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【マッチレビュー】2023 J3 第3節 AC長野パルセイロvs奈良クラブ

悪夢のホーム開幕戦

 2023シーズンJ3第3節、AC長野パルセイロvs奈良クラブの一戦は、0-3で奈良クラブが勝利した。負けなしだった長野と勝ちなしだった奈良の明暗を一気に転換するほどのスコアとなった。
 そして、長野にとってはJFLからの参入クラブとのホームゲームで2シーズン連続の大敗を喫した(昨季vsいわき 0-4●)。JFLからの昇格クラブとの対戦を振り返ると、1度目の対戦で勝利したのは、2015シーズンの山口戦のみ。それ以降は、8シーズン連続で未勝利となっている。昇格組の勝ち癖が凄まじいのか、長野が受けに回ってしまうのか。真偽はわからないが、今季も例によって、その流れを踏襲してしまった。

長野 0-4 いわき 2022
長野 1-1 宮崎 2021
今治 1-1 長野 2020
長野 0-2 八戸 2019
※昇格クラブなし 2018
沼津 1-1 長野 2017
鹿児島 0-0 長野 2016
長野 2-1 山口 2015

各シーズン昇格組との対戦結果

 スコアだけに注目すると、根拠もなく悲観的になりがちである。ピッチでは何を試みていて、どのような試合展開だったのか、冷静に振り返ることで見えてくることもある。私にとっても、振り返ることが苦しく感じる点差だが、まだ3節。この敗戦を活かすも無駄にするも自分たち次第。チーム自体は、もちろん振り返るが、応援する側もアップデートしていきたい。

 それでは詳しい試合の流れを見ていこう。

基本システム&スタメン

 ホーム長野の基本システムは、これまでの2試合と同様に3-5-1-1。GKに矢田貝。3バックは右から池ヶ谷・大野・秋山。アンカーに宮阪。WBに船橋・杉井。IHに西村・三田。トップ下に佐藤。1トップに。前節と同じメンバーが並んだ。一貫したメンバー選出ということもあり、狙いとする賢守猛攻のスタイルと作り方はおおよそ同じであることが予想された。
 アウェイ奈良の基本システムは、これまでの2試合と同様に4-1-2-3。GKにアルナウ。4バックは右から寺村・鈴木・伊勢・加藤。アンカーに堀内。IHに可児・山本。3トップは右から浅川・酒井・嫁阪。前節からの変更は、LSBとLIHの2名。フリアン監督は、都並に代えて加藤、片岡に代えて山本を先発で起用してきた。

マッチレビュー

長野の"賢守"

 お互いにDFラインからの円滑なビルドアップを狙いとしており、それぞれのビルドアップの狙いとビルドアップに対する守備構築がよく見えた試合の立ち上がりだった。

 奈良のビルドアップに対する長野の構え方は上図の通り。"ヘソ"の位置をとる堀内に対しては、佐藤がマンマークで明確に監視する。この立ち位置によって中央の堀内を経由したビルドアップを封じる。そして、西村・三田は後方のスペースも気にしながら、SBを監視する。これまでの2試合と同じように、相手SBに対しての距離は遠くなるが、ビルドアップを外側に迂回させることができる。宮阪の脇に生まれるスペースにいるIHは、池ヶ谷・秋山がそれぞれ監視する。

 進と2列目の3人で奈良の攻撃を外回りに誘導し、相手が後ろ向きで受ける場所を取り所としていたように見えた。西村や三田の絶妙なポジショニング修正によって、SBに前に運ばれる場面も少なく、狙い通りの守備ができていたと感じた。GKアルナウからのロングフィードやCB→IHの差し込みによって、プレスがいなされる場面もあったが、決定的な場面まで運ばれることは少なかったのではないだろうか。

 5-1-3-1(5-3-2)のブロックを構築する"賢守"は、前半において実行できていたはず。しかし、気になるのは奈良のクロスに対する対応。ブロックの外側を回させて、クロスを上げさせているが、長野のDFラインの揃い方を考慮すると競り負ける場面が目立った。実際に先に触れても、奈良の選手の前にボールが転がったり、GKのパンチングも危険な位置に溢れたりとゴール前の跳ね返す強度はもっと向上させる必要がある。奈良のFWは、ポジショニングが上手かもしれないが、絶大な差は感じなかった。"賢守"を今季のJ3で完遂するためには、この跳ね返す強度がないと勝負にならない気がする。5バックで構えている以上、確実に跳ね返すかGKが手中に収めなくてはならない。

先制点 0-1 27分

 きっかけは何でもないGKアルナウからのロングボール。大野が酒井と競り合うとDFラインの裏にボールが溢れる。浅川と秋山が並走し、先に追いついたのは浅川。GK矢田貝の位置を見て、ループシュートを放つと無人のゴールにボールが吸い込まれていった。
 初見では何が起こったのかわからなかった。

