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【マッチレビュー】2022 J3 第15節 SC相模原vsAC長野パルセイロ

勝利への意地

 7月2日に相模原ギオンスタジアムで行われたSC相模原vsAC長野パルセイロの一戦は1-2でアウェイチームの勝利となりました。この試合の勝敗でSC相模原は4試合勝ちなし、パルセイロは連敗を回避するという対照的な結果となりました。
 SC相模原にとっては、ホーム2連戦のスタートとなる大事な試合であり、第16節に向けて勢いをつけたかった一戦を落とし、J2昇格に向けて更に難しい状況になりました。ただ、後半途中からは完全に試合を掌握することができていましたし、2020シーズンの大逆転昇格の実績を持つクラブですから、まだまだ昇格に向けて諦める段階ではないと感じています。
 対するパルセイロは、カターレ富山に敗れた後のアウェイ2連戦となりましたが、良い意味で前節を引きずることなく勝利を掴めたと思います。SC相模原とは対照的に後半途中からの試合の進め方にはまだまだチームとして満足していないと思いますし、上位に食い込んでいくためには改善するべき点と言えるでしょう。それでも連敗することなく、敗戦の後しっかり勝ち切ることができる逞しいチームであると感じています。今季これまで4敗していますが、いずれも連敗することなく最低でも勝点1を掴んでいます。この勝点を生かすも殺すも今後の自分達次第。ここから進化を止めず、Grow Everydayを続けてほしいです。
 それでは、今節も成長の糧とするべく振り返っていきましょう。

前半

適材適所の利

 お互いにシーズン中に4バックと3バックを使い分けているチーム同士の対戦となりましたが、SC相模原は3-4-2-1、パルセイロは4-2-3-1で試合をスタートさせました。SC相模原はメンバー表から推測できる形での3バックでしたが、パルセイロは普段CB出場している秋山が宮阪の相棒としてダブルボランチの一角に入りました。一見、奇策のようにも見えますが、新加入でSC相模原のエースに上り詰めた加藤選手を完封するための策でした。
 SC相模原のゴールキックの時など、後方からのロングボールのターゲットとして加藤選手にボールが収まるのを防ぐために秋山を1対1の構図で起用していました。その効果は開始直後から顕著に見られ、SC相模原の攻撃のフックを作らせない守備ができていたと思います。

 先制点の場面はおそらく狙い通りの得点の奪い方であり、流れを大きく引き寄せるきっかけになりました。
 中盤で相手のボールを奪うとDFラインでボール保持をし、CB-SB間に宮阪が下ります。押し出されるようにして左サイドの2人が高い位置を取れるようになり、相手のトランジション時点での前線3枚の形の崩れによって宮阪へのアプローチがなくなりました。ここで、水谷が相手のWBを食いつかせて3バックの脇のスペースが大きく空いた状態になり、宮阪&デュークの各々の特徴を最大限生かしたコンビネーションで一気に裏をとって中央に折り返し、宮本が押し込んで先制に成功します。
 宮阪にプレスがかからなかったのも、WBが脇のスペースをケアできなかったのも一瞬の隙でしたが、そこを見逃さなかった3人のコンビネーションが相手の出鼻を挫く先制点を生みました。一方で、SC相模原としては警戒しなくてはならない場所で、隙を作りリズムを崩すという失点の癖が抜け切らない立ち上がりにも見えました。
 その後、15分までに2点リードを奪い、あわや3点目というところまで主導権を手中に収めたパルセイロは、プラン通りに試合を運ぶことに成功しました。見ている方としてもカマタマーレ讃岐戦以来の前半2点リードとなったので、落ち着いて試合を見られたのではないでしょうか。

噛み合わせとプレス強度

 立ち上がりでスコアが2-0になった影響は大きく、お互いの勢いの有無が如実に現れたように思えます。

 SC相模原としては試合が落ち着く前に2点ビハインドを背負い、立ち上がりで加藤選手が秋山に対して空中戦で勝てていないことが影響してか、近い味方に対してのパスが非常に多かったように見えました。ボランチやテクニカルな2シャドーに対して良い状態でボールを当てるためにも、パルセイロの守備ブロックを左右に揺さぶりながらギャップを見つけていくべき攻撃の形が見えず、近いところにつなぐことでパルセイロの守備の網に引っ掛かります。
 今季のパルセイロはファウル数こそ増えていますが、それだけ中盤での球際はこだわっているところだと思います。各駅でサイドチェンジをしているようでは、機動力のある両翼に加えてタックル数1位の佐藤の2列目の守備を回避することは難しく、ボールをブロックの内側に刺せない場面が続きました。ボールを前進させることが全くできなかったわけではありませんが、アグレッシブなパルセイロの球際を嫌がる場面が多くなり、前半のうちに主導権を握り返すには至りませんでした。

