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【マッチレビュー】2023 J3 第7節 SC相模原vsAC長野パルセイロ

今季最速3連勝

 2023シーズンJ3第7節、SC相模原vsAC長野パルセイロの一戦は、1-0でアウェイの長野が勝利した。YS横浜戦、讃岐戦に続いて3試合連続無失点での連勝を達成。愛媛戦、奈良戦、富山戦の不安定さを払拭するかのような3連勝を飾った。また、ボール支配率やシュート数、パス成功数などの数字はこの3試合で似通っており、一定のスタイルを導き出せたと言えるかもしれない。
 ただ、まだまだ7/38にすぎず、シーズン全体を見据えたときに、手放しで喜べる内容でもなかった。J3優勝&J2昇格という奇跡をつかむために、この試合も振り返っていく。

基本システム&スタメン

 ホーム相模原の基本システムは4-2-3-1。GKは今季初出場&Jデビューの川島。4バックは右から綿引・加藤・山下・橋本。ダブルボランチに金城・吉武。2列目は右から佐野・佐相・藤沼。1トップに安藤。前節からのスタメン変更は2名。GK竹重に代わって川島、ボランチの田中に代わって金城が起用された。悪天候の中、Jデビューをした川島は、戸田監督から期待・信頼されていることが伝わる起用になった。
 アウェイ長野の基本システムは3-5-1-1。GKは濵田。3バックは右から池ヶ谷・秋山・杉井。WBは右に音泉、左に船橋。アンカーに宮阪。IHは佐藤・三田。トップ下に西村。1トップに。前節からのスタメン変更は1名。山本に代わって音泉が今季初先発として起用された。試合前は、山本と同様にトップ下に入ることが予想されたが、音泉はRWB、西村がトップ下という形で配置されていた。

マッチレビュー

 強い雨が降る中試合は始まり、スローインでボールが手から滑り落ちるといった雨の強さを物語る場面も立ち上がりには見られた。

長野の守備配置

 長野は好調の要因である「良い守備からスピーディーな攻撃」を標榜した形で試合に入った。

 守備時のスタート位置は上図の通り。システム表記をすると5-1-3-1といった具合。相模原の基本的な4-2-3-1ビルドアップに対して、前線の4枚で中央封鎖のブロックを固めた。ピッチ脇の集音マイクでは、佐藤のポジショニングに対するDFラインからのコーチングがよく拾われていた。そのコーチング内容からも推測できるが、2列目の3人は自分の背後のマークを消すイメージでビルドアップに対応していた。位置関係で言えば、ダブルボランチに対して強いマーク意識を持ってもおかしくないが、あまりボランチに対するマーク意識は強くなかった。どちらかと言えば、ハーフレーンに絞ってきた相模原SHへのCBからのパスコースを消す立ち位置をとっていた。

 長野が狙いたい形は上図の通り。前線4枚で相模原のビルドアップを強制的に外回りに設定し、高い位置をとった相模原SBに長野WBを正面からぶつけること。相模原SBのポジショニングによっては長野WBではなく、長野IHがプレッシングに当たる時もあったが、狙いとしては共通している。低い位置でサイドに張ったSBの時間と空間を奪い、SBからボール奪取ができればベスト。次点でSBから苦し紛れのパスが出たら数的優位なDFラインが回収するという形。
 雨でボールが走りやすく、左右に大きく振られた時は前線4枚の制限が間に合わず、WBとサイドCBのところでズレを作られる場面も見られた。しかし、基本的には長野の守備ブロックは有効的に機能していたように感じる。長野の計算外な点で言えば、LWG藤沼のスピードや相模原SBの攻撃力だったように感じる。サイドのタレントが非常に揃っていて、スピードやクオリティで上回られる場面もあり、ピッチコンディションも相まって難しい局面が少なくなかった。