…何の危なげもないシーンで失点…

試合後監督コメントより引用

 浅川の進行方向は確実にコーナーフラッグ方面であり、秋山も振り切られるほど離れてはいなかった。この状況で矢田貝の立ち位置は、あまりにも適切でない。攻撃的に前に出られる良さが、裏返って出たミスとも捉えられる。しかし、この1失点がもたらしたブレーキは非常に大きかったのではないだろうか。

低調なビルドアップに

 "賢守猛攻"で言えば、守備よりも攻撃での危うさが見られたことも事実。失点してからの焦りなのか、やり直す判断が極端に減ってしまった印象を受けた。

 長野は3-1-5-1の形でビルドアップを試みる。このビルドアップに対して、奈良は酒井の横に山本を押し出して4-4-2のブロックを構築する。時には、可児が宮阪のコースを消すように前に出て制限を加えるプレッシングもあった。

…今日は3-2ではなく、3-1みたいな形でビルドアップに入っていた…

試合後監督コメントより引用

 この監督のコメントから伺えるのは、より中央の位置で、3バックからのボールをピックアップしたかったのではないかという点。今季これまでの長野は、3バックの保持に対して、西村が宮阪の脇に下りて、後方3-2の形でビルドアップを行っていた。そして、船橋と杉井が高い位置を取ることで、相手のSBをピン留めする役割があった。

 今節の奈良の4-4-2ブロックと噛み合わせると上図のような形。自陣サイドの低い位置に人を配置しないことで、スペースを生み出す。ボールサイドのSHが3-2の保持に釣られたところを、シャドーの佐藤や三田が1列下りてピックアップする。この流れで相手の守備組織に亀裂を生んでいったのが、前節までの長野。

 今節は上図の形。船橋や杉井をやや低い位置に配置していたと思われる。この立ち位置によって、奈良SHを長野CBとWBの2vs1に引き込むことができる。コースを切られていない方にボールを逃せば、プレッシングを掻い潜ることができる。
 しかし、この試合の大きな誤算は、池ヶ谷の持ち運びが序盤から精細さを欠いていたこと。何気ないビルドアップの場面で、パスミスをしてしまったり、持ち運びで奈良FWに捕まることが多かった。この影響もあってか、持ち運ぶ方向がややサイドに流れてしまうことが目立つようになった。

 自分のマーカーも連れて狭いスペースに流れてしまうため、船橋にパスが出た時には、既に奈良の守備網に引っかかった状態になっている。西村のポジションを1つの出口として用意していたが、差し込む場面が少なくなった。船橋のフィジカルや西村のテクニックで強引に剥がせる場面もあったが、明らかに昨季のシュタルフスタイルとは乖離した状況だった。
 一概に池ヶ谷の不調として片付けられる単純な話でもなく、実際に引き出す側の西村やその奥にいる進・佐藤の位置はどうだったか。さらに言えば、池ヶ谷に渡した時点で、守備網に包囲されていなかったか。カメラ外でわからない側面が多いため断定はできないが、失点後はビルドアップが悪化したことは事実である。

 後半からは、長野がビルドアップからの攻撃構築を狙いとし、奈良は長野のミスを突いてショートカウンターを狙う構図になった。後半の立ち上がりこそ、秋山の縦パスを起点として良いシーンを作れていたが、得点までは至らず。反対に奈良が長野のミスを突いて、深い位置まで進入する場面も出てきた。

追加点 0-2 62分

 奈良のスローインをカットし、攻撃に転じようとした長野。しかし、スイッチとなる縦パスがずれてピッチ中央で奈良ボールに。少ないタッチ数で流れるように右サイドへ展開。寺村の正確なクロスをファーサイドの嫁阪が折り返し、ニアサイドで酒井が潰れると、こぼれ球を山本が押し込んで追加点。素晴らしいショートカウンターの形から奈良が大きな追加点を奪った。
 結果論でしかないが、起点になってしまったのは池ヶ谷のパスミス。前半からどこか意図と合致しないミスが散見され、後半はそのミスが失点につながってしまった。不運としか言いようがないが、昨季の彼のビルドアップを見る限り、らしくないプレーが連続していた。
 また、この奈良の攻撃は、長野もお手本とするべき要素が詰まっていた。近年に限らず、長野がずっと欠けているアタッキングサードでのスピーディーな崩しだ。これを強みにしていた2020シーズンの躍進は言うまでもないだろう。

