の攻撃を象徴する一連の攻撃が生まれる。自陣PA内でボール奪取した音泉が持ち出して山本にパスをつける。山本に対して、佐藤・進・音泉がスピードを上げながらサポート。ワンタッチで佐藤に落とすと他の3人が一気にスピードアップ。音泉はサイドレーンに張り出すようなフリーラン。山本と進は相手ゴール正面に走り込む。そして、その間にファーサイドから船橋がPA内に進入。完全にマークから外れる形で、佐藤のクロスを頭で合わせた。惜しくもゴールとはならなかったが、今季の長野が狙う攻撃の形を体現した素晴らしい場面だったと思う。

攻勢を強めるYS横浜

 前半からボールを握る時間は長かったが、決定的な場面をなかなか作ることができなかったYS横浜。71分にC.アローヨと松井を同時に投入し、強引に長野ゴールをこじ開けにかかる

 両選手が投入された時点でのシステムは以上の通り。

 IHに入った松井がサイドレーンに流れ、田場と内外を入れ替えるようなポジションを取ることもあった。長野の5バックに対して、最前線に5人を配置する形になり、DFラインからのロングボールでC.アローヨや萱沼を活用。強靭なポストプレーを活かし、長野のDFラインを下げさせながら、菊谷や松井の精度の高いクロスを2列目から配球することで長野のゴールに迫った。松井がサイドに流れてくることで、佐藤・音泉間のマークの受け渡しでズレが起きていることもあったが、修正しながらYS横浜の攻撃を食い止める。
 ロングボールによって、押し込まれる時間帯が続いたとしても、5-1-3-1の守備ブロックで確実に対応。IHとFWの4人はかなりの上下動が要求されたが、試合終盤まで自分のタスクを完遂。YS横浜の地上からのビルドアップは外回りに迂回させ、何度もボール奪取から素早いカウンターへの移行を見せた。
 終盤に入り、長野のDFラインがC.アローヨや萱沼の強さを嫌い、やや重心を後ろに重くする場面も見られた。プレスに呼応するようにラインを引き上げることが難しくなる時間帯だったが、高窪と進の連続したプレッシングでYS横浜に余裕を与えなかった。やや重心が後ろに重くなり、危険な場面も数度創られたが、GKと5バックで完全にシャットアウト。開幕戦以来のクリーンシートで、長野が勝点3を手にした。

独断評価

個人評価

濵田太郎:6
Uスタデビュー戦で堂々のクリーンシートを達成。クロス処理など不安要素も感じさせたが、セービングとキックの安定感から伸び代を感じる出来。
池ヶ谷颯斗:6
出場停止明けだったが、運ぶドリブルから長野の前進を後方から支えた。被カウンター時にエラーが起きやすい点は今後改善してほしい点。
秋山拓也:6
前節の悔しさをエネルギーに変えたかのような奮闘ぶり。空中戦の強さを発揮して開幕節以来のクリーンシートに貢献。序盤から終盤まで献身的にチームに声をかけ、奮起を促した。
砂森和也:6
良い意味で目立たない時間帯が長かった。ビルドアップに関しても難なく行い、背後のボールに対しても的確なスライド対応を見せた。萱沼やC.アローヨのようなFW相手になると、若干分が悪いか。
船橋勇真:7
両サイドで特長の推進力を遺憾無く発揮。前半は、個人の仕掛けからいくつも決定機を演出した。後半になっても運動量が落ちず、Aggressive Duelsを牽引する素晴らしい働き。
杉井颯:5
徹底して左足のクロスを警戒されていた印象。クロスから決定的な場面を創ることはなかったが、自身が得点を取れるポジションに進入して違いを見せた。PA内での得点に関わるプレーの質向上が求められる。
宮阪政樹:7
前半からセットプレーで何度も素晴らしいボールを提供した勝利の立役者。アシストは1つしか記録されなかったが、もっと増えていてもおかしくない精度の配球だった。被カウンター時の対応も素晴らしい。
佐藤祐太:8
攻守において長野の中核を担う活躍。得点関与こそなかったが、試合全体の強度を牽引するプレーと足元の技術の高さを見せた。やはりトップ下より、IHでのプレーで本領を発揮している印象。
三田尚希:5
守備での貢献度は非常に高かったが、杉井のワンツー相手になる以外は攻撃で印象を残せなかった。山本や進の周囲を追い越す動きは見せていたが、ファウルやミスでなかなかボールが届かなかった。
進昂平:8
前線からフルタイムで献身的な守備を見せた。DFラインの重心が低いことを指摘したり、FWの相棒に声をかけながらプレッシングを統率した。ロングボールの競り合いの強さも、長野のカウンターを支える活躍だった。
山本大貴:7
進とともに前線からの制限を支える活躍。得点こそ生まれなかったものの、進との前線での収まり具合はピカイチ。背後の抜け出しもポストプレーも進と分担しながら、バランスよくチームに貢献した。
西村恭史:7
投入後ファーストタッチで先制点かつ決勝点を記録。今季初ベンチスタートとなったが、見事に数字として結果を残した。攻撃回数が限られていたため、本来の強みをあまり見せられなかった。
音泉翔眞:6
RWBとして出場。攻撃における推進力はもちろんだが、守備時の球際の強さも発揮。船橋と音泉の両サイド攻撃の迫力は段違いだと実感する試合になった。今後は得点に絡む活躍が期待される。
近藤貴司:5
今節で長野デビュー戦となった。開幕前に怪我を負って出遅れたが、遂に試合に合流した。守備に回る時間が多かったことが残念だが、卓越したアジリティを活かしたプレッシングやセカンドボールの回収を見せた。
大野佑哉:-
出場時間が短いため評価対象外。
高窪健人:-
出場時間が短いため評価対象外。