配置の裏側

 先述した通り、相模原のサイド攻撃のスピードはリーグでも屈指の実力だったと思う。その点を踏まえると、今節の先発メンバーの人選と配置は納得がいく点が多い。最も顕著な配置が長野の両WBの人選である。今節は左に船橋、右に音泉を配置してスタートした。この配置は、相模原のサイド攻撃のスピードに耐えるための策だったのではないだろうか。
 特に、相模原LWG藤沼はリーグ屈指の快足の持ち主であり、両SBの攻撃参加もスピード感を持って行われる。そのため、個人戦術の面で1vs1の局面で縦に振り切られてしまうと長野としては分が悪い。この現象に陥らないように実施したのが船橋&音泉コンビだった。当初は攻撃的采配からの起用に思えたが、フィジカルとスピードでサイド攻撃を抑える必要性から起用された可能性が高い。実際に音泉vs藤沼の局面は、一進一退の攻防が続いており、危険な突破を許す場面もあった。また、左サイドも杉井&船橋の機動力でカバーし合いながら、綺麗なクロスは上げさせなかった。長野のスカッドでも屈指の推進力を持つ2人を、守備強度の向上を狙いの一つとして起用したシュタルフ監督の采配は非常に興味深い。

攻めきれない要因

 今節はピッチコンディションにも苦戦した印象を受けた。特に、ポジティブトランジション時の攻撃の起点となるパスがなかなか収まらなかった。試合時間が進むごとに徐々に慣れていった感はあったが、それでも「この縦パスが収まれば」という場面でコントロールが乱れたり、ワンタッチプレーがズレる事象が発生した。今季の長野の攻撃で、ポジティブトランジションの安定性と速攻性は生命線であり、前半にリズムを作りきれなかった要因としてポジティブトランジションの精度が挙げられる。
 一方で、前半に作ったチャンスシーンのほとんどがポジティブトランジションの精度が高く、受けた先の選手も選択肢を広く持てているという状況から生まれていた。佐藤がPA内で倒された場面や船橋のクロスに西村が飛び込んだ場面が象徴的である。

 後半の立ち上がりも基本的には、前半と同様の展開が続いていく。相模原は快足が持ち味の藤沼の前方に広がるスペースを狙い、長野は守備からの素早いトランジションで相模原ゴールに迫っていくような場面が目立った。相模原は左サイドの攻撃から、長野はセットプレーから、お互いに決定機を迎える場面も作れていた。

先制点 0-1

 後半の立ち上がりに試合は動いた。長野がロングカウンターの流れからコーナーキックを獲得すると、キッカーはいつも通り名手宮阪。ニアサイドに鋭いクロスを上げると、秋山が強烈なヘディングを叩き込んで先制に成功する。
 相模原のCK時守備はソーンディフェンス。1人1人が個人に与えられた守備範囲をカバーする守り方だった。鍵は空中戦に強い金城の周辺スペースにあった。宮阪のキックは、ちょうど金城の前にあるスペースにスピードを持って置くようなクロスだった。このスペースに秋山がしっかりと走り込んで最高打点で叩き込むことができた。
 3試合連続宮阪のセットプレーから先制点を記録しており、チームの勝ちパターンとしての武器が増えたような印象を受けた。

縦ズレの強化

 先制点を奪った後も長野は鋭い攻撃を展開することを狙い続けた。前半も機能していたIHとWBによる縦ズレのプレッシングだが、よりプレス開始位置が高くなったように感じた。前半は前線の4人の配置が中央封鎖を意識している要素が強く見えたが、後半の立ち上がりは奪う姿勢が強く現れていた。
 相模原CBの持ち上がりに対して、長野IHが最前線に出ていくことで対応する。長野IHは自身の背中で中央に絞った相模原SHへの直接のパスコースを消す。そして、プレッシングに向かうことで相模原CBの時間的余裕を奪っていった。この長野IHの動きに呼応してトップ下とアンカーに入る2人はポジションを微調整。このことによって、相模原のビルドアップを同サイドに圧縮することができる。数的同数に追い込んでプレッシングを強めていくため、苦し紛れのロングボールで逃すしかなくなる状況に追い込むことができる。もちろん、ボールサイドだけではなく、逆サイドまで全員が共通意識を持って、縦ズレと同時に横ズレも意識していく必要があるだろう。