プレッシングvsビルドアップ

 65分に宮阪・佐藤・進・三田を下げ、山中・安東・高窪・山本を投入。点差が2点に広がり、是が非でもまず1点を返したいという想いが伝わる交代だった。そして、74分には船橋を下げ、原田を投入。この交代に合わせてシステムも若干の変更があったように感じた。基本的な形は、4-3-1-2に変更。奈良の2CBとアンカーを抑えやすい形に整え、前線からのプレッシングを意識した配置になった。
 また、前線に高窪・池ヶ谷・山本と競り合いに強みを持つ選手を配置。逆転に向けて、ある程度アバウトなボールを活用してでも得点を奪いにいく姿勢の表れだろう。

 この交代策の少し前からプレッシングのギアを1段階上げ、奈良のビルドアップに圧力をかける長野。そして、そのプレスを剥がしながら前進していく奈良という構図が生まれていた。この配置変更で、よりその色合いは強くなり、球際のバトルが増えたのではないだろうか。
 このプレッシングvsビルドアップにおいて、優位性があったのは奈良だったように感じる。奈良の配置に対して、人を当てていく守備を長野がとったことにより、それまでよりも「圧力をいなす」奈良の特徴が出やすくなった。3〜4人のコンビネーションで長野の守備網を掻い潜る場面が、奈良の左サイドでよく見られ、攻撃の起点になっていた。
 ただ、ある程度のリスクを背負ってでも奪いに行かなければ、2点差を追いつき、逆転まで持っていくことはできない状況だった。

ダメ押しの… 0-3 76分

 奈良のビルドアップを左サイドで圧縮しきれなかった状況から逆サイドに展開される。RSBの寺村から中央へ差し込み、中央でシュートまで持っていく。こぼれ球に片岡が反応し、杉井・安東の間を通すパスを寺村に送る。PA角から進入した寺村に西村がアプローチをするも、デュエル後のボールは西村の背後にこぼれる。寺村が豪快に左足を振り抜きニア上にシュートを突き刺した。
 奈良にとっては勝利を決定づける追加点。長野にとっては、攻勢をかけ始めた段階でのトドメの3失点目となってしまった。奈良の攻撃ももちろん素晴らしかったが、長野の守備も修正するべき課題が浮き彫りになる場面だった。

10人になっても

 82分、奈良ゴール前でアルナウと池ヶ谷が競り合うと、池ヶ谷のファウルで笛が鳴った。両軍入り乱れてエキサイトした状態になり、池ヶ谷がアルナウを腕で押し倒す形になり、この試合2枚目のイエローカードで退場処分となった。池ヶ谷に出された警告に関しては妥当な判定で、池ヶ谷としては既に警告を受けている選手としては我慢したい局面ではあった。奈良の伊勢とアルナウの強かさに"してやられてしまった"。

 10人になった後も、長野はハイプレスをやめない。何度剥がされて背後を取られようとも必死にスプリントして自陣に戻り、またアプローチをかける。10人かつ0-3という点差、後半残り約10分は、諦めるには十分な要素が揃っている。しかし、長野側から諦めムードは出ていなかった。守備で奔走し、攻撃に使う時間も減らすことなく最後まで戦い続けた。1人少ない代償は小さくなかったが、補って余りあるほどの運動量と執念をチームは見せていた。
 1点さえもぎとれれば、いくらか敗戦の傷も浅くなるといったところだったが、最後まで得点には至らず。ホーム開幕戦で0-3の大敗を喫した。奈良にとっては、J参入後、初アウェイでJ初勝利という大きな成果を残した。