後半

4バックの攻撃と対処

 ハーフタイムで2人選手を入れ替えたSC相模原は、3バックから4バックに変更します。

 パルセイロの前線からのプレスを軽減し、確実にボールを握りながら前進するためにサイドに配置する人数を1人から2人に増やします。4バックへの変更によってできたSBにはしっかりと高い位置を取らせて、幅と高さを用いてプレスを剥がそうとします。
 しかし、2点のリードを持っているパルセイロも自信を持って前半からの守備を継続しているため、思うようにボールを前進させることはできませんでした。後半も立ち上がりの15分〜20分間はパルセイロが優位に試合を進め、相手ゴールに対して直線的なプレーを増やし、得点の匂いを感じさせる時間帯となりました。セットプレーやミドルシュートなどは相手GKの好守に阻まれ、最もチャンスとなった場面はジャッジに止められてしまいました。それでも、相手ゴールを脅かすことを続けられていた戦いであったため、今季これまでの積み上げを感じる試合と言えました。
 ただ、4バックにした時のSC相模原の攻撃の狙いは間違いなく試合中に現れていました。藤本選手がボランチに入った辺りからDFラインでのボールの動かし方に余裕が出て、SBとSHのコンビネーションでパルセイロのSBの裏を突くような場面が散見されるようになります。SBが高い位置を取り、SHがファジー(曖昧な)ゾーンをとることで、パルセイロのサイドの守備連動をロックして前進できるようになりました。そしてこの僅かな歪みは失点というきっかけで大きな歪みを生み出します。

弱気

 65分過ぎに与えたPKを船山選手に決められ、1点差に詰められるとパルセイロのDFラインがなかなか前に押し出せなくなりました。推測にすぎませんが、2点差リードの時は勢いに任せてガンガン前線から守備網を張り巡らせることで防いでいる意識だったものが、1点差になると急激に第10節〜第12節の記憶が脳裏に浮かんできたのでしょう。サポーターだけではなく、パルセイロDFにとってもそれだけ悔しい3試合だったのでしょう。「これ以上差を縮められるわけにはいかない」という心理が働き、無意識のうちにラインを低く設定することになっていきます。

 DFラインが押し上げられず、重心が後ろに下がると危険なエリアを空けないために2列目より前の選手も設定されたDFラインに合わせるように低い位置に立つようになります。その結果、SC相模原のパスワークによる前進を阻んでいた前線からの制限が緩くなり、簡単に高い位置をとったSBやSHに対して配球されるようになっていきます。そうなると、1stDFとしてアプローチしていた前線の4人のスタート位置が低くなり、2ndボールに対しても回収できなくなり、次第にSC相模原の時間帯となっていきます。
 今季のパルセイロの特徴でもある失点後に集まって意識のすり合わせを行う場面で、「リードを守り切ろう」という共通認識があったのかもしれませんが、押し込まれる時間が増えていくにつれて全体としてバタついた印象も拭えません。20分〜25分間を耐え抜くことはできましたが、上位相手に同じように戦った時に1点リードを守り切ることが確実にできるのか、本当にその時間帯からDFラインの設定の高さがそこでよかったのか、メンタル的な部分の判断にもなったかと思いますが、前半戦のうちに改善しておきたいポイントの1つではないでしょうか。
 大内から終盤ずっと「(ラインを)上げろ!」「ボールにいけ!」という声が聞こえており、選手たちとしても怖がらずに元のライン設定で勝ち切りたい思いはあったのでしょう。東が退場してからの撤退守備は数的不利ということもあり仕方ない点もありますが、失点後のふるまい方、試合の締め方はまだまだ成長中といったところでしょう。

まとめ

 連敗を防ぎ、アウェイで貴重な勝点3を積み上げたパルセイロ。まだまだ上位に居続けるだけの安定感は備わっていないかもしれません。しかし、苦手な試合終了間際の時間を無失点に抑えたこと、課題の1つであった立ち上がりの攻撃エンジンのかけ方を改善した勝点3を得たことで劇的な成長を見込める可能性もあります。安定感はこれから勝ち続けることで生まれてくるはずなので、1勝1勝の重みを受け止め燃料にしていけば、再び上位に返り咲くこともできるはずです。
 課題に出たところが数試合かけて改善できている。このチームの成長曲線をより急激なものにするために、もっともっと熱い応援を送りたい。そう思える試合だったかと思います。勢いがあり、成長できるチームはどんな化学反応が見られるのかも楽しみの1つです。これまでリーグ戦出場が限られている選手もTRMでしっかりアピールしているので、総力戦で次節FC今治に対して勝利を収め、連勝の勢いに乗って前半戦を3連勝で終えられるようにしましょう。
 まだまだ昇格に向けた戦いは終わっていない。ここから一気に上位追撃へ。

獅子よ、千尋の谷を駆け上がれ。

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