ORANGE評価

One Team:5
富山戦の苦い思い出をホームで払拭するために、チーム一丸となって勝利を掴んだ。ゴール裏の応援を煽ったシュタルフ監督の貢献もあり、スタジアム全体で掴んだ勝点3だと思う。
Run Fast:5
強固な守備からスピーディーな攻撃を行う中で、YS横浜を上回るRun Fastが見られた。試合終盤まで途切れることがなかったことも高評価。
Aggressive Duels:3
優勝するためにという基準からするとまだまだ改善していけると信じている。5-3-2の守備ブロックは堅牢だが、ドリブル進入に対する対応が甘い箇所が散見された。
Never Give Up:5
終盤にどれだけ押し込まれようとも必ず無失点で終わらせるという覚悟を感じた。攻撃陣として最後までゴールを狙い続けたことも高評価。
Grow Everyday:4
試合終盤の失点ということに関しては、大きな成長が見られた試合だったと思う。まだ改善の余地は見られるが、成長実感を掴む上で非常に重要な勝利になったはずだ。
Enjoy Football:5
今季ホーム初勝利&肩組みシャナナ解禁ということもあり、勝利後は満面の笑みが溢れた試合だった。試合中にカメラに抜かれる船橋の笑顔にも高評価。

まとめ

 長野にとっては、前節のショッキングなドロー決着から流れを好循環させるきっかけを作ることができた試合だと思う。試合終盤の失点癖という昨季からの課題も、今節では確実に0で抑えることに成功した。しかし、あくまでも、これは好循環のためのきっかけにすぎないと考える。今節で課題を1つ完全クリアできたとは思っていない。相手の質が影響してくるところであるため、上位につけるチームにも通用する強度を求めていけるかが、J3優勝に向けた重大課題である。
 YS横浜にとっては、今節の敗戦を受けて開幕5試合未勝利となった。前節奈良戦で今季初勝点を掴み、追い風を受けて臨んだアウェイ戦だったが、得点を奪うことができなかった。ただ、敗戦は喫したものの、これまでの4試合で継続してしまった複数失点という苦い記録はここで断ち切ることができた。運良く1失点とも捉えられるかもしれないが、個人的には妥当な点差だと感じる。むしろ、前半のオフサイドでの得点取り消しがなかったら、どちらが勝利していたかわからない。

 長野は次節ホームに讃岐を迎えての一戦。優勝候補筆頭として数えられていた鹿児島を破り、3連勝を達成した。連勝の勢いそのままにUスタに乗り込んでくるだろう。長野は、相手の勢いをスタジアム全体で跳ね返す必要がある。今季は例年以上に混迷を極めるJ3。38節終了時点で1番高いところにいるために、早い段階で連勝を重ねていくことが求められる。

獅子よ、千尋の谷を駆け上がれ。

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