独断評価

個人評価

矢田貝壮貴:4
先制点の献上場面は明らかな判断ミス。DFラインとのコミュニケーションの練度を上げ、個人の経験を積んで改善していきたい。
池ヶ谷颯斗:2
全てのプレーが悪かったわけではないが、今節は特にビルドアップの精細さを欠いた。気持ちはわかるが、2つとも優勝に向けて不用意な警告だった。
大野佑哉:7
3バックでも4バックでも抜群のカバー能力を発揮。奈良のショートカウンターの速さに最も対応できていたDFだった。
秋山拓也:6
右サイドに比べると左サイドのビルドアップは詰まっていなかった印象。スピードでやや遅れをとったが、危なげないプレーでチャンスの芽を摘んだ。
宮阪政樹:5
展開力は相変わらず申し分ない。3-1のビルドアップであれば、より攻撃のリズムを作り出す起点として活躍して欲しかった。
船橋勇真:6
特に前半の20分頃まで、アイソレーションの形から積極的なドリブルでの進入を試みた。副審との相性が悪かったことだけが残念。
杉井颯:6
今節もフル出場。運動量も最後まで落とすことなく走りきった。欲を言えば、クロスの精度やPAに進入した時の迫力がまだ足りない印象。
西村恭史:5
前半は持ち前の推進力を発揮する場面が散見された。一方で、アンカーポジションに入ってからは、守備のデュエルで勝ちきれない不安な一面も。
三田尚希:5
「悪くないプレー」という印象を受けた。前半の失点さえなければ、前半のうちに彼が輝く場面が巡ってきていたのではないか。
佐藤祐太:5
三田と同様に、持ち味を生かしきれたとは言い難い試合になった。それでも、後半の立ち上がりまで円滑な前進を助けるタスクを全うした。
進昂平:5
彼に良い形で配球する場面を多く作れなかったのが痛い。決定的な場面は1つあったが、それ以外は起点作りに終始し、最低限のパフォーマンスといった印象。
山中麗央:5
4枚交代のうちの1人。IHとして上下動を厭わず、攻撃に守備にアグレッシブな姿勢を見せた。アタッキングサードでの落ち着きも彼の魅力だが、シュートを打つ場面が訪れない。
安東輝:6
4枚交代のうちの1人。3バックからのボールピックアップを複数回試みていた。杉井から1列内側のレーンで受けるプレーが秀逸だった。
山本大貴:6
抗議する池ヶ谷を速やかにピッチ外に出すなど、One Team大使としてチームを俯瞰できていた。プレッシングや競り合いも献身的に行い、迫力ある守備に貢献。
高窪健人:6
献身的な前線からのハイプレスを牽引した。背後のコースを消しながら、二度追い、三度追いも厭わない献身性。攻撃での良さが見られなかったのが残念。
原田虹輝:5
RSBとして出場した。フリーな状態でのボール捌きはやはり一級品で、オープンな展開から確実な攻撃に繋げる貢献を見せた。

ORANGE評価

One Team:5
何点取られようと、勝利に向かってピッチ内外で全力で立ち向かう姿勢が見られた。ホーム開幕戦の声援も含めて満点評価。
Run Fast:3
奪いに行かなければならない展開では、奈良を圧倒するスプリントだったのではないだろうか。しかし、ミスが多く有効な結果に繋がらなかったことも少なくない。
Aggressive Duels:2
宮崎戦でもその傾向が少しあったが、「なぜかボールが長野の背後に、相手の前にこぼれる」事象が発生していた。全局面での勝利は不可能だが、決定的な位置でのデュエルにはもっとこだわりたい。
Never Give Up:5
諦めの悪さが全開に伝わってきた試合だった。特に、セットプレー時などに率先してボールセットする山本や安東の姿勢は素晴らしい。勝利に届かなかったが、がむしゃらにボールを追い、勝利を目指し続ける姿勢に満点評価。
Grow Everyday:3
攻撃面での成長は急務になるはず。組織守備の安定感が出てきたからこそ、成長の軸に据えて勝ちきれるチームにしていきたい。
Enjoy Football:2
厳しい試合だったこともあって「楽しむ」よりも「焦り」が先行してしまった印象。まだまだ、3節なので"サッカー小僧精神"に立ち返って暴れたい。

まとめ

 長野は、過去最強のチームを目指す中で手痛い敗戦となった。スコアだけ見れば完敗といった結果だろう。しかし、何もかもが通用しなかったとは思わない。守備ブロックの構築などは明らかにスムーズになっているし、諦めの悪さで言えば、リーグトップクラスだろう。これをどう結果に繋げていくかが、次節富山戦では試される。北九州に対して、3得点を奪い、撃ち合いを制した富山にどう挑んでいくかに注目したい。
 そして、現状においては、"賢守猛攻"に関して無失点が前提に思えてしまう。相手を誘い出すにはイーブン、もしくは長野が先行するスコアを作り出したい。先制された時にどう立ち回るべきかは、攻撃面での成長と合わせて確認していきたい点である。
 奈良は、J参入後、初アウェイゲームでJ初勝利を記録した。フリアン監督が語ったように「リーグに慣れる」ことに成功し始めているのではないだろうか。相手をリスペクトしすぎないで、自分達の磨いたスタイルで勝負する。今節の結果は、その自信のつき方を加速させるものになったはず。次節は、ホームに戻って3連敗中のYS横浜を迎え打つ。確実に勝点3を奪って、連勝の勢いに乗りたい。

 1敗してしまったことは仕方がない。過ぎてしまった結果を変えることは叶わない。そうであれば、もう次の戦いに向かうべきなのである。次の試合からは、36勝1分1敗でシーズンを終えるための戦いになる。スコアは衝撃的かもしれないが、0-1で3連敗するより1億倍ましだ。昨季はシーズン終盤まで連敗することがなかった長野、今季もその強さを見せられるか。そして、連敗を止めることに加え、敗戦直後に勝点3の勢いを掴めるかが、優勝に向けて重要だろう。

獅子よ、千尋の谷を駆け上がれ。

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