相模原の変化

 後半途中からわずかながらも相模原の前進方法に違いが生まれた印象を受けた。

 両SHを若林・D.カルロスに変更したあたりからビルドアップにおけるサイドバックの位置どりが中央寄りになった。そして、場合によってはボールサイドのボランチがリンク役として本来のSBポジションに入る形が見られた。この変更によって、相模原SH&SBともに高い位置でボールを受けられるようになった。長野IH&WBによる縦ズレの網にかかる場面も徐々に少なくなっていく変化が見られた。
 長野IHがプレスのスイッチ役として前に出てくるが、その背後のスペースにSBを立たせることで、攻撃力の高いSHは高い位置に張らせたまま、レイオフを用いて前進する受け皿を増やすことができる。CB→SBのパスでつまりが見えていた相模原からすると有効な打開策で対応してきた。

 相模原側の変更と長野の守備ブロックの重心が後ろになったことで、サイドでの攻防が増加した。若林やD.カルロスといった切れ味鋭いドリブラーとに対して、長野は5バックでスペースを埋めながら対応し、虎視眈々とカウンター機会を狙う。徐々に相模原SHvs長野WBの位置が長野陣内に押され、危険な場面を作られることもあった。しかし、中央でクロスに合わせられることはなく事なきを得た。
 試合の終盤には、松澤vs佐古のバトルであわやレッドカードという場面や、若林vs宮阪のバトルであわやPKという場面も見られた。長野にとっては最後まで気の抜けない時間が続いたが、5バック+GKの貢献もありゴールに鍵をかけて試合終了。0-1でアウェイの長野が勝利を掴んだ。

独断評価

個人評価

濵田太郎:6
3試合連続の無失点勝利に大きく貢献。ピッチ状態としても非常に難しい試合だったと思うが、危なげなくゴールに鍵をかけて無失点勝利となった。ハイボール処理などはまだまだ成長の余地あり。
池ヶ谷颯斗:6
直近3試合で徐々に昨季の輝きを取り戻しつつある。開幕序盤からややミスが目立つ試合もあったが、ここにきて的確な軌道修正。DFラインからの正確なビルドアップを牽引するキーマンに返り咲いてほしい。
秋山拓也:9
この試合唯一となる得点者。富山戦でのPK失敗で自身のゴールチャンスとしてはもちろんだが、人一倍責任を感じていたはず。チームを勝利に導くゴールとDFの柱としての貢献度は今節1位が妥当だろう。
杉井颯:7
LCBとLWBのタスクを見事に完遂。フル出場ながら最後まで運動量を落とさず、左サイドを制圧した。かつて最強を誇った相方のD.カルロスも完封。プレッシングでも勇敢に前に出る事で相模原の勢いを消した。
音泉翔眞:6
今季初先発ながら持ち前の推進力で前半から長野の決定機創出に貢献した。推進力を活かした縦突破に加え、ボールをさらしながらカットインしてラストパスを送る役割もそつなくこなした。
船橋勇真:6
前半はLWB、後半のほとんどをRWBとして出場。昨季同様に長野の勝ち筋を切り開く攻守の鍵になっていると言えるだろう。両足から放たれる鋭いクロスはピッチコンディションの影響で相模原DFにとっては脅威になっていた。
宮阪政樹:7
3試合連続の先制点をアシストする職人芸を今節も見せた。長野の鋭いショートカウンターで引き起こされるFKやCKのキッカーが彼であることに大きな意味がある。守備面での貢献も大きく素晴らしい活躍だった。
佐藤祐太:7
今節最もツイていなかったのが佐藤だろう。PK判定となってもおかしくないような場面で全てファウルをとってもらえなかった。ただ、それだけ2列目から決定的な場所に顔を出しているという裏付けでもある。
三田尚希:6
豊富な運動量で前半から長野の賢守を体現。得点こそ奪うことができなかったが、自慢の嗅覚でこぼれ球に反応してボレーシュートを放つ場面も見られた。着々と期待値の高い場所でシュートを打つ場面は増えている。
西村恭史:6
ついに今節はトップ下で先発出場。CB、WB、アンカー、IHとできないポジションはないと思わせる活躍。昨季で長野を巣立った清水の先輩である水谷の影を重ねてしまう。得点という貢献にも期待していきたい。
進昂平:7
長野のカウンターの起点となる献身性が光るストライカー。2試合連続得点とはならなかったが、彼がいないとカウンターが始まらない。守備面でも周囲の仲間を動かしながら相手のビルドアップに牽制をかける活躍。
佐古真礼:8
今節はこれまでに比べて長めの出場時間となった。高身長を生かして相手のキーマンである松澤を完封。攻撃面では左足から繰り出される長短のパスで長野の攻撃を活性化することに貢献した。
山本大貴:6
進同様にカウンター起点を作るためには欠かせないストライカー。シュートチャンスに恵まれなかったが、空中戦・地上戦ともに非常に高いクオリティでカウンターの起点を作り続けた。
近藤貴司:5
今節も途中交代でIHでの出場を果たした。守備に追われる時間も長かったが、得意のアジリティを守備でも見せつけて、相模原の武器であるサイド攻撃に対応した。
小西陽向:5
今季初出場を果たした。今節はトップ下での出場となり、守備タスクがやや軽減され、攻撃面での瞬発力を活かす場面が数回見られた。非常にポジション争いが激化する位置だが、爪痕を残し続けてほしい。

ORANGE評価

One Team:5
佐古が倒された場面でのベンチの対応やその間のピッチ内の対応に象徴されていた。置かれた場所で最善の行動を尽くす。そんなOne Team像が見えた気がした。
Run Fast:3
長野も悪くなかったが、相模原との相対評価で3点とした。やはり、相模原のサイド攻撃は非常にスピーディーだった。予測とフィジカル、両面で相手より速く走る必要がある。
Aggressive Duels:4
雨の中、難しいピッチコンディションで戦い続けていた。自陣深い位置でのデュエルに関しては一進一退の攻防だった。まだまだ賢守のために磨ける側面だと思う。
Never Give Up:5
最後までゴールに鍵をかけることはもちろんのこと、攻撃面でも隙があれば決定的な2点目を奪おうと、最後まで勝利に執念を持ちながら戦うことができていたと考える。
Grow Everyday:5
連勝中かつ下位チームとのアウェイ戦という、これまでの長野が苦手にしてきたシチュエーション。昨季以前のチームと比べるのも見当違いだが、今季は違うと思わせるには十分の活躍だった。
Enjoy Football:5
3連勝かつ暫定首位ということもあり、チームとサポーターに笑顔が溢れていた。厳しい戦いの中にフットボールの楽しさが隠れていると思う。このまま、楽しみながら連勝を積むことに期待したい。

まとめ

 相模原にとっては、4戦連続未勝利の中迎えた一戦だったが、求めていた勝点3は掴むことができなかった。この敗戦でホームでは2戦連続で無得点となり、厳しい状態が続いている。解説者として人気だった戸田監督、若手の勢いのある選手の調達、親会社の関連での資金力と覆す要素は多く持っているはずだが、このまま勝利が積めない期間が続くと雲行きが怪しくなってくる。何といってもJFLへの門が今季からは開いており、勝点度外視で若手に経験させられるリーグでは無くなってしまっている。今後の復調に期待したい。
 長野にとっては、ホームで掴んだ今季初連勝の勢いをアウェイの地でも遺憾無く発揮。今季J3で最速となる3連勝を達成した。試合終了時点では、他上位クラブの試合が残っていたため、暫定首位という形だったが、第7節全日程を終えて、堂々の首位に立った。もちろん、この時点でリーグが終了するわけではないため、首位である間も首位から離れた時も常に勝利を目指して戦い続ける必要がある。「すべての日程が終わった時に同じ場所にいられるように」目指すは優勝ただ一つ。まずは、このポジションに立てる力があることを確認できたことは大きいだろう。過信や慢心ではなく、自信に変えてチームもサポーターも成長していく必要がある。

獅子よ、千尋の谷を駆け上がれ。